登場人物紹介2+おまけ
・瀬良花実
年齢、十六歳
誕生日、五月十日
好きなもの、無垢な物、大志
嫌いなもの、偽る人、夜柳
趣味、ガーデニング
大志の中学時代の同級生。
高校に入ってイメチェンした結果、校内でも有数のモテ女子になるが、大志と会う以前までは極力目立たず、無難にやり過ごそうとしていた時期があり、消極的で暗い性格だった。
臆さずナンパから救ってくれた大志と綺丞は友人。特に前者は嘘偽り無く接してくれるので警戒せず、肩の力を抜いてありのままでいられるから特に好いている。
ただ、中学最後の年に告白を試みたが雫の妨害によってそのまま疎遠となってしまう。
この事から雫への怨恨は凄まじい。
弟や妹を抱える長女で、家事スキルは高い。
自宅のガーデニングは趣味というより、両親が忙しく構って貰えなくて寂しがる弟と妹が楽しんでくれるもあって日頃から行っているだけである。
「大丈夫。私が『普通』を教えてあげるね」
・矢村綺丞
年齢、十六歳
誕生日、一月二日
好きなもの、一人アウトドア
嫌いなもの、人の出す騒音
趣味、楽器作りと工作
大志の中学時代の同級生。
夜柳雫に匹敵するポテンシャルの持ち主。
両親は外資系企業に務めており、将来を嘱望されているがこれに辟易し、普段から家族も含めて一人にして欲しい性格になっている。
他人からの期待、関心などが煩わしい。
距離感の無い大志を最初は本気で嫌悪しながらも、自分を見る目が周囲とは異なるその性質に絆され、何だかんだでニ年間面倒を見た。
因みに妹が一人いるが、父の再婚相手の連れ子なので義理。大志と少し似た性格で手を焼いているが、何だかんだで面倒を見ている。
隣町の進学校に入学、成績上位をキープしながら相変わらず孤高。
最近届いたメールと隣の級友の変化から嫌な予感を察知している。
「……………」
・天河空
年齢、十九歳
誕生日、四月十六日
好きなもの、家族、睡眠、従姉妹の笑顔
嫌いなもの、来栖円、バイト、従姉妹の両親
趣味、ランニング
綺丞や花実の先輩に当たる青年。
家族仲も良好で友人も多く、人柄が良いので一定数の異性から好意を向けられている。
従姉妹である実河雲雀の為に骨身を惜しまず働くが、掛け持ちの数も多く激務ゆえにバイト延いては労働自体は必要以上はしたくない質である。
来栖円と、その人に心酔して雲雀を蔑ろにする彼女の両親を心底から嫌悪している。
雲雀とは日頃から交流しており、彼女が所持するソフトの幾つかは空が贈った誕プレやクリスマスプレゼント。
他にも友人として性別不詳の『天使』がいるが、その人が仇敵である事には気付いていない。
いつか知った時、どうなるか。
「雲雀の幸福が俺の体で替えられるなら上等」
・来栖円
年齢、??
