御所の鬼(18)
× × × ×
「遅いぞ・・遅すぎる。」
晴海は紅蓮坊を大声で叱責した。
日はとっぷりと暮れ、満月は空にその姿を全て現していた。
雉が呼びに来た頃には既に日は沈んでいた。
そこから大急ぎで侍所の庭まで駆けて来た。
遅いと言われても・・・紅蓮坊は首を傾げた。
向こうに見える侍所の座敷には将軍義政が床几に腰を据え、その両脇を斉藤長光と桂金吾が固めている。
その前の高廊下には右に前村教貫が木村一八と芳川喜一郎を連れて座り、左には境源三を護衛に晴海和尚がいる。雉は階から降りる掛け階段の下に控えている。
自分の仲間は庭に控え、守備兵と共に鉄の籠に入った鬼の小像を遠く取り巻いている。
鉄籠の中の小像が月の光を受けてかたかたと動く。
鬼の力か・・・義政が前に座る晴海に声を掛ける。
「左様でございます。
あれが上様を悩ましていた鬼の力でございます。
ですが私が選んだ二番隊隊員達があれを滅します。」
晴海は自慢げに言った。
その時、内宮に続く二つの中門から騒ぎが聞こえてきた。
「雉、見て参れ。」
晴海は階の下に控える雉に指示を出し、
「巴、始めよ。」
と促した。
巴はかえでの手を引いて鉄籠に歩み寄った。
「その女童には何をさせる気だ。」
義政が直接声を掛けた。
「介添え役です。
私の秘法には穢れ無き童の力が必要ですから。」
巴は巧く言い逃れ、
いいわね・・・と、かえでの耳に口を寄せた。
それにかえでが頷く。
彼女の小さな手の中には三つの玉砂利が握られていた。
それでは・・・巴は懐から三枚の式札を取りだし、かえでに目配せをした。
かえでは一つ目の玉砂利を右手に取った。
それを確かめ、巴は式札を中空に投げた。
式札が空で炎に包まれる。
皆の眼がそれに奪われる。
でてこい・・かえではそれに合わせて一個目の玉砂利を投げた。
鉄籠の前で一度跳ねた玉砂利はカンと鉄に当たった。
失敗したか・・・それを見ていた遼河は下を向いた。
二枚目の式札が巴の手から宙に舞う。
かえではそれに合わせられなかった。
そして三枚目・・・
巧く鉄籠の目をすり抜けた玉砂利が鬼の小像に当たった。
ガタガタと鉄籠が揺れる。
それにも係わらず、巴は四枚目の式札を宙に放った。
遼河・・・兵衛に声を掛けられ、少年がかえでの元に走った。
鬼の小像が鉄籠の中で飛び跳ねる。
それが当たり、鉄籠自体が揺れる。
そこに雉が駆け込んできた。
「北門が破られました。」
雉は大声で叫んだ。
「外の守りはどうなっているのだ。」
前村教貫は怒号を放った。
「北中門には安藤宗重殿を主将とする京見廻組二隊が護っておりました。
鬼木元治が主導して護る西門はいまだ健在。」
雉もまた叫ぶように言った。