第9話 京の都へ出かけます
さえとせんとの生活が始まり三日が過ぎたころ、ようやく女神様からもらったタブレットに最初の依頼が届いた。
―――――ピコン♪
俺の頭の中で響くその音に、初めは何か分からなかったがすぐにタブレットの音だと気づきアイテムボックスから取り出す。
幸い今は、境内を掃除している時だ。
さえとせんとは離れた場所にいるので、見られることはないだろう。
俺は取り出したタブレットを起動させ、入ってきた指示を見る。
『拓海さんをその世界へ送り、何日か過ぎました。
拠点になりそうな場所へ送ったので大丈夫だと思い、最初の指示を出します。
京の都へ行き、三人の孤児を救ってください。
詳しい地図を添えておきます』
という内容で、地図も添えられていた。
「ん~、この地図を見ると下京だったかな?そのさらに端だな……」
救ってほしい三人の孤児は、どうやら一緒にいるようでこれなら連れてくるのは簡単だ。三人の孤児がいる場所まで行き、『箱庭』へ入れればいいのだ。
問題は、ここからどうやって京の都まで行くかだ。
歩きや馬に乗っては論外。
今は、何日もこの神社を空けるわけにはいかない。さえとせんも来たばかりだし……。
それにこの時代は、確か野盗がいて危ないし関所があって移動が大変だったはず。
となれば、空を行くしかない。
でもだからといって、空が飛べるわけないんだよね。俺は飛行魔法は使えないし。
空間魔法には、ゲートという場所と場所をつなぐ『どこでも〇ア』のような魔法があるけど、一度行ったことがある場所でないと使いない。
で、ここは魔道具に頼ろうと思う。
「こんなこともあろうかと、と用意しておいて正解だったな。
箒型飛行魔道具。魔法使いが空を飛ぶといったらこれしかないな……」
でも、今すぐというわけにはいかない。
一緒に住んでいる、さえとせんがいるのだ。二人に少し説明しないと。
心配させるわけにはいかないだろう……。
▽ ▽ ▽
「出かけるのですか?」
「ああ、明日出かけてくるよ」
夕食の時、囲炉裏の周りに座り温まりながら食べている時に明日の予定を話した。
京の都まで行くことを話すと、何日もいなくなることになるのでちょっと隣村ぐらいまでと誤魔化しておく。
さえはこの神社に来てから、何とか馴染もうとしているのだが妹のせんは、まだまだ俺との距離があるように感じる。
ただの人見知りだと思いたいが今も、じっと俺を見つめているだけだ。
「それでは、私たちはどうすれば……」
「この神社で、いつものことをしてくれたらいいよ。
掃除や境内の見回りなどね。お昼は台所に用意しておくから、お腹が空いたらせんと一緒に食べるといい」
この社務所の台所は、土間の端にある。出入り口から、一番遠い場所だ。
「分かりました」
「……」
さえが返事をすると、せんも頷いて了承を表現する。
二人だけで留守番を任せるのは心配だが、おそらく大丈夫だろう。
野盗が出るという情報は、村の人から聞いたこともないし……。
でも万が一、何かあった時のための対策はしておくか。
夕食が終わり、さえとせんがお風呂に入っている間に、俺は社務所の外に出て結界を張りに行った。
今回の結界は、前に張った霧の結界とは違い迷いの結界だ。
この結界に触れると、いつの間にか元の場所に戻るというやつだ。
鳥居の外に出ると、すぐに結界を張る。
……これで、もし野盗が来ても大丈夫だろう。
「さて、お風呂入って寝るか」
そう言って俺は、境内に戻っていった。
▽ ▽ ▽
次の日、三人で朝食を食べ終わると俺は歩いて境内を出ていく。
さえとせんが、石階段のところまで見送ってくれたので俺は手を振って挨拶をした。
俺が手を振りながら神社を出ていくと、さえとせんの二人も手を振って見送ってくれた。
ただ、二人が見ている前で魔道具を使うわけにもいかないので、ある程度離れてから使うことに。
しばらく歩いたところで、森に入り誰もいないことを確認するとアイテムボックスから『箒型飛行魔道具』を取り出し跨る。
箒に跨って空を飛ぶとなると、お尻が痛そうだがこの箒にはお尻を乗せるサドルが付いているし飛んでいる間の足を置く金具がついている。
これも、快適に空を飛べるように付けてみたのだ。
「さて、それじゃあ京の都へ行こうか」
俺は、自分に『認識疎外』と『光学迷彩』の魔法をかけて姿を消した後、一気に空へ飛び出した。
森の木々を抜け、一定の高さで空を飛び京の都へ向かう。
中国地方の山陰から京の都まではかなりの距離だが、空を飛べばあっという間だろう。途中、いろいろな景色や町や村を上から見るが、なかなか興味深いものだ。
しばらく眺めながら飛んでいると、京の都が見えてきた。
空から見る京の都は、かなりの広さがあることが分かる。
碁盤の目のような道が通っていると聞いたことがあるが、本当に碁盤の目のような道が通っていた。
……だが、よく見れば所々焼けたままの屋敷や家が見えるし、人が寝ているのか地面に倒れている姿をあちこちで見かける。
もしかして、アレがこの時代の京の都名物『人の死体』か?
倒れた人を気にしてないのか、普通に人が往来している。
何とも不気味な感じがするが、今は人探しが先だ。
地図で指定していた下京の端に降り立つと、箒を持ったまま歩いて探し始める。
認識疎外と光学迷彩の魔法を解除していないので、俺を見たり気にしたりする人はいなかった。
俺は目的の三人のいる場所をタブレットで確認し、さらに歩いて探す。
今回も読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。