剣豪公家
内裏に走った奥村左内の眼に建礼門(内裏の表玄関)の前で邪鬼、小鬼、餓鬼を相手に立ち回る僧兵団の姿が映った。
その中心に居るのは公家。
「他の門にも僧兵を配しておじゃる。」
その公家は赤く染められた唇を緩め、鬼と戦っているにも係わらず、軽く手を挙げた。
その剣捌きは鋭かった。餓鬼や小鬼は僧兵に任せ、自身は次々と邪鬼を屠っていた。
建礼門の前には餓鬼や小鬼、邪鬼だけではなく、三匹の赤鬼を従えた緑鬼が居た。
三番隊の隊員は何人かを除いて、邪鬼には分が悪い。屈強な僧兵達も邪鬼には通用しても赤鬼には弾き飛ばされている。
そんな中で左内は赤鬼に剣をつけた。その横には国立京ノ介も居た。
どう戦う・・・左内は京ノ介の顔を見た。
「ただ斃すのみです。」
京ノ介は毅然と言った。
左内の剣は少しずつ赤鬼を傷つけていった。
「ほーほほほほっ・・・
鬼を斬るのにご苦労でおじゃるか。
鬼はな・・・」
公家風の男は赤鬼が金棒を振り上げた隙をつき、その胴を横に払った。
「こう斬りまする。」
そう言ってまた笑ってその首を取った。
ここまで数多くの邪鬼を斬り、左内の刀はぼろぼろに刃こぼれしていた。
それに比し・・・
左内は自身の刀を見て舌打ちを洩らした。
公家風の男の太刀はざっくりと何の抵抗もなく邪鬼を斬り斃していく。
京ノ介の太刀もまた豆腐でも切るように邪鬼の身体を斬り裂く。
「これを使いなされい。」
剣を鞘に収めた公家がそれを左内に投げよこした。
「貴方は・・・」
「心配ない。
もう一本持っておじゃる。」
公家は左内に投げよこしたよりも短い剣を腰の鞘から引き抜いた。
「この方が動きやすいでな。」
公家はにやりと笑い、赤鬼に正対した。
赤鬼に技はない。ただその力に任せ金棒を振ってくるのみ。公家はそれをひらりひらりと躱している。
負けじと善六も受け取った刀の鞘を地面に突き立て、抜いた刃を赤鬼に向けた。
赤鬼の力は凄まじい。空をきった金棒が庭石に当たるとそれが真っ二つに割れた。
剣で受けることは出来ぬ・・左内はそう考え両足の踵を僅かに上げた。こうすることで動きが素速くなるはず。だが、その分体力も使う。それ故、勝負に時間は掛けられない。
ぶんぶんと振り回す五尺程の金棒をかいくぐって赤鬼に迫る。
勝負は一太刀・・・左内はそう覚悟を決めた。
それまで大きく躱していた身体の動きを、少しずつ小さくする。
寸前で躱せば躱す程、赤鬼の体勢が乱れる。
そうそう、その調子でおじゃる・・・揶揄するような、励ますような、公家の声が聞こえる。
その公家はもう既に、赤鬼を一匹退治している。それは京ノ介も同じだった。
負けては居られぬ・・・左内はぎりぎりで赤鬼の金棒を躱した。
鬼は当たったと思ったのか大きく体勢を崩した。
左内はその隙を逃さなかった。
斬れる・・・左内は舌を巻いた。
邪鬼にさえ苦労していたにもかかわらず、公家から受け取った太刀はあっさりと赤鬼を斬り裂いた。
「その太刀・・宜しければ差し上げましょう。
但し条件はありますが・・・」
公家は薙刀を使う緑鬼を相手にしながら言った。
公家が使う刀の刃長は二尺三寸五分。他の太刀に比べれば短い方だった。その太刀と長めの脇差しの二刀を手に緑鬼に立ち向かっている。
どう戦うのか・・・再び邪鬼に立ち向かいながら左内はちらっと公家を見た。
公家は緑鬼の薙刀を易々と躱し、あるいは受け、あるいは剣を持って逸らした。その姿はまるで緑鬼を揶揄しているようにさえ見えた。
そして、一瞬の刃の煌めきの下、緑鬼は斃れた。




