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飯盛山の鬼退治(2)

    ×  ×  ×  ×


 善六が率いる隊は飯盛山の麓に着いていた。

 そこには多くの餓鬼が(たむろ)していた。

 その中に斬り込む。

 先鋒は京見廻組二番隊・・彼等は公募の者が多く、その腕はそれ程のものでもなかった。

 が、その中にも鬼を斃す力を持つ者もあった。

 まず現れたのが餓鬼・・数は多いがその力は大したことはない。二番隊隊員達はどうにかそれらを斃していった。

 次に現れたのが小鬼。身体は小さいが戦闘力は餓鬼より遥かに高い。二番隊隊員の殆どはこの敵に苦戦しだした。その中で二人の若者が小鬼を楽々と斃している。

 それを助けるため、京見廻組一番隊が参戦した。彼等の腕は二番隊の者達を凌ぐ。

 技量の差で小鬼達を斃していく。だがその中にも鬼を斃す力を持たない者もいて、彼等は小鬼に対し苦戦している。

 ぼつぼつと小鬼より妖力の強い邪鬼が現れ始める。

 餓鬼、小鬼は倒せても、邪鬼に対抗できる者は京見廻組には殆どいない。

 当然、安藤宗重の身近にも邪鬼が迫ってくる。他の者を見ると、それなりに腕が立つ者達は、邪鬼の攻撃を躱しそれに斬り付けている。だがその剣は邪鬼に傷一つつけられない者もいる。

