登場人物紹介3+おまけ
・夜柳陽咲
年齢、還暦を迎えた
誕生日、十二月二十四日
好きなもの、夫
嫌いなもの、夫の気を引く物
趣味、ガーデニング、夫の調教
半世紀以上前の日本に生まれた夜柳雫バージョン。
引く手数多にも関わらず、悪い男に引っかかってそのまま外堀を埋めて見事に結婚を果たす。その多才さを余さず夫の確保に費やした。
孫の雫には、自分自身を重ねる部分が多い。
夫がとても甘やかすので嫉妬心マシマシ。孫娘にそんな感情を抱く自分への凄まじい嫌悪感と戸惑いがあって深刻な距離が生まれている。
だが、大志を見た瞬間に理解した。
この子も、私と………。
奇しくも大志が緩衝材となって溝が埋まりつつある。何とも度し難い。
「あら、郁斗さん。私の知らない間にこんなに別の猫の臭いをつけて……」
・夜柳郁斗
年齢、還暦を迎えた
誕生日、九月七日
好きなもの、猫、孫、娘、妻
嫌いなもの、嫌いなもの
趣味、妻との会話
半世紀以上前に出現した元祖大志。
多少は大志以上に物事を注意的に見ているが、比較対象が大志なので一般的な物と比べるとアウト。
一定数の女子にモテる容姿だったのだが、雫以上に徹底していた陽咲の働きがあり、もはや存在しないレベルで周囲に認識されずに陽咲一筋の人生を送る事になった。
ある意味で超不幸なリア充だった人。
ただ、無意識に陽咲ゾッコンだったのでトントン。
幼少期から複雑な孫娘を案じる日々を過ごしていたが、それを解消したお隣さんの存在には深く感謝している。
「おお、陽咲。え?猫と私、どちらが良いかって?君とワシはもう何十年も一緒にいる仲だろ、言わずとも分かるだろ。…………猫だ!!」
・赤依沙耶香
年齢、十六歳
誕生日、六月二十四日
好きなもの、音楽、ギター
嫌いなもの、
合コンで現れた少女。
軽音部で活躍中で、作曲についても才能はある。
趣味に没頭するタイプで本来ならば合コンに来る事も無かったが、ラブソングの作曲には難航しており、聞き手の心に刺さる歌詞を書くには圧倒的な経験不足だと自覚して憲武が企画した合コンに飛び込んだという経緯だった。
結果的にその中で大志という可能性を発見する。
あれ以来も連絡先を求めて雫に問い詰めているが、やんわりと断られる他に雫の操作する人間たちの包囲網によって聞けずじまい。
それでも折れないのだから中々にタフ。
「待ってろ!新曲の可能性!」
・夏川梅雨
年齢、十七歳
誕生日、六月三日
好きなもの、面白い事
嫌いなもの、夜柳雫、天川空
趣味、引っ掻き回すこと
サイドテールが特徴の美少女。
校内でも王子様と謳われるほどスポーツをしている最中の姿は美しいと定評がある。本人は試合に集中しているので気にしていないが、自分に興味のない人間からの熱烈な好意をまるで汚い物のように感じている。
その性格の悪さでブイブイ言わせていたが、逆に自分に興味のない人間はもっと大嫌い。
飲食店で店員を弄ぶ悪女をやっていた時にバイトの空に「可哀想な子だね」と言われたり、大志一途で自分を見ない雫がその例に該当する。
「ねーねー、雫ちゃん!こっち見てよー…………ちっ」
・塩田貴文
年齢、十九歳
誕生日、四月二十日
好きなもの、ぶどう、天川空
嫌いなもの、来栖円
趣味、温泉巡り
綺丞たちの高校の卒業生。
天川空とは同級生であり、彼の日々の苦労を傍で見ていた。
常に彼が身を粉にしている理由である雲雀についても把握しており、密かにオンラインで通じてはそれとなく様子を聞いたり、心配している。
そして、空にまとわりつく来栖円の影にも察知しており、あの事件が起きてからはより一層強い警戒心を持っている。
「おー、ピコ幸(ゲーム内の雲雀)。今日はどんな日だったよ。……はは、やっとリアル友だちできたのか!……………良かったな」
・宿山晶
年齢、十七歳
誕生日、五月十日
好きなもの、綺丞、花、大志
嫌いなもの、自分の足をイジって来る人間
趣味、長距離走
陸上競技にて全国レベルで活躍する少女。
中学時代に花と同様に大志のうざ絡みから関係が始まり、仲良し四人組(註:要審議)へと絆が深まる。スポーツにおいて自分と張り合えるかもしれない綺丞や、スポーツ以外の女子的な部分に共感したり寄り添ってくれる花、何を仕出かすか分からない大志のお蔭で大会続きの忙しい生活も楽しいと言える日々を送る。
今は訳あって町を離れている。
