御前仕合(3)
その夜は将軍義政の肝いりで酒宴があった。
そこには各地の守護のお歴々も居並んでいた。
その席に教貫も呼ばれた。
それは教貫にとって望外の喜びであった。
義政は既に酔っていた。
そして突然立ち上がった。
「そこに居るのが前村大炊ノ介教貫と申す。
この仕合を取り纏めた者だ。
皆も楽しんだであろう。
この者に感謝することだな。」
義政は声を出して笑い、末席で教貫は恐縮していた。
「元々この仕合は・・・」
そこで晴海が義政の袖を引いた。
義政の性格もあり、酒宴は徐々に乱れていった。
その中で特に動きが大きかったのは尾張の守護、斯波義廉。
彼はまず伊東玄白の席に至り、徳利を傾けた。
遥かに目上の者からの挨拶に玄白は恐縮した。
「・・で、どうじゃこれまでの仕合。」
「さすがに腕に覚えのある者達、この玄白感激しております。」
「当家の安藤宗重はどうじゃ。」
「強うございます・・ですが相手が・・・」
「そうじゃろう。
相手が悪かった。
当初の相手、並木某には運が悪かった。
そなたの目にはどう映った。」
「安藤殿の剣はきれます・・ですが先程も申したように相手が・・・」
「その方は並木某より下と見て居るか。」
「滅相もございません。
安藤殿の腕は確か・・今申し上げた者達とはほぼ互角の腕でございましょう。」
「よいことを聞いた。」
そう言って義廉は席を立った。
義廉は次に教貫の席を訪れた。
「此度は将軍の覚えも目出度いようだな。」
ここに居るはずもない下役の者に義廉は横柄な声を掛け、教貫はそれに平伏した。
「で、一つ儂の願いを聞いてくれぬか。」
教貫はごりごりと床に額をこすりつけた。
「将軍様に於かれては・・鬼・・・」
そこで義廉は大きく笑い、そして声をひそめた。
「お主には毎年十の金子を与えよう。
鬼を伐つなどと奇抜な計画ではなく、京の治安を守る見廻り役を設置することを進言して欲しいものだ。」
斯波義廉は気軽に次々と酒宴の人々を訪れた。
ある席では大いに笑い、ある席ではひそと話した。
その挙げ句に伊東玄白の席に戻った。
「京の治安部隊が出来る・・その総帥に当家の安藤宗重を推挙して貰いたい。」
玄白は不穏当な顔をした。
「当家には今だ指南役が居らん。
腕の立つ者が欲しいものだ・・・知行はいとわぬ。」
玄白はごくりと唾を飲んだ。
「弟子も居ったのう・・その者達も京の治安部隊に加える。」
それだけを言うと義廉はその場を離れた。
宴もたけなわ、突然義政が立ち上がった。
「明日の仕合が楽しみだ。
皆もそう思うだろう。」
義政は大声を張り上げた。
そこに晴海がにじり寄った。
「明日の仕合ですが・・」
そして義政に声を掛けた。
何か・・と言う風に義政はそれを見た。
「予選以下はご無用かと・・・」
義政は怪訝そうに僧侶を見た。
「これ以上は、可惜力のあるものを傷つけ、不虞に致すこともありましょう。
それでは当初の・・ 」
晴海はその後の言葉を濁した。
突然義政は言葉を変えた。
「明日を最後とする。
勇者は一人にあらず・・予選を勝ち抜いた者を召し抱える。」
召し抱える・・その言葉にそこにいた列公は違和感を覚えた。