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前村大炊ノ介教貫(まえむらおおいのすけのりつら)

 教貫は得意満面であった。

 大炊ノ介の名は得ていたが、幕府内では下役。それが将軍直々の命を受け、極秘の任務に就いた。表立ってではないが加増され手持ちの金子も増えた。それに、裏では幕府の公金も使える。彼の金遣いは徐々に荒くなっていった。

 金の臭いを嗅ぎ付け女衒も寄ってくる。

 悪い気はしなかったが、金は公金とは言え裏金、教貫は遊びはほどほどにしていた。が、酒はよく飲んだ。

 そんなある夜、

 「大炊ノ介様・・・」

 彼を呼び止める微かな女の声が聞こえた。

 振り向いた眼の先に立っていたのは、着物の襟抜きを大きく着こなし、小股の切れ上がった妖艶な美女だった。

 「大炊ノ介様。」

 今度ははっきり聞こえ、その美女は教貫ににじり寄って来た。

 もう一度名を呼び、女の手は教貫の股間に添えられた。

 その手を振り払おうとしたが、チロッと首筋を嘗める女の舌の甘美さに、教貫は抵抗できなくなった。

 「こんな所では・・・」

 それでも教貫は躊躇を示した。

 「この先に小さな(やしろ)がございます。」

 女は彼の手を引いた。


 女の性技は素晴らしかった。教貫は今までに経験したことのない快感を味わった。

 「その方、名は・・・」

 教貫は着物を整える後ろ姿に声を掛けた。

 「行きずりの男と女・・名などどうでもよいことでしょう。」

 女はホホッと笑った。

 「また会えるか。」

 「それはどうでしょう。」

 着物を整え終えた女は社を出て行き、教貫はその後を追った。だが、社の外に女の姿はなく、彼は裸のまま境内に立ちすくんでいた。


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