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鬼退治の隊

 京の北、飯盛山に鬼が出たとの噂が市中に広まった。

 今、餓鬼や小鬼に悩まされているのもそのせいだとも町人達は噂しあった。

 數貫は自身が治める兵部の役所に御庭廻組一番隊隊長村田善六、京見廻組局長安藤宗重の二人を呼んだ。

 二人が見上げる數貫の横には見慣れぬ男が侍していた。

 「飯盛山の鬼・・市中ではその噂が持ちきりだ。」

 數貫は憂いの表情を見せた。

 「将軍様にもその憂いを表されておる。

 そこもと等二人、飯盛山にそれぞれの隊を率い、鬼を伐つが良い。」

 數貫は自信満々言い渡し、村田善六が座を立つのを待った。

 「ところで、宗重・・・」

 村田善六の退出を待ち、京見廻組局長宗重に声を声を掛けた。

 「建部城ノ介は達者か。」

 はい・・と、怪訝そうに安藤宗重は答えた。

 「此度の遠征、あやつも連れて行け。」

 「ですが・・・」

 宗重は困惑気味に応えた。

 「有無を言わすな。

 儂が()の者に諭す。

 明日は、城ノ介をここに寄こせ。」

 宗重は深々とお辞儀をし、その場を下がった。


 飯盛山に現れた鬼は青鬼だという。

 鬼にも数種あり、赤鬼、青鬼、黄鬼、緑鬼、黒鬼、人鬼の順に強くなると言う。

 その中の青鬼が飯盛山に現れたと人々は噂しあった。

 赤鬼と青鬼は言わずと知れた鉄棒(かなぼう)を使い、黄鬼は妖術を使う。黒鬼は怪力無双であり、人鬼は鬼にある角はなく、額に瘤があり、よく剣を使う。

 青鬼・・京に出現するのは殆どが餓鬼、たまに小鬼が現れるだけだった。

 妖力が強いと言われる邪鬼、強靱な肉体を持つ赤鬼、それを通り越して青鬼とは・・

 數貫の役所を帰る際、宗重は怖気を震った。

 自分自身も含め、鬼に対抗できるのか・・配下は御前試合で敗れた者達ばかり、それに伊東玄白の力も知れぬ弟子を加え、後は公募の中から選んだ者達・・それを率いる自分。

 鬼に対する力がある者を見極めると言われる、晴海和尚の選から漏れた宗重は鬼に対する自身の力さえをも危ぶんでいた。

 城ノ介か・・

 宗重は華美な衣装の伊達者に気をやった。

 數貫に推挙され京見廻組の一員となった男。

 組では一番の腕を持つ。

 その腕を元に傍若無人の行いを組内で行っている。

 數貫の推挙もある・・彼奴を先頭に立てれれば、あるいは・・・

 宗重の中で人選は纏まった。


 村田善六は意気揚々と兵部の役所を後にしていた。

 自身が率いる隊には自分も含め、御前試合を勝ち抜いた者が多い。特に自分と鬼木元治・・人選など要らぬ、全員で行く。

 村田善六はそう決めた。


 翌日、城ノ介は數貫の政務所に上がった。

 「こちらに来い。」

 數貫は城ノ介の先に立ち、自室に招き入れた。

 「今若は・・」

 開口一番がそれだった。

 「そんなことですか・・・」

 城ノ介はがっかりとしたように笑って見せた。

 「どうしておる・・」

 それにも気付かぬ程、數貫は必死だった。

 「今若の・・姉の消息については俺も知らぬ・・西に行ったという者もあれば、東国に落ちて行ったとも聞く。」

 城ノ介の答えは素っ気なかった。

 そうか・・數貫はがっかりしたように俯いた。

 「用はそれだけですかな。」

 城ノ介はその場を立とうとした。

 「待て、待て・・」

 數貫は手でそれを制した。

 「此度の鬼退治、そちもついていくように・・あれこれと怨嗟の声を聞き、そちを推挙した儂も(にわ)か困っておる。

 此度はそちの力を見せるように・・」

 數貫は威厳を見せるようにそう言った。


 城ノ介が帰ると、村田善六と安藤宗重がやって来た。

 「人選は決まったか。」

 數貫は早速尋ねた。

 宗重はその前に一枚の書き付けを差し出した。

 「一番隊と二番隊。それに建部城ノ介か・・その方を入れて十六人になるか。」

 數貫は頷いた。

 「いいえ、私には京を護る仕事があります故・・・」

 「お主は行かぬと申すか。」

 數貫の声が叱責するように変わった。

 「我が組は京見廻組・・京の街を疎かには出来ませぬ。」

 「そちの隊は何隊ある。」

 「今、五隊になっております。」

 「二隊を率いていっても、残り三隊・・京の街を守る事はできるはずだ。」

 逃げるつもりか・・數貫は心の中でそう思い、それが声の強さに出た。

 「その方も行く・・それで良いな。」

 數貫など取るに足りぬ男・・だが今は自分の上役・・宗重は俯きグッと下唇を噛んだ。

 「善六、その方が率いる御庭廻組一番隊からは何人が行く。」

 「全員で参ります。」

 村田善六は即座に応えた。

 「全員・・・御所の守りはどうする。」

 これにも數貫は異を唱えようとした。

 チッ、自分の身の心配か・・・善六は數貫の心根を蔑むように思った。

 「御所には近衛組がおりましょう。

 斉藤蔵人殿が率い、宝蔵院の胤嗣、桂金吾、国立清右衛門・・何れも一騎当千の強者(つわもの)・・それに貴方様の間近には晴海和尚よりの推挙状を持った者が加わったとか・・

 貴方様を含め、これだけの人数が御所にあり、有事の際は京見廻組からの援軍も駆けつけましょう。

 それも、數貫様のご人徳かと・・

 我等御庭廻組は、御所の安泰を支える者、御所の危機も飯盛山の鬼と無関係ではございませんでしょう。

 しかるに、我が隊は全員でこの危機に対処いたします。」

 善六は數貫の自尊心を(くすぐ)った。

 「よくぞ申した。

 そちの申し出・・呵るべし。

 鬼退治のことよしなに頼むぞ。」

 善六の言に數貫は満足の意を表し、返す目先で、宗重を睨めつけた。

 「京見廻隊から局長を含め十六人・・・」

 「お待ちください。」

 それでも宗重は食い下がった。

 「それでは残る三隊の統率は誰が執り行いますか。」

 まだ言うか・・・數貫は心の中で舌打ちをした。

 「お主が帰るまでの間は、桂金吾をそれに当てる。

 これ以上、口を挟まぬ事じゃ。」

 數貫の言葉付きは一層激しくなった。

 「御庭廻組一番隊の全員、五人を含め総勢二十一名の隊長は村田善六とする。

 四日後には出立を。」

 數貫は強く言い渡した。


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