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襲撃

 巴達が京のはずれに着いた時には既に飯盛山の鬼退治は終わっていた。

 「晴海和尚に会いに行くか。」

 紅蓮坊は牛の鼻輪を曳きながら言った。

 その隣には巴が居た

 「兵衛もいるしな。」

 紅蓮坊のその声には自嘲的な響きもあった。

 「何を萎れているんだ。

 兵衛でないと遼河にもかえでにも剣は教えられないだろう。」

 紅蓮坊はその言葉に頷くしかなかった。

 そうやって道行きを続けながら、四人は京に向かった。

 京が近づくにつれ、それまではしゃいでいたかえでの口数が少なくなり、遂にはしくしくと泣きだした。

 どうしたんだい・・遼河が心配げに声を掛けた。

 「いっぱい、いるの。」

 それがかえでの返事だった。

 その声に誘われたのか、小鬼が数匹現れた。

 それらは紅蓮坊が全て叩き伏せた。

 「遼河にもやらせなさいよ。

 訓練にならないでしょう。」

 巴の言葉に紅蓮坊はまた萎れかえった。

 「まだいる・・・」

 かえでがぽつんと洩らした。

 「泣かないで・・私達が居るから。

 泣き止んでどの人が鬼か教えて。」

 巴は優しく声を掛けた。

 私達が居る・・・その言葉に勇気づけられたのか、かえでは震える指先を上げた。

 その指先には着流し姿の侍の姿があった。

 「かえで、正体を暴いて。」

 遼河がひそっと言った。

 「かえでにあの力を使わせるな。

 使えば鬼共はかえでを襲ってくる。

 巴、お前の呪符で何とかなるか。」

 野太い声がそれを抑えた。

 巴が懐から一枚の呪符を取りだす。

 「遼河、鬼が姿を現したら、お前が斃せ。」

 紅蓮坊は肩に担いだ遼河の木刀を取り、前に押し出した。

 遼河は後ろ腰に差している、短い剣の柄に手を掛けた。

 鬼の大きさは人と同じ位、手には剣をさげている。

 「人鬼よ・・遼河一人じゃぁ危ない。」

 巴は紅蓮坊に加勢する様言った。

 「いいや、遼河にやらせる。

 危なくなったら手助けはするが、遼河が主だ。」

 紅蓮坊は六尺棒を左手に持ち替えてどんと地面を突き、右手は腰の短刀に添えた。

 遼河は二本の剣を逆手に持ち、人鬼と呼ばれる鬼の前に立ちはだかった。

 人鬼は手の中で太刀をぐるんぐるんと回した。

 どうする・・相手の剣は長い。懐に飛び込むしかない。が・・・遼河は悩んだ。

 「逆手に持てば剣の出所は判りにくいが、間合いは不利になるぞ。」

 紅蓮坊が飛ばす声に、遼河は右手の剣だけを順手に持ち替えた。

 左手の剣で防御、右手で攻める・・・遼河は覚悟を決めて一歩踏み込んだ。

 頭上から(やいば)が落ちてくる。

 思案した通りにそれを左の剣で受ける。

 ガキッと火花が飛ぶ。

 それと同時に右手の剣を横殴りに振る。

 届かない・・・

 「剣で受けたら駄目よ。なるべく躱す。

 そうしないといつかは剣が折れるわよ。」

 巴が注意を与える。

 そう言われても・・・遼河が唇を噛む。

 今まで戦った相手は武器は持っていなかった。・・初めて武器を持った相手と戦う。

 その緊張感に遼河の額に汗が浮かぶ。

 踏み込みを・・・

 もう一度遼河は踏み込んだ。

 今度は右胴を狙われる。それを左手の剣を回して受け、そこからもう一歩踏み込む。

 僅かに剣先が届き、人鬼の着物を斬り裂いた。しかしそれだけ・・・

 「頑張れ遼河・」

 紅蓮坊の大声が耳に届く。

 「また受けた・・今のが赤鬼の金棒なら剣は折られているよ。」

 「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。

 遼河は頑張っているのだから。」

 「頑張っているだけでは駄目なのよ。

 あんたのはただの応援。私は助言してるんです。」

 「りょうが、よこ。」

 二人の言い争いのうしろからかえでの声が聞こえた。

 「横・・・」

 遼河はすっと右足を横に動かしてみた。

 それに人鬼が反応する。

 「あなたの動きはもう読まれているよ。」

 巴が心配げな声を掛け、紅蓮坊は腰の短刀を指先で掴んだ。

 「だいじょうぶ。」

 その後ろからかえでの声。

 遼河は右足を左に踏み込んだ。

 それに人鬼が反応し、僅かに体勢が崩れる。

 左に行くと見せかけ、遼河は大きく右に踏み込んだ。

 人鬼は遼河の右手の剣を受け流し大きく剣を振り上げた。

 それまで受けだけに使っていた遼河の左手の剣が、伸びきった人鬼の右胴を払った。

 ぼとぼとと人鬼の瘴気が斬り裂かれた腹から溢れた。

 ぱちぱちとかえでの拍手の音が聞こえた。

 遼河はふーっと大きく息をはき、その後に息を吸い込んだ。

 いつから息を止めていたのか・・遼河には判然としなかった。

 りょうが、すごーい・・・耳にはかえでの声だけが残っていた。


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