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御所の鬼(23)

 庭に集まった鬼達は討ち減らされ、その中央にいる木鬼(もくき)、鬼若は身を焦がす炎に、苦しげに大暴れをしている。

 「庭へ。」

 西侍所の屋根に火が移ったのを見て、木村一八は前村教貫に声を掛けた。

 だが、教貫は躊躇した。

 庭には鬼が・・・

 武芸の覚えは無い、はたして自分に鬼に対する力があるのか・・・

 「このままここに居ますと、間違いなく焼け死にますぞ。

 ここは意を決して庭へ・・・拙者がお守り申し上げます。」

 一八は懇願する様に言い、教貫を鬼との闘いが続く庭に引きずり出した。

 教貫が横を見ると、晴海は既に雉、境源三、並木掃部ノ兵衛に護られ庭に降りていた。

 「喜一郎は何処じゃ。」

 階を降りながら教貫は怒鳴った。

 「ここには居りませぬ。

 おらぬ者の数を算えても詮無き事。

 いざ、庭へ。」

 木村一八は力強く言った。

 「必ず護れるか。」

 教貫は震える声を上げた。

 「拙者の命に代えてでも。」

 一八は教貫の手を牽きながら庭に降りた。

 その前に一匹の青鬼が立った。

 剣を構える一八の手は震え、剣先が鶺鴒(せきれい)の尾のようにぴくぴくと動く。

 それを憶したと見たのか、教貫の脚が一歩下がった。

 その刹那・・・

 キエーッ・・一八の気合いが谺した。

 そして、その前に鬼の首が落ちた。

 教貫様こちらへ・・・兵衛の声が聞こえる。

 木鬼は苦し紛れに根の槍を地中から辺り構わず突きだしている。

 「固まって護れば木鬼の攻撃もかわせましょう。」

 兵衛は晴海の側から手招きをしていた。

 その言葉に、

 要らぬ事を・・とばかりに、晴海は舌打ちをした。

 奥からは国立清右衛門と宝蔵院の僧胤嗣も駆けつけ、北門から奥村左内と国立京ノ介。西大門からは鬼木元治、菊池主水の介。

 先にここに逃げ込んだ安藤宗重と城ノ介は教貫を護り、二番隊の中で兵衛と雉は晴海と教貫を護衛した。

 庭に降りた教貫達の後ろで焼け落ちる侍所の轟音がした。


 紅蓮坊は何処から木の根の槍が突きだしてくるの解るかのように、それを金棒で叩き潰し、巴と共に鬼若と戦っている。

 その横で巴の“炎の舞い”は続いている。

 心なしか鬼若を包む炎が小さくなったような・・・

 「もうだいじょうぶよ。」

 それを見てかえでが小さく遼河に耳打ちをした。

 それが転機だったのか、木鬼の躰は徐々に小さくなり、火が消えた後に残ったのは、三歳ほどの赤ん坊だった。

 「それが鬼の正体か・・誰ぞ首を斬れ。」

 「だめ・・もうおにじゃない。」

 教貫の声をかえでが打ち消し、誰もその首を斬ろうとはしなかった。

 「我が指示が聞こえぬか。」

 教貫は怒声を発し、かえでに近づき、その手に持った遼河の刀を奪おうとした。

 その前に遼河は目を(いか)らして立ちはだかった。

 遼河・・・叱責するような源三の声が飛び、

 お止しください・・と懇願する様な巴の声が続いた。

 その声に僅かに躊躇はしたが教貫はかえでの手から剣を奪い取りって、幼子の首を落とし、

 「将軍様を悩ました鬼若という鬼を仕留めたは、この儂、前村兵部ノ丞教貫なり。」

 と大音声をあげた。


 最後は教貫の手柄・・・そうやって将軍義政を悩ました鬼騒動は終わった。



終わり


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