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第7話 預けられる姉妹




「えぇか、さえ。せん。

これから行く所はここから近い。いつでも会えるけんなぁ……」


私と妹の手を握り、目の前で泣きながら別れを言っているおばあちゃん。

遠巻きに私たちを見るのは、今は亡き母の兄夫婦と三人の子供。おじさんとおばさんは、厄介払いができたと思っているのだろう。


私たちがこの家に引き取られたとき、何度もどこかに奉公に出せとおじいちゃんに意見していたのを覚えている。

そして、そのおじさんたちの子供が三人とも笑っている。


あの三人には、この家に引き取られてから何かといじめられてきた。

特に、三男の歳三は何かにつけて私と妹をいじめていた。

私は、何とか耐えていたけど妹は泣くことが多かったため、おじさんとおばさんにその泣き声がうるさいとよく叱られていた。


去年、私たちがいた隣村で洪水が起こり父と母が流され亡くなった。

また、その洪水で家や田も流されて居場所を失い、私たち姉妹はこの村の村長をしているおじいちゃんに引き取られたのだ。


……でも、ここに私たちの居場所はなかった。



「儂が送ってくる……」


おじいちゃんがそう言うと、私と妹の手を取り家から歩き出す。


「……元気でな、さえ。せん」

「お世話になりました、おばぁちゃん……」

「おせわになりました……」


おじいちゃんの手を握り、振り返りながら私と妹はおばあちゃんに挨拶をした。

持っていく荷物など無いため、手ぶらで歩いている。


ボロボロの使い古された草履に、おばあちゃんの服をもらい着ていた。

あまり食べさせてもらえなかったこともあり、私たち姉妹の体はやせ細っている。

おじいちゃんとおばあちゃんは兄夫婦に何度か注意はしていたが、改善されたことはなかった。


自分達が食っていくだけでやっとなのに、居候に分ける食い物はねぇ、と良く言い合いをしている姿を見ていた。

そんな日、私はいつも寝床で泣いていた……。


だけど、もう言い合いをすることはない。

私たち姉妹は、これから行く所に預けられるのだから……。


「すまねぇな、さえ。頼りねぇ爺でよう。

今年も、米や作物の出来が良くなくてなぁ、みんな生きていくだけでせぇいっぱいだ……」

「おじいちゃん……」


私の手をぎゅっと握り、おじいちゃんは泣いているようだった……。




▽   ▽    ▽




「ここだ。さえとせん、今日からこの神社に世話になるんだ……」


おじいちゃんに連れられて、森に向かってしばらく歩いた後は森の奥へと続く道を進む。そして、私の目の前に見えたのは立派な建物の神社だった。


朱色の鳥居をくぐり、石階段を上ると男の人が待っていた。


「ようこそ『桜花神社』へ。

待っていましたよ、村長さん」


若い男の人が、声をかけるとおじいちゃんは深々と頭を下げた。

おじいちゃんと手をつないだままの私と妹も、一緒に頭を下げる。


「この度は、儂のわがままを聞いていただきありがとうございます。

この子たちが、こちらでお世話になるさえとせんです」


そう私たちを紹介すると、挨拶をするようにおじいちゃんは促してきた。


「は、初めまして、さえと言います」

「……せん、といいます」

「今日からお世話になります、よろしくお願いします」

「……よろしくおねがいします」


私たちが挨拶をすると、若い男の人は私たちの目の前にしゃがみ込んで自己紹介をしてくれる。


「こちらこそ初めまして、この『桜花神社』の宮司をしています石川拓海です。これからよろしくお願いしますね」


……優しそうな人だ。

おじいちゃんの家のおじさんたちや、あいつらとは全く違う男の人。

身なりも整っていて、身分の高い人ではないかと思えてしまう。


「さえ、せん。……元気でなぁ。たまに婆さんと一緒に、会いに来るからな?」

「おじいちゃん……」

「……」


私と妹は、おじいちゃんの足にしがみついた。

あの家で、私と妹の味方はおじいちゃんとおばあちゃんしかいなかった。

頼りないっておじいちゃんは言うけど、私にとっては優しくて頼りになる人だった。


その気持ちは、妹も同じだと思う。

あいつらにいじめられると、いつも慰めてくれたおじいちゃんとおばあちゃん。

私たちを、見捨てないで引き取ってくれてありがとう。


私たちに、優しく接してくれてありがとう。



しばらくしがみついていると、おじいちゃんが私たちの肩を軽くたたき宮司さんの側へ行くように促した。

ゆっくりお爺ちゃんから離れて、宮司さんの手を私と妹が左右に分かれて握ると、おじいちゃんは黙って頭を下げて帰っていく。


私と妹は、涙を流しながらその後姿を見送る。

……もう会えないわけじゃない、また必ず会えると思いながら見送った。



おじいちゃんの姿が見えなくなると、宮司さんが私たちに声をかける。


「それじゃあ、中に入ろうか?

もうすぐ冬だし、寒くなってきたからね。

それに、さえとせんのこれから暮らしていく家を紹介しないとね」


「……はい、宮司さん」

「……グスッ」


私と妹は、涙を拭うと宮司さんに返事をした。

気持ちを切り替えるには、少し時間がかかるが私たちは今日からこの神社にお世話になる。


どんなところなのか、知っておかないといけない。

そして、私たちに何ができるのか考えないと……。







今回も読んでくれてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


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