誕生日、?月?日
好きなもの、人の幸福と不幸
嫌いなもの、つまらない人生
趣味、空
隣町で雫と並ぶ知名度を誇る性別不詳の人。
通称『陸戸根の神秘』。
カウンセリングをしている両親に倣って相談所を勝手に開き、幾度か数をこなす内に、利用者が創設した宗教団体『円の教え』の教祖になる。
正直、興味は無いが自分の口先一つで狂っていく他人の人生を余興として眺めている。リスク・リターンの計算も完璧なので、仮に自身が発端で犯罪が起きようと最後には有耶無耶にして幾度も回避しているヤバいヤツ。
空とは教祖としての職務を終えた時間帯でよく会う。
自分の声を、言葉を聞いてもブレない強さと愛する者への直向きさから興味を抱いている。
天敵は大志。
隣町へ遊びに来た小学生の彼と一度だけ会った。
ちょっとした会話で真芯を見抜かれて『自分の幸せが分からなさそう』と言われて硬直、そのまま危険を察知した雫に連れ去られて会話は打ち切りとなったが、それ以来大志のことを蛇蝎の如く嫌っている。
「ボクは空の幸せな人生を傍で見ていたいな」
・矢村扇
年齢、十五歳
誕生日、九月十八日
好きなもの、人と遊ぶこと
嫌いなもの、一人の時間
趣味、皆でアウトドア
綺丞の妹。
容姿は見ていてほっこりする系の美少女。
学力や運動能力が兄に見劣りするので両親に期待されず放置状態にされているが、祖母と兄が面倒を見てくれたお蔭で曲がらず優しい子に育つ。
ただ危機感が無く、人懐っこい性格。
不注意な大志と違い、ただの不幸体質。
一人アウトドアで家を出た兄に無理やり付いて行き、二人で過ごしたがるほど寂しがりでもある。
大志の事は心の底から尊敬している。
家に招いた際にも、両親から侮蔑や嘲笑を直接向けられて『君と綺丞は釣り合わない』と言われても、空気が読めないので『綺丞の両親って聞いてたけど思ってたより普通っスね!』と笑って返して彼らを黙らせた事に度肝を抜かれた。
何より、友人の影が無い兄が唯一親しくしていた人物なので、もはや神格化すらしている。
「お兄ちゃん、一緒に遊ぼ!…………飴あげるから向こう行ってろ?わかった!…………(十分後)お兄ちゃん、飴要らないから一緒に遊ぼ…………?」
※ ※ ※ ※
・おまけ
大志(中学時代)。
どうも初めまして、矢村扇です!
中学二年生で、既に推薦で受験合格してしまい暇を持て余し気味な兄と週末に行くキャンプで食べるご飯の材料を買いに来ました。
ふふん、楽しみです。
「お兄ちゃん、何にしよっか」
「(本気で付いて来る気か)」
黙々と隣に並んで歩くお兄ちゃんに商店街の衆目が募ります。
どうですか、自慢の兄です!
私一人で買いに行こうかと考えましたが、寂しがりな私の為に付いてきてくれました。
一人で出かけると怪我ばかりする私を幼い頃から助けてくれるのはお兄ちゃんです。カッコいい兄で私は幸せだ!
今も私の進行方向にある小石を路肩に蹴って弾き飛ばしてくれている。
「お兄ちゃん、いつもありがとう」
「(商店街で死者を出したくない)」
「週末は釣りもしたいから、お魚料理も念頭に考えよ。大丈夫、わたしが百匹釣るから!」
「(今回はバケツとブーツ以外に何が釣れるのだろうか)」
私とお兄ちゃんは早速スーパーマーケットへと向かいます。
前回、キャンプをした時はお兄ちゃんが料理も何もかも全部やってくれたけど、この週末は私がやって褒めて貰うんだ!
この意気込みが空振らないように対策も練りました。
絶対に失敗は――。
「お?綺丞と扇っちじゃん、奇遇だな!」
背後から私たちに声がかけられる。
振り返ると――――そこに、左袖だけ失った私服姿の大志さんがいました。
ズボンの裾も破れていますが、一体どうしたのだろう。
「ど、どどどうしたんですか!?」
「聞いて驚けよ?いや、別に驚かなくていいや。でもなぁ………特に面白い話でもないし」
「(良いから話せよ)」
取り敢えず、怪我をしているであろう大志さんに絆創膏を渡しました。
きっと、途中で災難な目に遭ったのだろう。
まるで野犬の群に襲われたかのような惨状は、商店街でお兄ちゃんに向けられていた視線を恐怖に染め上げてしまう程です。
「実は一人で出かけようとしたら雫に着ていく服をボロボロにされてさ、『これで出るなら許すけど』って言われたから着て出てきただけだ」
「わあ、大志さんは勇者です!尊敬します!」
「(帰れ)」
嘆息したお兄ちゃんが自分の上着を大志さんの肩にかけます。
お兄ちゃん優しい!
「良いのか、綺丞」
「…………ん」
「でもこれ黒か………俺の趣味じゃないな!」
「……………」
「大志さん、お似合いですよ!」
「そう?なら全然オッケー!」
そう言って笑う大志さん、笑顔が眩しい。
お兄ちゃんは何故か雰囲気が不機嫌そうですが、ひょっとして寒いのかな?私のじゃ、ちょっと小さいし…………。
そう考えていると、大志さんの背後でゆらりと影が動く。
何事かとよく見てみたら、美人さんがそこに現れました。
「大志、それ着なくて良いから」
「あれ、雫。おまえもカップ麺買いに来たの?」
雫――と大志さんに呼ばれた美人さんは、彼からお兄ちゃんの上着を素早く剥ぎ取ると、お兄ちゃんの胸に投げ返しました。
さっきよりお兄ちゃんのまとう空気がまた変わってる!