 自分の能力は・・・

 鬼に通用するのかと宗重は思う。

 「あんたは守ってやるよ。」

 傍らに立つ城ノ介は彼にそっと耳打ちをした。

 城ノ介が手にしているのは木刀。腰には脇差ししかない。しかしその木刀で次々と邪鬼を叩き伏せていく。

 行くぞ・・それを見た村田善六が自分の部下に声を掛け、先頭を切って駆け出した。

 その眼の先・・

 「やあやあ我こそは国立清右衛門が弟、京ノ介なり、尋常に勝負。」

 気負った声が京見廻組二番隊の中から響いた。

 馬鹿か・・そう嘲笑いながら相良市之丞は邪鬼を斬り捨てた。

 京ノ介と名乗った少年も邪鬼を斬り捨てる。

 やるな・・善六の心は益々逸った。

 善六の後に続くのは御前試合で見いだされた者達ばかり、その腕は何れ劣らず達った。

 餓鬼は殆ど斃し尽くし、小鬼も残りわずか・・だが、邪鬼の力に対抗できる者はそうはいない。

 苦戦は続いた。

 御庭廻組一番隊でも大井彦正が手傷を負った。

 その頭上から鉄棒が襲ってくる。それを庇おうと、菊池主水の介の剣がそれを受けた。

 だが、彼は身体ごと弾き飛ばされた。

 彦正は観念した。

 しかし、彼の頭上に鉄棒を振り上げた赤鬼を鬼木元治の剣が両断した。

 赤鬼・・・安藤宗重はその姿を見て絶句した。

 赤鬼は膂力に優れ、その皮膚は硬く力を持った者以外の刃は通さないという。

 自分の剣は通じるのか・・宗重は怖気を振るった。

 大したことはないよ・・その横で城ノ介は呟いて見せた。

 多数の邪鬼を率いた赤鬼は五体いた。その内の一体をたった今、鬼木元治が斬り捨てた。

 だがその部下の邪鬼は残っている。それに後四体の赤鬼・・御庭廻組、京見廻組の隊員達の殆どはその姿に恐れをなしていた。


    ×  ×  ×  ×


 晴海は自身の馬のくつわを雉に握らせ、飯盛山に向け急いでいた。

 その頭の中には、後に残してきた紅蓮坊達のことは欠片もなかった。

 村田善六・・・

 前村數貫との政争に負け、その上、一番隊にだけ手柄を立てさせては・・・・

 「兵衛、喜一郎、先に行け。」

 晴海は前で待っていた二頭の馬の背に声を掛けた。


    ×  ×  ×  ×


 安藤宗重の横には付かず離れず、常に城ノ介が居た。

 彼は木刀しか使わない。それでありながら邪鬼を次々と叩き伏せていた。

 彼の餌食になった邪鬼の姿は凄愴を極めた。その屍体、殆どが頭を割られ、目玉が飛び出ていた。

 このほかに善戦しているのは鬼木元治、そして国立京ノ介と名乗った若者、相良市之丞、

菊池主水の介。御庭廻組一番隊の中では既に大井彦正は負傷のため脱落している。

 安藤宗重も城ノ介の力を借り、邪鬼を数体斃していた。

 しかし、相対的には鬼との戦いは苦戦していた。

 そこに二頭の馬が駆け込んできた。

 兵衛と喜一郎、二人は馬を降りるなり邪鬼を斬り斃した。

 「首領はどこだ。」

 兵衛が大声で質す。

 「青鬼・・だがその前に赤鬼を斃さねば・・・こいつらが京の街に入ったら大変なことになる。」

 村田善六の声が遠くから響いた。

 残り四匹の赤鬼・・その一匹の前には既に国立京ノ介が迫り、兵衛と喜一郎もそれぞれ赤鬼に狙いを定めた。

 残る赤鬼には安藤宗重の手をひき、城ノ介が向かっている。

 この五人は、邪鬼を斃しながら前へ前へと進んでいる。

 そのため他の者達への負担はいささか軽くなっった。

 一方、鬼木元治は邪鬼を斃しつつ、先へ先へと向かっているように見える。


 最初に赤鬼に取り付いたのは安藤宗重。彼の左手は城ノ介に握られ、仕方なく赤鬼の前に立った。

 邪鬼は武器を持たぬが、赤鬼には鉄棒という武器があり、それを力任せに振り回している。

 「これを使え。」

 城ノ介は自分の腰から長めの脇差しを抜き、宗重に渡した。

 彼は震える手でその脇差しを握った。

 今だよ・・・城ノ介は宗重の背を強く押した。

 蹈鞴(たたら)を踏んで宗重は赤鬼にぶつかった。

 手にしていた脇差しが赤鬼の腹を貫いた。

 抉れ・・城ノ介は命じるように言い、宗重はその声に従った。

 赤鬼の咆吼が響き、その鬼は膝を着いた。

 柔らかいものでも切るように、脇差しは易々と赤鬼の肩口までを斬り上げた。

 「自信を持て。

 あとは邪鬼に向かい、他の者を助けるぞ。」

 城ノ介は宗重の手から自分の脇差しを取り、ビュッと一閃して鬼の血を振り飛ばした。


    ×  ×  ×  ×


 飯盛山に向かうと思われた晴海は室町御所の門前で馬を止めさせた。

 門を入ると左手の奥、目立たぬ所に前村數貫(まえむらのりつら)を主とする役所がある。

 晴海は雉を従えそこに向かった。

 「飯盛山へも向かわず、何をしにここに来た。」

 數貫の眼がジロッと晴海を睨んだ。

 「飯盛山で討伐できなかった鬼達がここに押し寄せてくるかも知れぬ。

 その用心のため雉と共にここに来た。」

 晴海は旅草鞋を脱いで傍若無人に廊下にあがり、座敷の端で、數貫に背を向けて座り込んだ。

 「貴方こそここで何をして居られる。」

 背を向けたまま晴海は數貫に資した。

 「飯盛山の吉左右を待って居る。」

 何もせずにか・・晴海の肩が揺れたように見えた。

 「斉藤蔵人殿はどうしておられる。」

 「御門の守備に着いているはず。」

 「そこを通って来たが誰も居なかった。」

 晴海はわざとのように首を傾げた。

 「木村一八(きむらいつぱち)。」

 晴海は數貫の右前に座る男の名を呼んだ。

 はっ・・・一八兼定(いつぱちかねさだ)は以前の経緯もあり、晴海の背に平伏した。

 數貫はそれを快く思わなかった。

 「詰め所に行き、国立清右衛門を呼んでくれ。」

 一八兼定はすぐに立ちかけた。

 「その必要はない。」

 數貫は苛立たしげな声を上げた。

 「大和路に於いて・・・」

 晴海が何を言い出すのか・・一八は數貫の制止を振り切り、そこから駆け出した。

 呼ばれた国立清右衛門が座敷に入ってきた。

 「前村殿から何か指示はござったか。」

 背を向けたまま晴海が問う。

 何も・・とだけ清右衛門は答えた。

 「蔵人長光(くろうどながみつ)殿に進言し、上様の居室を固めよ・・そうそう、これは儂の言でもあると伝えよ。」

 最後のひと言に清右衛門は苦々しげな笑いを漏らし、その場を去った。

 「雉、お前は御門を守れ。」

 役所の庭に跪く男にも晴海は命を出し、

 さて・・と數貫のすぐ前に席を占めた。


    ×  ×  ×  ×


 飯盛山における鬼との戦いはまだ続いていた。

 赤鬼二匹は斃したが、まだ三匹残っている。それに邪鬼の数もまだ相当数居る。

 その上、首魁である青鬼の居所もまだ知れない。

 京見廻組の隊員は相変わらず邪鬼に苦戦していたが、赤鬼を討った安藤宗重と城ノ介が邪鬼退治に加わり、一時の危うさはなくなった。

 御庭廻隊の菊池主水の介、相良市之丞は相変わらず活躍している。それに比し、大井彦正は既に後ろに退いたとの報もあった。それに鬼木元治は行方知れず。危機は脱したと言え、まだ浮き足立つ者達も居た。

 そんな中で、次に赤鬼を斬ったのは並木掃部ノ兵衛義貞(なみきかもんのひようえよしさだ)。彼は流れるように美しい剣技で赤鬼を討った。しかもまだ、宝刀“綾杉”は抜いていなかった。

 それに続くのは芳川喜一郎、そして国立京ノ介が最後の赤鬼を斬った。

 それによって邪鬼達の攻撃が乱れ、人の集まりは徐々に勢いを増していった。

 そんな修羅場の中、鬼木元治が手に何かをぶら下げて帰ってきた。

 彼はそれをドサッと地に投げた。

 「青鬼の首だ。

 後は邪鬼共を殲滅すれば良い。」

 いつものように剣をぶら下げ、その姿から背後に迫る邪鬼を一匹をあっさりと倒した。

 その後、鬼退治の隊員達に凱歌が上がり、残った邪鬼達は山の奥へと逃げ去った。


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