飯盛山の鬼退治
村田善六以下御庭廻組第一隊五名、安藤宗重が率いる京見廻組二隊に城ノ介・・会わせて二十一名が兵部の役所の庭に勢揃いした。
「前にも申した通り、主将は村田善六。
他の者達は彼の者に従え。」
庭を見下ろす廊下の上で數貫は大音声をあげた。
城ノ介はその姿に微妙な笑いを漏らした。
「敵は飯盛山に在る鬼・・その方等には全力を持ってそれを討って貰う。」
城ノ介の表情にも気付かず、數貫は興奮した声を上げ続けている。
「自分が行くわけでもないのに気負いすぎだよ。」
京見廻隊の中から陰口が聞こえ、鬼木元治はそれを睨んだ。
鬼木元治・・・その実力は誰もが知っている。
その目に睨まれ陰口は止んだ。
數貫の長口上のあと、村田善六は全員を集め、編制を言い渡した。
第一隊は彼自身が率いる隊。彼を主将に大井彦正を副官に任命し、五名の京見廻隊員を配した。
村田善六は残った京見廻組十六人を三隊に分けると言った。
一番隊の主将は当然安藤宗重、それに続き二番隊、彼に人選させ、最後に建部城ノ助が残った。
「俺は一番隊だよ。」
そう言って城ノ介は安藤宗重の横に立ち、
「あんたは俺が護ってやるよ。」
と、小声で囁いた。
「以上、明日には出立いたします。」
村田善六は気負い気味に声を発した。
× × × ×
「雉、何か情報はないか。」
晴海は農民風の男に声を掛けた。
雉はこの期に及んでもその姿を変えず、自分の手足と呼ばれる者を使い、情報を集め続けていた。
「京の北、飯盛山に鬼が巣くったそうです。
それを討伐するための隊が組まれたと聞いております。」
「その組頭は。」
「御庭廻組第一番隊隊長村田善六殿。」
「いかん・・我等もすぐにそこに向かうぞ。」
晴海は慌て気味にそう言った。
晴海の一行は、当初の者達に三人を加え八人になっていた。芳川喜一郎は元より、少年渡辺遼河、どうしても遼河から離れたくないと泣きじゃくった、かえでがその中に含まれていた。
「すぐに飯盛山へ向かうぞ。」
晴海は気が焦っているように見える。
「かえでが・・・」
遼河が声を上げる。
「その小娘がどうした。」
晴海が鋭い声を上げる。
「怖い・・・・」
かえでの声はか細い。
「何が怖いの。」
巴がその前に片膝をつく。
「まだ居るの・・・」
かえでが小さな声を上げた。
「どこに・・」
「鬼が・・鬼が・・・
木造村がまた襲われる・・」
かえでの声は小さかったが、巴はその声をしっかりと聞いた。
「村を助けるのが先でしょう。」
巴はそう言いながら立ち上がった。
「そうはいかぬ・・この機を逃しては・・・」
晴海はあとの言葉を呑み込んだ。
「私はここに残ります。」
巴が毅然と言った。
「なら俺もだな。」
紅蓮坊の声がそれに続いた。
「二手に分かれましょう。」
兵衛がそれを取りなすように言った。
晴海、兵衛、雉、それにあとから加わった芳川喜一郎が飯盛山を目指し、巴、紅蓮坊、遼河、かえでが木造村に残ることになった。
晴海は慣れぬ馬を走らせた。
その横には雉が離れもせず走っている。
その前方では、兵衛と喜一郎が馬をとばしていた。
雉の情報によれば、飯盛山の鬼退治隊は今朝出発したという。
追いつけるのか・・晴海はその距離の差ばかりを按じていた。
「お前はどう思う。」
馬をとばす芳川喜一郎が同走する兵衛に目をやった。
「あの男・・晴海は本当に人を助ける気があるのか・・それとも出世が狙いか。」
その疑問に兵衛は答えきれなかった。
「お前が思うことを答えてみてはどうだ。」
喜一郎は畳み掛けるように言う。
「どちらにせよ、それが民を救うことであれば・・・」
兵衛は言葉を濁した。
「もう一鞭当てるぞ。」
喜一郎の馬は先にとび、兵衛はそれを追いかけた。