いや、それより…………。
「お兄ちゃん!」
「…………?」
「私もお兄ちゃんの上着、着てみたいっ」
「……………」
「…………だめ?」
ため息をつきながら着せてくれました。
うわー、ブカブカだ。
これが兄の着る物、あの私を守ってくれる大きな背中に合うサイズなんですね。
一方で、雫さんから渡された服を大志さんは着ました。
「悪いな雫、わざわざ」
「その格好で本当に出ていくとは思わなかったわ」
「ちょっと変わってるけど、涼しくて丁度良かったぜ?」
「肌感覚までバカなのね、いま冬なのに」
何だかこの二人、気心の知れた仲の良さって感じがします!
お兄ちゃんがそれをじっと見ていますが、もしかして羨ましいのかもしれません。
「お兄ちゃん!」
「…………?」
「私とお兄ちゃんだって負けてませんよ!」
「(何が)」
私がお兄ちゃんと仲の良さを確か合っていると、雫さんの視線がこちらに向いているのに気づきました。
ふわあ、顔が綺麗!
何かもう…………語彙力が追いつかなくて悔しいくらい凄い!
「矢村くんの妹さん?」
「はい、矢村扇です!」
「本当に妹?……………信じられない」
雫さんが怪訝な眼差しでお兄ちゃんを見ます。
雫さんは、お兄ちゃんと同じでほとんど無表情ですが、よく見ればちゃんと分かるところも似てますね。
その後、大志さんは雫さんに引きずられて何処かへ去っていった。
二人でこれから遊ぶのかもしれません。
今度もし会えたらお友達になりたいです。
「ん?ケータイ鳴ってる」
私のスマホが震動してます。誰かから電話がかかってきたのかも。
友だちからのお誘いだったら嬉しいな!
………………お父さんからだ。
「もしもし」
『もしもし。…………外が騒がしいようだが、何処かに出かけているのか?』
「う、うん。週末にお兄ちゃんとキャンプ行くから買い出しに…………」
『そんな事をしないで勉強しろ。何よりおまえが近くにいると綺丞の迷惑なんだから、自重しなさい』
「っ……………」
め、迷惑……………そ、そうだよね。
何だかんだ、前回も大いに呆れられていた気がします。
うん、確かに成績も平均くらいで良いわけではないので、勉強した方が良いかもしれません。
そうですね、キャンプは諦めよう。
…………行きたかったな。
でも、今回も勝手について行こうとしてるだけだし………お兄ちゃんも本当は嫌かもしれないしね。
え――?
不意に横から伸ばされた手に、私はスマホを取り上げられました。
「俺が扇と行きたいだけだから迷惑じゃない。――それじゃ、切るよ」
ぶつり、とお兄ちゃんが通話を切ります。
それから無言でスマホを手渡して、歩き始めました。
「お兄ちゃん………?」
「扇」
「…………?」
「早く行くぞ」
振り返ったお兄ちゃんの顔を見て、思わず涙が出そうになります。
自分がお父さんやお母さんと険悪になるかもしれないのに、私を庇ってあんな言い方をさせてしまった。
本当に自分が不甲斐なく感じます。
私がもっと賢ければ、こんな事も無いのに。
「ごめんなさい、いつも迷惑かけて」
「………」
「私、頑張るから」
「…………」
誓うように言葉を口にすると、お兄ちゃんはため息の後に優しく頭を撫でてくれました。
それからスーパーでは私と一緒に献立を考えてくれたし、夜には帰って来た両親の目につかないように私を自分の部屋に招いて遊んでくれました。
やっぱり、お兄ちゃんは最高のお兄ちゃんです。
「お兄ちゃん」
「…………?」
「いつか私が今まで助けて貰った分と、それにお釣りができるくらいお兄ちゃんの事を助けるね!」
「…………」
「あだっ」
柔らかいチョップを頭に頂きました。
何故?




