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腕比べ(3)

    ×  ×  ×  ×


 激務が続いていた。

 御庭廻奉行としての鬼を伐つ者達を支える組織作り、京見廻組隊員の選別、義政が突然言い出した近衛組の取り扱い。その外にも表向きの顔である兵部の仕事・・等々やることは多岐に渡っていた。

 教貫は城内の奉行所を下がり、自分の肩をトントンと叩いた。

 「兵部ノ丞さま・・・」

 その手に女の柔らかい手が触れた。

 振り向いた教貫の眼にあの女が・・・

 「お久しぶりでございます。」

 女は妖艶に頭を下げた。

 「お久しぶりも何も・・・」

 言いかける教貫の唇に女は人差し指を当てた。

 「お忙しそうでしたので、声を掛けるのを遠慮しておりました。」

 女はそっと教貫の手を引いた。

 いつもの社のはず、だがそれは以前より豪壮に見えた。

 社の内には豪華な(しとね)が敷いてあった。

 そこに横たわり女は教貫を誘った。

 朝まずめ、衣服を直す女は數貫を振り返った。

 「私の名をご所望でしたね。」

 數貫が肯く。

 「私の名は“今若”・・・

 これで宜しいですか。」

 數貫はその声にも頷き、

 「今度いつ会える。」

 と、素裸の身体を起こした。

 「さて・・・・」

 今若はいつものように社の外に出て行った。

 またいつか・・・數貫はその朝は女の後を追わなかった。


 伊東玄白は数人の高弟を連れて尾張に去った。

 残された十数人の弟子達は數貫に任され、彼の前に勢揃いしていた。

 「その方等を京見廻組に召し抱える。」

 數貫はそう宣言した。

 これで京見廻組は安藤宗重を含め二十六人となった。

 「安藤は別として、後三人か・・・

 それで四隊になる。」

 やっとここまで来た・・數貫はグルグルと凝った首を回した。

 その側に子供が走り寄り、文を渡した。

 それには・・いつもの社で・・と書いてあった。

 數貫は社に足を急がせ、観音開きの扉を開けた。そこには褥の上に腕枕で横たわる男が居た。

 おのれ・・數貫は一瞬剣に手を掛けた。

 その後ろから女が手を回し、その手を抑えた。

 「いやですわ・・私の弟、城ノ介ですよ。

 勘違いなさってはいけませんわ。」

 女・・今若の手はそのまま數貫の股間に滑り降りていった。

 「こちらをお向きなさいな。」

 今若は數貫の耳朶(みみたぶ)に熱い息を掛けた。

 それに誘われ數貫は今若に向き直り、その華奢な身体を抱きしめた。

 「城ノ介・・そこをお退()きなさい。」

 女のように華美な着物を割り赤い、褌までを見せていた城ノ介は褥の上から降りた。

 その空いた所に今若は教貫を押し倒した。

 「弟は出て行かないのか。」

 「人に見られながら致すのも、おつなものですよ。」

 数々の性技を弄した挙げ句、妖艶に笑いながら、今若は体勢を入れ替えた。

 教貫は今若を貫いた。

 その背後には城ノ介が迫っていた。

 城ノ介は教貫に背後から覆い被さった。

 男と女を同時に味わい、教貫は女のような呻き声を上げた。

 「私の希望(のぞみ)は城ノ介を一角(ひとかど)の武士にすること・・兵部ノ丞さま、お願いいたしまする。

 三日後に城ノ介を行かせます・・その際・・・」

 朝未(あさまだ)きの光りの中、教貫は頷いた。


 今若が言ったように三日後に城ノ介は教貫のもとに現れた。

 その男は幾分不機嫌そうな顔をしていた。

 その時、教貫は新たに京見廻役に加える者達の検分を行っていた。

 来たか・・教貫はそうとだけ言った。

 派手な着物を着た城ノ介は、フラッと検分を受けている五人の中に入った。

 小癪な・・五人は色めき立った。

 一人が木刀で突っかけた。

 それを城ノ介は軽く躱し、投げ飛ばした。

 一瞬で勝負は結した。

 投げ飛ばされた男の喉元には脇差しが宛がわれていた。

 それに残る四人が怒り、群がるように勝負を挑んだ。

 相手は一人ではない。それでも城ノ介はそれらの攻撃を軽々と躱し、近くの者から大きく投げ飛ばした。

 背中をしたたかに打ち付けられ、最初の者は息を詰まらせ悶絶した。

 その光景に残る三人は、大きく城ノ介を取り囲んだ。

 城ノ介はふらりとその内の一人に近づいた。

 その背中を他の男が狙った。

 が、その男は瞬時の間に城ノ介の正面の男に叩きつけられた。

 それまでにせよ・・教貫が大声を上げた。

 そう言う総帥に、城ノ介は歩み寄った。

 「姉の指図により参った。」

 城ノ介は短く言い、続けた。

 「だが窮屈なことは嫌いだ。

 俺は俺のままで居る。

 それで良ければ・・」

 彼は頭を下げることもなかった。

 その不遜な態度に他の京見廻組の隊員が怒り、真剣を持って襲いかかった。

 城ノ介はそれを見ることもなく躱し、逆手にその首を取り、折った。

 京見廻組は同じ制服を着ている。

 それを城ノ介はじろりと見た。

 「あんなくだらない衣装には虫酸が走る。

 俺はこのままで()らして貰う。

 まあ・・別動隊という所かな。」

 あいかわらず」不遜な態度で城ノ介はそう言った。

 「三人を召し抱えるつもりであったが、五人全てを召し抱えよう。

 四人は京見廻組に、そして一人はお前の下に置く・・それで良かろう。」

 宗重に向かい教貫は満足そうに言った。

 「一応ですな・・こんなに弱い者は要りませんが・・

 俺の知る辺を集める。」

 城ノ介は傲岸な態度でそう言った。


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