剣豪公家(3)
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紅蓮坊が黒褐色の鬼を斃した頃に、各所の鬼は退散していた。
鬼を退治した者達は三々五々御所に集まっていた。
室町御所を守り抜いた御庭廻隊。それに前村教貫を警護した木村一八は当然兵部の役所の庭に最初から居た。
そこに芳川喜一郎が現れた。
「その方、儂を守りもせず何処に居った。」
怒鳴りつける教貫の前に、喜一郎は数個の邪鬼の首を投げた。その中には赤鬼の首もあった。
次に安藤宗重が率いる京見廻組、一番隊が到着した。が、そこには城之助の姿はなかった。
「赤鬼を討った。」
宗重は誇らしげに言った。が、それは城之助の力を借りたものだった。
それからも続々と鬼の首を持った者達が庭に入ってきた。
そこに太鼓の音がどんと鳴った。
教貫は何事かと辺りを見廻した。
将軍様のおなり・・・将軍義政つきの小姓が大声を上げ、そこに居る者達は皆、平伏した。
「鬼は全て討ったか。」
将軍義政は苛立たしげに言った。
「一部は逃げ去りました。」
平伏した宗重が上目遣いにちらっと義政を見た。
「またか・・・
飯盛山で逃がした鬼達が集結してここを襲ったに違いない。
それらをまた逃がすとは・・・」
義政は感情を顕わにする。
「宗重、そちは何のためにその役職について居る。」
言われた宗重は床に頭をこすりつけた。
「鬼と戦えるものが余りに少のうございます。」
その横から晴海が声を上げた。
その声に義政は庭を見渡した。
そこには手負いの者達も少なからず混じっていた。
「むさい・・・傷を負った者達は詰め所に帰れ。」
義政は京の街のために戦い、傷を負った者達に、その功は言わず、敗者然としたその姿を嫌った。
「そう申すものではおじゃらぬ。」
内裏で活躍した公家が廊下を渡って来た。
「皆手柄を持って来ておる。
麻呂もな。」
そう言ってその公家は首を一個、庭に投げた。
その首は人の額に瘤がついたものだった。
「人鬼ではあるまいか。」
晴海が声を上げた。
「その通りでおじゃる。」
公家は大きく笑った。
「何者だ。」
義政は大声を上げた。
「おや、麻呂をご存じないとの。」
公家はにやりと笑った。
「後花園天皇の側近、中御門明豊が子経衡でおじゃる。
兄は宣胤と言い、幕府との連絡役となっていたはずでおじゃるが・・・」
義政の顔が苦笑いに変わった。
「鬼が逃げたことでおじゃるが・・・
ここに来る途中で麻呂が先程の首を討った。そのためでおじゃろう。
首領をなくして他の鬼共は逃げ去った・・そんな所でおじゃろう。」
ほんとうか・・・安藤宗重が内裏に向かった奥村左内にそっと尋ね、左内はそれに肯いた。
「そこには悪鬼の首もあるようでおじゃる・・それも鬼が逃げた理由の一つではないかの。」
経衡と名乗った公家は一際大きな首を指さした。
「だが討ち漏らしたことには変わりがない。」
義政の声が大きくなる。
「それは鬼と戦えるものが余りに少ないからでおじゃろう。」
経衡の声に義政は晴海を睨んだ。
余計なことを・・・晴海は心の中で舌打ちをした。
「教貫・・後は任せる。
良きに計らえ。」
義政はドスドスと跫音を荒げて、奥へと去った。
「後ほどお願いに上がりまする。」
経衡はその後ろ姿に無遠慮に声を掛け、そのままそこに座り込んだ。




