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暗黒ガール



 やられた――と言わざるを得ない。

 小野先輩を目当てに来た私たち一同からすれば痛恨の一撃である。

 事態は順調に進んでいた筈だった。

 最初から小野先輩の周りを包囲し、入る隙を与えずに彼女ではなく他の女子のみを意識させるつもりだった。

 今日はほんの初手。

 今回は私でなくても構わない。

 ただ、夜柳雫から引き剥がすだけの策だ。

 それが……あんな事になるなんて。


「可愛いけど、可愛いけどさ!?」


「アンタの頑張り次第で元に戻すって」


「それはそれで勿体無い気が」


「そう?私も案外気に入ってるから、実はこのまま――」


「伸ばして下さい!」


 小野先輩は夜柳雫に翻弄されている。

 特に手の込んだ細工はしていない。

 単純に――髪を切っただけだ。

 これを誰が想像できようか。

 小野先輩が夜柳雫の長い黒髪を愛している、なんて情報は寝耳に水だ。あまりにもプライベートだし、第一あの性格からそんな拘りがあるなんて気づけない。


「弁当も作ってきたから」


「至れり尽くせりだな、らしくないぞ」


「普段からアンタに献身的なんですけど。去年も作ってあげたでしょ」


「でも、飯なんて食ってる余裕あるかよ。俺は雫の髪を取り戻す為にも全力で――」


「全力を発揮できるようパンを作ってきた」


「ありがとうございます」


 あ、と誰かが声を上げる。

 恐らく私の隣――たしか永守梓とかいったか、私と同い年の少女が手に提げたバックを見つめている。

 今の反応で何となく察した。

 健気にも弁当を用意して来たのだろう。

 だが、今は駄目だ。

 何をしても小野先輩の眼中に入らない。


「アンタの組、勝ってるんだ?」


「おうよ。こう見えても俺のクラスは帰宅部が強いからな」


「運動部の立つ瀬無いわね」


「あ、俺そろそろ仕事だわ。じゃあ、昼休憩の時に学校の何処かで集合な」


「昇降口で待ってる」


 意気揚々と走り去っていく小野先輩に手を振って見送った夜柳雫が、ようやくこちらへと振り返った。



「あら。みんなも来てたのね」



 ぶちっ、と全員から聞こえた気がした。

 余裕綽々とした夜柳雫の姿に、誰もが怒りを覚えた事だろう。

 最初から気づいているくせに、自分も端から眼中にありませんでしたと演出している。敵ではないと言外に伝える物言いが温厚な人物でさえも一気に沸点まで持ち上げた。

 永守梓なんてうーっ、と顔を真っ赤にして唸って……小動物みたいで迫力は無いが、かなりご立腹のようだ。


「相変わらずですね、夜柳さん」


「如月さん。今日は誰の応援?」


「勿論、小野先輩ですけど」


「そう。久しぶりに会えて嬉しいわ、良かったら一緒にお昼でもどう?」


 夜柳雫の提案に顔が引き攣りかけた。

 どこまでも余裕だ。

 昼食に同席しても、自身の優位が揺らがない確固たる自信だからこそ見せられる笑みだ。その鷹揚な振る舞いが却って不気味である。

 どこまでも人を虚仮にして……!


「夜柳さん」


「ん?」


「私、まだ諦めてませんので」


「……叶うといいわね」


 応援している口だが、声色から興味が全くない事が伝わる。

 中学時代はそこまででも無かったが……これが本性か。

 矢村先輩から聞いていた通り、いつも幼馴染であり常に生活に寄り添う立場として優位を誇り、勝ったように振る舞いながらもその実余裕は無く、手段は選ばない。

 この人に執着されている小野先輩は、ハッキリ言って……可哀想だ。

 いや、あの人の性格を考えれば夜柳雫も被害者なのだろうけど。

 

 それでも。

 あの人は、夜柳雫(こんなヤツ)に独占されて良い人ではない。


「ええ、頑張りますよ」


 私は精一杯の敵意を示すように、彼女を睨んだ。








 おまけ「性癖」



 俺――小野大志と綺丞、憲武でバッティングセンターまで来ていた。女子校の体育祭は散々だったが、こうやってストレッチ発散しておけばどうにかなる。

 溜まっていた鬱憤を晴らすように、スイングは全力だ。

 いい音を鳴らして全力で空振った。


「くそ!女の子一人も持ち帰れなかった!」


 隣から憲武の哀哭が聞こえてくる。

 どうやら彼も空振りが続いていた。


「そういや大志は、どんな女の子を狙ってたんだ?」


「え?特に狙いは無いけど」


「タイプとか無いのかよ、外面とか内面とか」


「女の子って、みんな可愛いじゃん。内面とか付き合う内に魅力的に見えんじゃね?」


「甘いな。オレはスタイル良い子を狙ってた!」


 憲武が再び空振る。

 さっきからバットを縦振りにしているが、あれはもしかして新しい打法なのだろうか。

 それに比べて、先刻からホームランばかり出している才能マン綺丞くんは、こちらの会話を聞いている素振りも無い。


「綺丞は扇っち狙いだもんな」


「違う」


「どこが違うんだよ!扇っちが走る時に太もも見てたじゃねえか!」


「はあ…………(お前こそ何処を見てるんだ)」


 憲武がふ、と笑った。


「矢村クンは足フェチだったのかぁ?」


「憲武は足の裏フェチだよな」


「違えよ!何だその特殊性癖!?オレは普通につむじフェチだっての!!」


 それも普通とは言い難いのだが。

 まあ、世にはいろんな人がいるのだろう。


「大志は肩フェチだよな」


「え?」


「だって、夜柳様の容姿関連の話してる時は肩ばっか力説するじゃん」


「いや、俺は雫の肩だから良いのであって別の子の肩は特に思わないから肩フェチじゃないぞ」


 俺がそう言うと、何故か綺丞と憲武に揃ってジト目で見られて「もう付き合えよ」とか言われた。

 肩が良けりゃ良い話ではないんだが………。











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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ面白くて好きです!!! 続きが気になる、、、、
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