表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/106

剣豪公家(8)

    ×  ×  ×  ×


 「あの経衡という男、どういう素性だ。」

 室町館からの帰り、晴海は雉に尋ねた。

 「中御門明豊(なかみかどあきとよ)の落とし(だね)と言うのは真のようです。」

 雉はそう切り出した。

 母親が下賤の生まれであったため中御門の姓は貰えなかった。

 母親はそれを不憫に思い、せめてもと清磨という貴族風の名を与えた。

 中御門明豊からは幾ばくかの手当てが送られており、親子の生活には不自由はなかった。

 清磨は七歳のころに自身の出自を知り、その頃から剣術を習い始めた。

 清磨が十歳の時、明豊の下向があった。母親は一目父の姿を見せようと、通りに清磨を連れて行った。その時、一人の暴漢が明豊目掛けて走った。

 清磨はその前に大手を広げて立ちはだかった。

 暴漢は包丁を手にしており、清磨は脇腹を刺された。

 それにも係わらず清磨は暴漢を投げ捨て、腹に刺さった包丁を引き抜くや、その暴漢の首を掻いた。

 立ち尽くす明豊の足下に少年は倒れ、その姿に女が駆け寄った。

 「・・・・・」

 明豊は女の名を呼んだ。

 「貴方様の息子です。

 貴方様のことは教えていました。

 それで貴方様を護ろうと・・・」

 女は涙に暮れた。

 「すぐに牛車に乗せろ。」

 明豊は付き人に叫び、そこから自分の館に帰った。

 一時は危篤状況に陥った清磨ではあったが、二月足らずでほぼ快癒した。

 明豊は清磨を身近に呼び、名を聞いた。

 「清磨です。」

 少年ははっきりと答えた。

 「いかにも貴族らしい・・・」

 明豊は口に扇を当てて笑った。

 気丈にも少年はその目を睨み付けた。

 「暫くはその名で良かろう。」

 その眼光の鋭さに明豊はたじろぎ、眼を逸らした。

 「今回の褒美じゃ・・元服の暁には新しい名を取らす。

 但し、傷が完治したら、家に帰れ。」

 そう言って明豊は立ち上がった。

 「帰りません。」

 清磨が大声を上げ、明豊がその声に振り向いた。

 「私は今回同様、貴方様をお守りいたします。

 貴方様が亡くなれば、兄者人を・・・」

 清磨は屹と言った。

 「何を申す・・・」

 明豊は戸惑った。

 「この日のため剣術を習いました。

 庭の隅でも構いません・・ここに置いてください。

 命を懸けてこの館を護ります。」

 「宣胤(のぶたね)を呼べ。」

 明豊はそこに座り直した。

 清磨は座敷を下り、庭先に平伏した。

 そこに若い公家が現れた。

 「何用でおじゃりまする。」

 「宣胤、そこに座れ。」

 明豊は廊下の一角を指さし、仕方なさそうに彼はそこに座った。

 「お前さんの弟じゃ。」

 明豊は席を立ち、庭に平伏する少年を指さした。

 弟・・・宣胤はじっと庭の少年を見た。

 「お前も薄々は知って居ったろう・・・」

 宣胤が頷く。

 「お前とは一つ違い。

 まあいろいろあってな・・・・」

 明豊は笑ってみせた。

 それで・・・宣胤は困惑の表情を見せた。

 「ここに居りたいそうじゃ・・

 お前さんと麻呂を護ると申しておる。」

 剣の腕は・・・宣胤が尋ねる。

 修行中だそうだ・・・明豊が答える。

 宣胤は手を二つ打ち、小姓に何事か伝えた。

 それから暫くすると庭に一人の男と少年が現れた。

 「麻呂の剣術指南役とその弟子でおじゃる。

 立ち会わせてみようではおじゃらぬか。」

 その声に剣術指南役は二本の木刀をそれぞれに投げ渡した。

 指南役の弟子は上段に剣を構え、清磨は正眼に静かに剣を構えた。

 市井の者と侮ったか、弟子は無造作に打ち込んだ。

 その脚を払い、斃れた弟子の喉元に清磨は剣先を突きつけた。

 そこまで・・・指南役が声を上げ、宣胤の耳元に何かを囁いた。

 「父上、出仕させては如何でおじゃろうか。

 ここで、修行を積み、父上若しくは麻呂の身近に置いては・・・」

 「まず身なりを調えさせることじゃな。」

 明豊は庭先に金入れを投げ捨てた。

 それから清磨は帯刀を赦されて中御門館に出仕し、明豊の下向に付き従い、暴漢や強請たかりから彼の身を守った。

 この長禄三年明豊が亡くなると宣胤に仕え、中御門を名乗ることを赦された。


 「経衡(つねひら)と言う名は。」

 雉の話しを聞き終え、晴海は尋ねた。

 「結局、名は貰えず、自分でそう名乗ったようです。」

 そうか・・・とだけ声を発し晴海は自身の屋敷に帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