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飯盛山の鬼退治(6)

 京見廻組の屯所にも酒肴は運び込まれていた。

 「慰労のためと言うことだ。

 大いにやろう。」

 安藤宗重が皆にそれを披露した。

 この日戦いに出た、一番隊、二番隊の隊員を中心に席は盛り上がりを見せていた。

 そんな中、屯所の上がり口に身の置き場もなく国立京ノ介は座っていた。

 (四人も死に、怪我人も多く出たのに・・・)

 京ノ介は忸怩(じくじ)たる思いで奥の宴会を見ていた。

 酒を酌み交わす者達の中には腕を吊った者もいる。それどころか、その奥で呻き声を漏らしている者までが居る。

 そんな中で、よくも・・・・

 そこの小僧・・・誰かが自分に声を掛ける。

 京ノ介はその声を無視した。

 「赤鬼一匹斬ったからと言って、偉そうにしていやがる。」

 一番隊の隊員、元伊東玄白(いとうげんぱく)の弟子が酔いに任せて立ち上がり、木刀を手に取った。

 「のこのことここまで着いて来やがって・・立て。」

 その男はもう一本の木刀を京ノ介に投げた。

 京ノ介は嫌々それを手に取った。

 「何故来た、京ノ介。」

 そこに国立清右衛門が駆け込んできた。

 それに救われたように京ノ介は構えた木刀を降ろした。

 「郷里に残れと言ったはずだ。」

 「伊吹には父も健在。尚且つ母、それに二人の姉もございます。」

 京ノ介は清右衛門の言に強硬に言い放った。

 「父は病弱、残るは女三人・・どうやって家を守っていけようぞ。」

 「兄上の働きで、下男も雇えました。私もその一助になればと。」

 「お前が家を守ることが全ての助け・・そう思い命じたはずだ。」

 「兄上だけ、家を離れ・・・

 (ずる)うございます。」

 京ノ介は尚も食い下がった。

 「腕もたたない者が、私と同じ様に働くなど、もってのほか。

 京ノ介剣を取れ。」

 清右衛門は京ノ介に促した。

 国立家は没落貴族であった。

 南北朝の時代、南朝に着いたために京を追われた。

 その時代、国立家は政治的にも軍事的にもさしたる功績は治めておらず、そのため多くの詮議を受けることなく伊吹山の寒村に引き籠もった。

 国立家に(かしづ)く者は徐々に減り、寒村の中で何の力も持っていなかった。

 そんな中に生を受けたのが、清右衛門と京ノ介の父だった。

 彼は早くから剣術に目覚め、身を起こそうと考えていた。

 しかし、生来の病弱・・自分の剣技を後に残すため、彼は病をおして清右衛門に技を伝えた。

 清右衛門は父の期待に応え、めきめきと腕を上げた。

 その稽古の様子を見て、京ノ介は独自の剣を突き詰めていた。

 清右衛門とは姉二人を挟み、六歳違いの十四歳。兄の姿にあこがれ、彼も又郷里を出た。

 「臆したか。」

 木刀を手に下を向く京ノ介に清右衛門は鋭い声を掛けた。

 仕方なく京ノ介は木刀を構えた。

 兄、清右衛門の正眼に対し、上段の構え。京ノ介は大きく木刀を振り上げた。

 「待ちなされ。」

 宗重がその間に割り込んだ。

 「今日は鬼を退治した目出度い日、そこで争いなど・・・」

 仕方なく清右衛門は木刀を降ろし、京ノ介は、ほっと息をついた。


 翌日、御庭廻隊、京見廻隊は兵部の役所の庭に集められた。

 前日の褒美は鬼木元治だけであったが、今日はそれぞれの活躍に応じに褒美が与えられるという。

 最初に教貫に名を呼ばれたのが村田善六。

 彼は扶持を加増され、それに続く鬼木元治も同様の沙汰が下った。菊池主水の介、相良市之丞には一時金が下賜された。

 「大井彦正・・」

 呼ばれた彼も得意満面に頭を下げた。

 「その方はその体調を偽って後方へと退()がり、隊を苦境へと(おとしい)れた。

 よって降格、京見廻組預かりとする。

 その扱いは安藤宗重の一存とする。」

 その後も褒美の沙汰は続き、最後に国立京ノ介の名が呼ばれた。

 「その方、有事を見極め、よくぞこの変に駆けつけ、さらに赤鬼を討った。よって京見廻組に取り立て、さらに一時金を与える。」

 その沙汰に京ノ介の顔はぱっと明るくなった。

 そこまでを聞き、晴海は立ち上がろうとした。

 「お待ちを・・まだ二番隊の沙汰が済んでおりませぬ。」

 晴海はもう一度自分の席に座った。

 「晴海和尚、その方の眼にかなった者の殆どが鬼を伐った。素晴らしき眼力である。」

 晴海は喜色を見せた。

 「今申したこと、これは将軍様直々の言葉である。今後の沙汰も同じ様に将軍様の言葉である。」

 教貫は懐から書き付けを取り出し、それを開いた。

 「天院坊晴海・・・」

 教貫はその書き付けを読み始めた。

 「その方の眼力、抜群である。よって、今後も諸国を巡り、鬼を伐つ者を探すこと。」

 帰京はならなかった・・晴海は平伏したまま下唇を噛んだ。

 「俸給は倍とし、銭をもって与える。

 また、旅の資金とし、年に金子五十枚を与える。これは如何様に使おうとその方の自由である。」

 今回はそれで良しとするか。芳川喜一郎が増え、後一人増やして自身の組織を作り、京に帰る・・晴海は胸算用をした。

 「芳川喜一郎。」

 続いて新参の喜一郎の名が呼ばれた。

 「その方、晴海の眼にとまり赤鬼を討ちし働き見事である。

 よって今後、兵部の直参とし前村兵部ノ丞教貫に仕えること。」

 それは・・・晴海は顔を上げ、思わず声を発した。

 「先程も申した通り、これは将軍様直々の令である。

 異議など唱えればどうなるか解っていような。

 将軍様は今回の変に於いて、儂の立ち回りの遅さをお叱りになった。

 その上で、儂の、身の回りの者の少なさを考えての措置である。

 ゆめゆめ自我を通すこと無きよう申しつける。」

 それから書は並木掃部ノ兵衛義貞に及び、他の二番隊員に及んだ。

 そこまでを聞き、全員は立ち上がろうとした。

 「待て、話はまだある。」

 教貫はそれを手で抑えた。

 「これは内々に斯波様からの言づてである。

 今回死亡した者の家族には金一封を取らせ、不虞となった者には僅かながらの年金を与えるとのことであった。

 それも付け加えて知らせておく。」


 やられた・・・兵部の役所を出、旅の身支度を調える晴海は、苦々しげな顔をしていた。


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