鬼猫又(3)
「かえで・・ごめんよ、かえで・・・」
紅蓮坊の腕の中で傷口を押さえている遼河も涙を零していた。
駆け込んだ社は小さなものだった。
「何か寝かす物は・・・」
巴は辺りを見廻した。
が、そこに怪我人を横たえさせる物などない。
巴は胴着を脱ぎ、床に敷いた。
胴着を脱いだ巴の上半身は、乳房を隠すように、さらしが巻かれているだけだった。
その姿に紅蓮坊の眼が泳いだ。
「これしきの姿にうろたえるな。
布が来なければこのさらしも取る。」
巴がぴしゃりと言い、自分の道具入れから針と糸を取り出した。
「どうする気だ。」
紅蓮坊が大声を上げる。
「縫う・・縫ってその上にきつく布を巻き付ける。
血を止めるにはそれしかない。」
「焼いたが速くないか。」
「おなごの顔を焼けというのか。
縫っても傷跡は残る・・だが、焼け爛れるよりましだ。」
そう言いながら、巴はじりじりとしながら老爺の訪れを待った。
頼んでおいた布が来ない。
巴は意を決して胸のさらしに手を掛けた。
「待たせたのう。」
そこに先程の老爺が入って来た。
手には何枚ものさらしが握られていた。
「助かりました。」
頭を下げる巴の目に、心配そうに社を覗き込む村人の姿が映った。
「あのう・・これを使って貰えれば・・・」
その内の一人が社に入ってきた。その背には薄っぺらい布団があった。
「幾人かは儂の話しを聞いてくれた。その内の一人がそいつだ・・えらく感動しな・・・」
巴が頭を下げる横で、
「助かるのか。」
紅蓮坊が大声を上げた。
「助かる・・と思う。」
「かえで・・かえで・・・もうあの剣は使わないよ。」
遼河はまだかえでに取りすがって泣いている。
じゃまだ・・・巴は遼河を撥ね除けた。
「外に女はいないか。」
巴は社の外に声を投げかけ、その声に、はい・・と三つ程返事があった。
「手伝ってくれ。
紅蓮は遼河を連れて外に出てくれ。」
おう・・と、返事を返し紅蓮坊は脇下にひょいと遼河を抱えて社の外に出た。
「男だろう・・何時までも泣くな。」
社の境内に遼河を投げ捨て、紅蓮坊は強く叱った。
「だって、かえでが・・・俺のせいで・・・」
「助かる・・と、巴が言った。
だから、かえでは必ず助かる。
何時までも泣くな。
俺はちょっと出かけてくるが、お前はここを護っておれ。」
何を思うのか紅蓮坊はその場から駆け出した。
遼河は社の板段にぽつねんと座った。
じゃまよ・・・女達が忙しげにたち振る舞う。ある者は清水を汲んでき、ある者は湯を湧かし、それを社の中に運んで行く。
ここにも遼河の居場所はなかった。
遼河は腰の二本の剣を抜き、社の木立に無茶苦茶に斬り付けた。
「止めなされ。」
老爺が後ろからそれを抱き止めた。
「俺があの太刀を使わなければ・・・」
「そうしていたら、二人とも死んでいた。」
老爺は遼河の肩を抱いて、木の根に座り込んだ。
遼河はその胸に顔を埋めた。




