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フラグその二



「じゃあ、私は行くわね」


 俺たちは校舎を出てから、雫や夏川さんと別れた。

 夏川さんに案内され、生徒会室に導かれて一悶着。

 つくづく意味不明な時間の過ごし方である。

 とにかく、方針は定まった。

 雫の出場する競技のみ応援に全力を注ぎ、それ以降は雫同伴という奇妙な条件を課したまま女の子との交遊ができる。

 ワクワクして来たぞ。


「扇ちゃん、頑張れよ!」


「…………転ぶなよ」


「いってきます!」


 元気よく走っていく扇っち。

 俺たちは彼女を見送ってから、関係者が観戦できるスペースへと移動する。

 それにしても、グラウンドが広いな。

 敷地や整った設備を見るに、翌週から自分の高校を直視できないかもしれない。


「綺丞は結局、観るのか?」


「……扇が落ち込むから」


「扇っちには本当に甘いな」


 何だかんだで妹に甘い。

 最初は頼んでも無言で拒否するのに、俺が泣きつくと結局折れてくれる。

 そういうところが雫と似てるんだ。

 だから、超泣きっ面で頼んだら扇っちとの交際を認めてくれるかもしれない。


「大志。俺、扇ちゃん狙っても良いかな」


「憲武には無理だろ。なあ、綺丞?」


 無視された。

 綺丞の視線は既にグラウンド中央にある。

 入場し、整列し始めた女子高生たちに、朝というのに彼女らの戦を見に来た多くの関係者たちが歓声を上げていた。

 雫が入って来た時は大いに盛り上がる。

 アイツが俺の方へとにこやかに手を振っただけで、俺の前を先に陣取っていた人間が老若男女問わず喜びのあまりむせび泣く。

 この距離で人に隠れて隙間から見ている俺を、彼女はなぜ一瞥で捉えられたのだろうか。


 それにしても、みんな可愛いな。

 このニ年間、ほとんど雫以外の女子との交流が少なかったせいかもしれない。

 最近になって頻度は高くなったが。



「あれれ、もしかして小野大志くんかな?」



 陽気な声が隣から聞こえる。

 俺の傍らで、顔を下から覗き込んで来る顔が一つあった。

 中性的な顔立ちで、性別がどちらか分からない。

 服装は男物だが、女性的な線の細い体、派手なメッシュ入りの黒髪。

 何処から突っ込んで良いか分からない。


 知り合いのように話しかけて来たが、生憎と覚えが無い。

 思い出せ。

 もしかしたら、花ちゃんと同じで少し考えれば分かるかもしれない。

 そうだ。


「久し振り。何処かで会ったことある?」


「相変わらずお馬鹿さんだね」


 さらっと笑顔で人をおバカと言ってきた。

 その言葉に、隣で憲武が「あぁん!?」と反応してメンチを切る。いや、おまえじゃない。

 綺丞も何事かと視線だけこちらに向けて、一瞬だけ目を見開いた。


「俺たち知り合いなのか?」


「そうでもないかな」


 どっち?

 まあ、いいや。

 紅白組に分かれた女子のそれぞれの代表一名ずつが前に出て、宣誓を始める。

 片方は知らない女子。

 もう一人は赤依沙耶香だった。


「キミは夜柳雫の応援に?」


「半分不正解」


「ふうん。……ボクは実河雲雀って子の友だちで、彼女を見に来たんだ」


「あははは!無い無い、雲雀の友だちにこんな胡散臭いヤツいるなんて絶対あり得ないって!」


「…………」


「ここまでギャグセンス高いヤツ初めてだ」


 自立女子の雲雀は、こんな怪しい人間と友だちなんてミッチミチな関係に、違うな、密な関係にはならないだろう。


「キミって昔からボクをイライラさせるよね」


「え、心当たりは無いけどすまん」


「ま、いいや。ちょっとクールダウンの為にボクは別の場所で見よーっと」


 そのまま不思議な彼?彼女?はどこかへと歩き去っていく。

 会話をしていたら、すっかり宣誓は終わって開会式が終了していた。

 ううむ、見逃した。


「大志」


「ん?」


「アレと関わるのはやめておけ」


 綺丞がこちらを見ないまま言った。

 視線の先を追うと、整列している女子たちに向けられている。どれだ、どの子とお付き合いするのはダメって事だ!?

 まさか、アレって…………女子と関わるのがダメって事ですか。

 久し振りに会ったから、もしかすると綺丞は嫉妬しているのかもしれない。俺という親友が、自分をそっちのけで女子に目を光らせている事が寂しいと思っているに違いない。


 全く、寂しがりなところも雫と似てないな。


「心配するな、綺丞」


「……………?」


「俺の親友は、おまえだけだぜ」


「……………………………………………………………………………」


 綺丞が黙り込んでしまった。

 流石に恥ずかしかったか。

 まあ、以心伝心という言葉がある。言わなくても俺たちが親友であることは共通の認識だろう。

 ふ、お前ってヤツは。


「あれ?」


 そういえば、雫が何の競技に出るかを俺は知らない。

 これ、ずっと見てなきゃ分からなくね?


「――と、思ってるだろうから伝えに来た」


「おお、雫」


 いつの間にか背後に雫が立っていた。

 ジト目で俺を見ている辺り、呆れているのだろう。

 俺だって先に尋ねておかなかった事は悪いと感じている。少しだけ。

 でも、条件を提示したのが雫なのだから、俺に伝達しておく義務があるはずだ。少しだけ。


「私は障害物走、大縄跳び、騎馬戦…………と、クラス対抗リレーに出るから」


「騎馬戦か。…………雫」


「なに」


「騎馬戦はしっかりルールを守るんだぞ。具体的に言うと、人殺しは無しだ」


「アンタが全力で応援してくれたら、そんな事しないから」


「そうか」


 つまり、人の命が俺の応援に懸かっているのだな。

 益々これは全力で頑張らないと。


 ともかく。

 聖志女子高等学校体育祭…………開催だな!








おまけ


 〜中学時代〜


 中学最後の体育祭、俺と綺丞は二人三脚で出場する事になった。

 親友である俺たちの亜鉛の呼吸があれば、一位なんて簡単に取れる。


「阿吽の呼吸」


「え、そうなの?」


 そうか、そうなのか。

 えっと、阿吽の呼吸で一位など楽勝だ。

 日頃から何もかも一緒で、それこそお互いの事を何でも把握している俺たちほど走れるヤツなんてそういるはずがない。


「綺丞、優勝は間違いないよな!」





 数時間後、体育の授業が体育祭練習となっていたので、俺と綺丞は早速だが二人三脚練習に取り組んだ。

 結果として、メチャメチャ速い。

 何なら先生に絶賛された。


「綺丞、少し思ったんだけどさ」


「………」


「二人でやる競技だから、足は四本だろ?何で三脚なんだ?」


「………二人の片足を束ねて一本になる」


「なるほど。だから三本か……じゃあ、俺と綺丞が一本ずつ足を増やせば、二人は二本足で走れるんだな」


「…………………????」




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[良い点] なんでこんな馬鹿な事を考えられのか、天才か
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