「良いか、大志。スタートダッシュを滑らかに決める姿勢ってのは……オイ、ぜってーそこから動くな?それでスタートしたらマジ顔面から……ぁあ!?」
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〜おまけ〜
俺――小野大志は幼馴染とアニメを見ていた。
ツンデレのヒロインが如何にして鈍感な幼馴染の男子を落とし、カップルになるかというのが題目となっている。
ヒロイン視点で繰り広げられるので、幼馴染が彼女をどう思っているのかわからないし、何故かヒロインを恋愛的な意味で好いている女子が参戦して三角関係になったりと、とにかく忙しい。
「うーん、これどうなるんだ?」
「……この男、腹立つ」
「んぇ?」
隣から聞こえた声に耳を疑った。
やや苛立ちを窺わせる雫の表情から、意外にもアニメに感情移入しているように見える。
まさか、意中の男子と自分の立場を重ねて見ているのか。
俺は鈍感じゃないし、雫が俺を落とそうとしているワケでもないから全く共感出来ないのだが。
「何で理解してくれないわけ?」
「何が?」
「ここまで献身的に尽くしてくれる女の子がいたら、その感情について考える筈でしょう。その時、どうして頭の中で好意があるという解答に行き着かないのか意味不明なんだけど」
「ああ、俺もそう思った」
「………………」
「ん?どした?」
「盛大なブーメランって自覚ある?」
「え?俺の事?…………ああ、献身的に尽くしてくれる人って雫の事か」
何故か後頭部を鷲掴みにされた。
相変わらず握力凄いな、頭蓋骨が感動してミシミシ鳴っている。
「でも雫は俺の事、好きじゃないしな」
「は?」
「だって、学校で聞いたけど雫のタイプって鈍臭くて目を離すと死んでそうな男子なんだろ?俺はそれに当てはまってないしなぁ」
「私に好きなタイプなんて無い」
「いや、人間なんだしあるだろ」
「好きなタイプというのは趣味趣向。条件に該当すれば一人、二人、三人とある程度存在する。……悪いけど、私はその一人しか見えないの、絶対に。それ以外を目にするなんて断じて有り得ないから、絶対に。絶対に逃さないから、絶対に」
光の無い瞳で雫が断言する。
可哀想に、これは相当に病んでいるな。
きっと、雫に好かれたヤツは一生逃して貰えないのだろう。不憫でならないが、俺には関係ないので別にいいや。
「一途だな、雫は」
「……………大志のタイプは?」
やや照れながら雫が尋ねてくる。
俺のタイプ?
「俺のタイプは俺を好きな人」
「………………………」
「誰とでも付き合える自信あるわ。俺、隣の婆さんともキスできるし、向かい側の旦那さんとも一生添い遂げれる自信あるわ。……あ、どっちも結婚してるのか」
「………………………………………………………………」
雫が汚物でも見るような目で俺を見た。
「どうした?」
「……アンタと一生添い遂げられるような人間なんて、この世には一人くらいしかいないわよ」
「え、七十億以上の中で一人!?」
「そうよ」
「じゃあ、徐々に増えてくといいな」
「増やすわけないでしょ、阻止するわ」
「俺が幸せになると雫は困るのか」
「……………大志は、私が幸せにならないと困る?」
「いや全く?――ごぶるぷぁッッ!!!!」
横から顔面に強い衝撃を受けて横転する。
何が起きたのかわからないが、大した怪我では無いので良しとしよう。
「まあ、もし俺が幸せじゃないとしたら、それは雫が不幸な時かもな」
「…………えっ?」
「いつも一緒だった雫が幸せになってないのに、俺一人が抜け駆けってのは駄目だ。幸せになる時は一緒だろ」
「……………」
「だから――――んむ!?」
言葉を続けようとした俺の視界を唐突に雫の手が覆う。
何も見えない中、唇に何か柔らかいものが触れた。
この感触は……………豆腐?にしては温かい。
手が離れると、いつの間にか至近距離にあった雫の顔と視線が合う。
「よく分かった」
「何が?」
「逃さないから、絶対に」
「誰を?」
「アンタが悪いんだからね」
「何で?」
何も教えてくれない雫は、そのまま立ち上がって夕飯の支度を始めた。
いつの間にかアニメも終わっていたし、終始何なのか意味不明だったな。やはり俺に恋愛は難しいかもしれない、鈍感じゃなくても恋なんて物は一筋縄じゃいかないな。




