覚醒(3)
猫又を殆ど斃した頃、晴海が雉の手に馬の手綱を任せそこに現れた。
その姿に向け、大木の影から斃しきれなかった猫又三匹が襲いかかった。
馬の手綱から手を離して雉がもの凄い速さでそれに向け走った。
右の木の幹を蹴った時には、既に猫又が一匹、雉の鎌に朱に染まり、雉が大地に降り立った時にはもう一匹が両断され、最後の一匹は後ろから飛んできた鉄の分銅に、晴海の元に着く前に頭を叩き潰された。
「もう居ないのかい・・」
少年が声を上げ、巴がそれに頷いた。
「かえで、かえで・・もう出てきていいよ。
悪い猫はいなくなった。」
少年は社に向け声を掛けた。
ギーッと軋む音を立てて社の戸が開いた。
村人が出てくる前に、巴は黄泉醜女を札に戻した。
喜一郎はそんな事には構わず猫又の死体を調べていた。
屍体・・・喜一郎は首を傾げた。
妖怪は斃されるとぼろ屑に変わるはず・・・
何か・・その姿の後ろから巴が声を掛けた。
「怖かった。」
そのまた後ろで、かえでと呼ばれた幼子が少年に取りすがって泣いている。
かえでは確りと長い剣を胸に抱えていた。
「オラの剣を護ってくれたんだね・・ありがとう。」
少年は優しく女の子の頭を撫でた。
それでも女の子は泣き声は止まない。
「村へ帰ろう。
まず大人達だけで・・
亡くなった者達を埋葬せねばならん。」
紅蓮坊が割れ鐘のような声を上げ、生き残った大人達が社の中から出てきた。
あの人・・そんな中、かえでは一人の男を指さした。
「そこの童・・名は何という。」
雉に耳打ちされた晴海は少年を呼び止めた。
「オラ・・オラかい・・遼河って名前だ。」
少年は明るく答えた。
「姓は。」
「姓なんかないよ・・渡部村の遼河。」
そう言って少年は頭を傾げた。
「そういえば、死んだおっかあが、いつか・・お前は昔々の渡辺何とかの血を引いているって言っていたなぁ・・」
「渡辺何とかか・・それでは今日からお前は渡辺遼河だ。」
キラキラと光る少年の目に何を見たのか、晴海はそう宣した。
「ともかく、村に帰ろうや。」
紅蓮坊が大きな声を上げた。
「まだ駄目。」
その後ろから、かえでが甲高いを上げた。
「その童が言うのが正解だろうな。」
喜一郎が立ち上がった。
「見てみろ・・ここに倒れているのは全て普通の猫だ・・尾が二つに分かれた猫又ではない。
妖怪であれば斃されれば塵、芥に変わるはず。
だが全てがここに死骸を晒している。」
どう言うことだ・・紅蓮坊がまた怒鳴り、村人達がその声にビクッと身を震わす。
「どこかに親玉が居る。
この猫達はその妖力で猫又に変えられた。
何があるか解らん・・村に帰るのは危険だ。」
喜一郎は社の軒下にどんと座った。
「みんな社に入れ、俺が番をする。
俺が眠くなったら、誰かを起こす。
そうやって数珠つなぎで番をする。」
喜一郎に促され、皆は社の中に入った。




