覚醒(4)
かえではまだ確りと長い剣を抱きしめていた。
「ありがとう・・ありがとう。」
遼河は頻りとその頭を撫でた。
「りょうがのかたなだから・・・」
かえではまた涙を零した。
「その刀はお前のものか。」
晴海が神殿の前の一段高い所から声を掛けた。
「我が家の守り刀だ。
だが、長すぎて、まだオラには抜けない。」
遼河は悪びれずに答えた。
「その児は誰じゃ。」
かえで・・・
それから遼河は話し出した。
遼河の両親は早くに亡くなった。
母は遼河が八歳の時に亡くなった。
亡くなる前の母親は頻りと家に伝わる昔話を語って聞かせた。父親はそれを忌み嫌った。
母親は床についてから三ヶ月で亡くなった。
父親は遼河と二人の生活を支えるため、死にものぐるいで働いた。
遼河は昼間はいつも親戚の家に預けられていた。
そこにいたのが生まれて間もない、やっと這うことが出来るかえでだった。
遼河はかえでを妹のように可愛がり、叔母はそれを微笑ましく見つめていた。
かえでの父親は彼女が赤子の時に行方知れずとなっており、それ程の収入は得られなかった。
遼河の父親はその分まで働いた。
遼河とかえでは七つ違い、二人はすくすくと大きく成っていった。
そんなある日遼河の父が過労の余り床についた・
「遼河・・遼河・・・」
父親は手招きで一人息子を呼んだ。
「あの床板を外してみろ。」
遼河は言われるままに少し盛り上がった床板を外した。
そこには桐箱があった。
「お前のおっかあが嫁入りの時に持ってきたものだ。
俺はそれを床下に隠した。
それを出せ。」
その桐箱の中には三本の剣があった。
二本は短い剣、一本は長大な剣だった。
「何かがあったらその剣を売れ。
結構な金になるはずだ。」
そこまで言って、父親は弱々しい咳をした。
父の声を聞いたのはそれが最後だった。
幼い遼河は父以上に働いた。
それを村人が見ていた。
ある者は投げ銭を寄こし、ある者は収穫した野菜などを投げ与えた。
かえでの家も含め、二つの家はどうにかそれで食いつないでいた。
それでも遼河は三本の剣を売ることはなかった。
それどころか、それらの剣を使い、空いた時間に稽古を積んでいた。
「りょうが、りょうが・・・」
スクッと立っている遼河の横で、かえではまだシクシクと泣いていた。
「まだ村には帰りたくない。」
かえでは泣き声の合間にそう言った。
その夜は何もなく、翌朝、村人を含めた一行は村に帰った。
夫や妻、父や母を呼ぶ声が村中に響いた。その中でかえではポカンと二つの遺体の前に座っていた。
かえで・・その身体を遼河が抱きしめた。
抱きしめられたかえでの眼がキラッと光った。
「またねこちゃんがくる・・」
そして弱々しくそう漏らした。
その言葉通り、また猫又が現れた。
それらを次々と兵衛達が斃していき、その中には遼河の姿もあった。
「猫ちゃんがかわいそう・・」
さっきとは裏腹な言葉をかえでが漏らした。
「違うのか。」
遼河が大きな声を上げた。
「違う・・木の上・・・」
そう言われて遼河が見上げた木の上には六つの眼が光っていた。
「あれが・・・」
遼河はその木に飛びついた。
枝を足がかりに木を登る。
「私に任せなさい。」
下から雉の声が聞こえ、遼河のすぐ横を鎖に繋がれた分銅が飛んでいく。
分銅に追われた猫又が他の枝に飛び移る。
その先に遼河は自身の短い剣を投げた。
クルクルと回った剣が猫又の胴体を捕らえ、それを真っ二つにした。
「下りてきなさい・・猫又は下に落とす。」
雉の声が聞こえ、遼河は木の枝から飛び降りた。
雉が投げる分銅は投げては戻し、投げては戻し、猫又を木の枝の端に追い詰め、最後の一投がその猫又を地上に降りることを強制した。
その猫又を喜一郎が一太刀に斬り下げた。
もう一匹・・その運命も同じ・・・これは兵衛が斬った。
「これで安全だな。」
その後ろから晴海の声が聞こえた。




