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井戸端騒ぎ



 テストが終わり、五月最後の週末。

 俺は今日も暇で居間の床に伸びていた。

 そんなだらしないところを、冷たい目で見ながら洗濯物を持って去っていく雫。

 そこで寝転がるなら部屋に行けという話だろうな。

 でも、今は開放的なところで寝たい。


「テスト終わってやること無いな」


「私の手伝いは?」


「いても邪魔って言われるしな」


「トロいからね」


 それ美味しそうだな。

 学校も六月に体育祭を開催するらしいのだが、俺からすれば余計な事をしてくれたものだと思う。

 男同士の熱い血潮をぶつけ合う最高の体育祭を、何故そもそも最適な夏という季節に催すのかが意味不明だ。

 俺は夏が好きじゃないので、正直テンションが上がらず体育祭実行委員を務めてしまった。

 やれやれ、気が滅入るな。


「雫の所も体育祭ってやるの?」


「六月の初旬に。大志は………中旬だっけ」


「そう。その日さ、保護者とか関係者は入れるらしいから一緒に弁当食べね?というかパン、パンを所望する」


「…………アンタの男子校に、あまり入りたくないけど」


「人気の無いところ知ってるぞ」


「…………」


 雫はため息をついてから、それならと頷いた。


「去年は膝血塗れにして帰って来たけど、今年はやめて。心臓に悪いから」


「分かった、膝は守る」


「膝以外も怪我に気をつけなさい」


「いや、俺は器用じゃないから一つしか守れないぞ」


「怪我一つでもしたら私が血祭りに上げるって言ったら?」


「頑張りますです」


 心臓に悪い視線を向けてきた雫にトゥンクして俺は反射的に受領した。

 確かに、今年は怪我もしたくないな。

 思えば、雫に加えて色々な人に助けられているので小学生の頃に比べたら中学から今まで怪我の数が極端に少なくなった気がする。

 雫が見ていない時が一番怪我してたし。

 中学では綺丞、高校では憲武とかが守ってくれたからな。

 憶えてたら彼らには後で感謝のメールを送っておこう。


「あ、そういえば」


 テストが終わったので、俺は花ちゃんとの約束を果たす事にした。

 早く帰って貰う為の交換条件。

 あの時は無我夢中だったので、内容の詳細は覚えていないんだが、約束したことだけは覚えているような気がする。

 井戸端騒ぎで強制退去させてしまったので…………ドタバタか、ドタバタ会議で強制退、違うなドタバタ騒ぎで強制、微妙だな、ドタバタ騒ぎで矯正、あれ、どれが正解だよ。


 迷惑をかけた事には変わりないので、彼女の要望に答えるしかない。

 正直、あの花ちゃんの変わり様が俺には驚きと歓喜を通り越して恐怖だったし、何なら『しょげた雫』という爆弾を作っていったので良い思い出は無いのだが。

 ついでに綺丞とか呼んだら安心できそうだが。


 俺はスマホを取り出し、メッセージを――。



「……………連絡先、消えてね?」



 確かに何度も連絡を取り合ったりしたので履歴にも残っているはず…………無い。

 俺のスマホから悉く花ちゃんの存在が失せていた。

 もしかして、再会したのは夢?

 俺が可愛く夢想した全く別人の花ちゃんで、今まで俺はイマジナリー何とかと戯れていたのか。

 いや、でも。

 何か前にもこんな事があった気がする。

 いつだっけ、というかあったっけ。


「大志、ゲーム解禁」


「え、マジで!?」


「ただし、一日一時間くらいはその日の授業、ノートを見返すくらいでも良いから復習すること」


「しなかったら?」


「次の勉強は見ない」


 死刑宣告じゃん。

 因みに今回のテスト、俺は赤点を回避した。

 懸念した通り、赤点補習者が多すぎるのでいつもの三十点以下へと繰り下げられて皆が歓喜して校内はいつもより平和だ。

 生徒会長との対決は予想通り俺の圧勝。

 雫には惨敗を喫したが、それも仕方がない。平均点九十七点って何だよマジで。何を食べたらそうなるんだよ、俺も同じ物食ってるのに。


 ああ、俺の夏休みは終わった。

 慰安旅行には行けても、それ以外の時間は全て雫に拘束されるらしいし。

 今からでも真剣マジ頼みで言えば雫も許してくれるかな。


「雫、話があるんだけ――」


「そ、それより大志。…………夏休みに色々な所に行くつもりなんだけど、こことかどう?」


「………………………」


 駄目だ。

 無表情だが、俺には分かる。

 いつもより目がキラキラして楽しそうだ。まだ一ヶ月以上も先なのに、すでに計画を練り始めている時点でやばいな。

 言ったら何されるんだろう。

 趣味を妨害しただけでひき肉にするって言われたから、彼女の予定まで邪魔したら撒き餌にされるかもしれない。


「プラネタリウム?海の生き物だろ、ソレ」


「それはプランクトン。プラネタリウムは疑似天体観測。昔、一緒に行ったけど出資者がいなくなって、そこは潰れたけどまた再建したらしいから」


「そうだな、久しぶりに食べに行くか」


「何を」


 デートプランを二人で練るという世にも奇妙な事をしながら、俺は横目で楽しそうな雫を盗み見る。

 恋人を作ったなんて嘘は吐くし、女の子との接触はさせてくれないし、今年の雫は異常だ。

 一体、何が彼女をそうさせているのだろう。

 普段から怒らせているから、そこは別に問題ではない。

 重要なのは、彼女の地雷だ。

 女の子と登校したらキレたので、じゃあ登校はやめてデートしたら拗ねたし、水族館で雫の分のストラップを買ったけど自分だけだと引け目を感じるだろうから俺と梓ちゃんでお揃いを勝ったら最低と罵られた。

 ううむ、よく分からない。

 何がいけないのか皆目検討も付かん。


 ただ。


「雫、楽しみなのか?」


「別に」


「そのパンフは?」


「下調べで取り寄せた」


「ほーん」


 ここまで楽しそうな雫の気分を害するような事は言いたくない。

 それだけだ。


「雫、俺プラネタリウムよりプランクトン見たい」


「海に沈め」


 あれ、気遣った一言なのに急転直下。





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