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千ヶ峰の鬼

 晴海は自身が率いる隊員に屋敷に集まるよう使いを出した。

 「豪壮な屋敷を使っているものだ。」

 巴は晴海の住む屋敷を遠くに見て、溜息を漏らした。

 「坊主と言うからには、俺はてっきり寺にでも住んでると思っていたが・・・」

 紅蓮坊も巴に同調した。

 「借家とは言っていたがな。」

 兵衛が横から言葉を添えた。

 にしても・・・巴はもう一度溜息を漏らした。

 「それに(めい)を受けてから随分時間も掛かっている。」

 紅蓮坊は(なじ)るように言う。

 「色々と準備もあるんだろう。」

 「お前、やけに晴海の肩を持つな。」

 紅蓮坊は兵衛にくってかかった。

 喧嘩はよしなさいよ・・・巴がその間に割って入った。

 「ところで・・・」

 兵衛は遼河とかえでに目を移した。

 「住む所は決まったのか。」

 「まだだ。」

 紅蓮坊の声にはまだ棘があった。

 「それは好都合だ。

 それを口実に今回はあんた達二人は同行を辞退したらどうだ。」

 何だと・・・紅蓮坊は兵衛を睨んだ。

 「それは良い考えね。

 暫く二人でこの子達を守れる。」

 「拙者は晴海和尚とは別に、この子達を守れる者を探してくる。

 それまでは二人で・・頼む。」

 兵衛は路上で二人に頭を下げた。


 屋敷の前の門には棒を持った門番が二人たっていた。

 兵衛はその二人に軽く会釈をした。

 雉と共にいつも出仕している兵衛はその門番とは顔見知りだったが、他の四人は足止めされそうになった。

 「皆、二番隊隊員だよ。」

 兵衛はそう言って四人を紹介した。

 この女童もか・・・門番はかえでを見咎めた。

 「この子の身寄りと言えば、ここに居る遼河しか居らぬ。童であるからこそ・・ここに同行して居る。」

 兵衛は門番を睨み付けた。

 今や兵衛はひょえと呼ばれた奉行所の下っ端与力とは違う。誰もがその腕を知って居る。

 門番はその眼に圧され、道を開けた。


 門を通ると広い庭があり、そこから見える縁側に晴海が座り、庭には雉が立っていた。

 「集まったな。」

 晴海は一同を見渡した。

 「旅仕度は終わったか・・昼前には出立すし、今日中には長岡に入る。」

 「お待ちください。

 私と紅蓮は京に残りとございます。

 かえでは怪我が癒えたばかり。まだ長旅には耐えられません。それに二人は身の拠り所も決まっておりません。

 それ故、紅蓮と私が残り、その世話を致しとうございます。」

 「となると、儂に付き従うのは兵衛と雉だけと申すか。

 我が命とその子供とどっちが大事だと思うか。」

 晴海は巴を叱りつけた。

 「しかし・・・」

 巴は言葉に詰まった。

 「俺が行こう。

 この子らは京を知らん・・しかも子供。

 誰かの手助けが必要だ。

 巴を残し、俺が行けば文句はなかろう。」

 横から紅蓮坊が濁声(だみごえ)を上げた。

 「それで宜しいのではないでしょうか。」

 兵衛も紅蓮坊の言を後押しした。

 晴海は仕方なくそれに肯いた。

 「出立は明日の午前と聞きました。

 しばらくのお暇を・・・」

 それから兵衛は巴と紅蓮坊を誘い、屋敷の外に出た。

 「あれまでが精一杯だろう。あれ以上は晴海は折れぬ。」

 屋敷を出て兵衛は小さな声で言った。

 「晴海はわが身大事・・二人に人は裂かぬ。」

 「巴・・・」

 紅蓮坊が残る事となった巴に声を掛けた。

 「かえでには赤い着物なと着せて、精一杯可愛い格好をさせろ。」

 目立つではないか・・・巴は首を傾げた。

 「目立たせるのだ。

 よもや鬼共もそんなに目立つ姿をしていようとは思わぬはず。

 それと頭巾・・もしも鬼に会ったらかえでの顔を頭巾で隠せるようにしろ。

 何しろかえでは頬に疵痕を持っている。鬼共にそれを憶えさせるな。」

 紅蓮坊の指示は微に入り細に入っている。

 「遼河には黒い着物を着せよ。

 こいつは目立たせぬ事だ。

 いつも陰からかえでを護らせるようにする。

 それに遼河にも頭巾が必要だ。

 とにかく鬼の前に顔をさらさせるな。」

 「筒袴が良いでしょう・・私と同じ・・・

 何と言っても動きやすい。」

 兵衛がそっと言った。

 「俺の頭じゃあこれ以上は解らん。

 とにかくかえでと遼河の存在を鬼共から隠し通してくれ。」

 紅蓮坊の言葉に巴は大きく頷いた。

 「なあに・・二月(ふたつき)もすれば兵衛と俺は帰ってくる。

 それまで・・頼む・・・」

 紅蓮坊は珍しく、深々と頭を下げた。


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