飯盛山の鬼退治(3)
鬼退治の隊は京に凱旋した。
最初に現れたのは御庭廻組一番隊。村田善六を先頭に、鬼木元治が飯盛山の山村で拾った馬の脇に討ち取った青鬼の首を結わえ付け、その手綱を引いている。その後ろには相良市之丞、菊池主水の介と続き、足を引き摺る大井彦正には誰も見向きもしていなかった。
その後ろには馬に跨がる、兵衛と喜一郎。
最後に続くのが京見廻組の二隊。だがその姿は見るも無惨なものだった。
十六人で参加した京見廻組の隊員は半数近くの九人に減り、その外、殆どの者が手傷を負い、死人を乗せた戸板を引き摺っていた。その中で、安藤宗重だけは無傷・・その後ろで、城ノ介は一本のすすきを口に咥え、素知らぬ顔で歩いていた。
そして最後尾、美しい少年が物珍しそうにあたりを眺めながら歩いていた。
一行は室町御所の御門を潜り、兵部の役所の庭に集合した。
「ごく・・・」
「ご苦労におざった。」
數貫の言葉を押さえつけ、晴海が口を開いた。
「晴海殿、僭越でござろう。」
數貫は気色ばんだ。
「上様のおなり。」
その声をかき消すように、将軍着きの小姓がありったけの声を発した。
最上段の畳の前に座る數貫を始めとし、座敷に居る者達は一斉に頭を下げ、庭に居る者達は地に膝を着け、頭を垂れた。
「鬼の成敗は終わったか。」
将軍義政は誰ともなく声を掛けた。
「・・・」
「終わりましてございます。」
声を発しようとした數貫に先んじ、晴海が声を上げた。
列んで座る晴海を數貫は横目で睨み付けた。
「兵部ノ丞、ご苦労であった。」
義政は先に數貫に声を掛けた。
頭を下げながら晴海を睨んでいた數貫の眼が喜色を表した。
「晴海も大和路より良くここまで戻った。
聞けば、御所内の差配もその方の手であるとか。」
今度は數貫は舌打ちでも漏らしそうな顔をした。
「そちの隊、並木掃部ノ兵衛も新たに加わった者も此度は活躍と聞いた。」
「新たなる者は芳川喜一郎と申します。
庭に控えさせております。」
晴海は得意げに言った。」
「が・・しかし、その方の隊にはまだ部下が居ったはずじゃが。」
痛い所を突かれた・・と晴海は思った。
が、そんな事はおくびにも出さず、
「大和路の猫又に襲われた村に残して参りました。」
と、深々と頭を下げた。
「何故じゃ・・京が危ないと言うに。」
義政は詰るように言った。
「京の街は教貫殿に任せておけば安心・・そう思いました故。」
晴海は心ならずそう言、教貫は勝ち誇った笑いを床に向けた。
「将軍様は元より、民草を守るのも大事・・それにより民草は将軍様に感謝いたします。
これも将軍様の人望を上げる一つの手立て・・・」
晴海は巧く言いつくろった。
「兵部ノ丞、御所の護りにいささか手落ちがあったようじゃのう。」
今度は教貫が苦い顔をする番となった。
「私の手元には木村一八兼定しかおらず、いささか手が回りきれぬ所もございました。」
「まあ良い。
その方が揃えた部隊が見事に鬼を伐ったのも事実じゃ。」
教貫はホッと胸を撫で下ろした。
そんな事にか係わらず、義政は上段の畳を立ち、庭近くに歩いた。
もったいない・・・教貫と晴海は膝を曲げその後を追った。
「首尾を聞かせて貰おうか。」
義政は庭に佇む者達に直説声を掛けた。
村田善六が膝を着いたまま前に出た。
「鬼の首魁青鬼を討ち取ったのは、我が隊の鬼木元治でございます。」
善六は自分の手柄でもあるようにそう言った。
「ほう、鬼木とな。」
義政は感心ように頷いた。
「晴海が推していた男よな。」
「左様でございます。」
後ろから義政を見上げる眼が得意げに光った。
「誰ぞ・・・」
義政は小姓を呼びつけ、何かを指示した。
暫くして小姓は一振りの刀を持って戻ってきた。
義政はその小姓に顎をしゃくり、小姓は鬼木元治の前にその刀を持っていった。
「備前長船が逸品じゃ。
少々長くはあるが、お主なら使いこなせよう。」
御前試合の闘いぶりを思い出しながら、義政はそう言った。
「有り難き幸せ。」
元治は刀を押し頂き、深々と頭を下げた。
「後は聞き取って報告に参れ。」
義政は教貫と晴海に声を掛けて、その場から引き取った。




