第6話 村長さんのお願い
神社の拝殿や本殿の建て直しが始まって、俺は『箱庭』で生活を始めた。
前の召喚された世界で育て上げた『箱庭』は、快適とはいえなかった。やはり、自分で体験できない世界だったため人が生活できるようにはなっていなかった。
まず、家はあるもののトイレがない。
さらに、お風呂もないしキッチンも地球の物とは違い使い勝手が悪い。
冷蔵庫も無ければ、食材を入れておく倉庫もほったらかしだった。
そのため、倉庫の中は腐った食材であふれていたほどだ……。
だから一から構築し直した。
上下水道をはじめ、必要な魔道具を作り出し快適に生活できるように改善していく。
冒険者ギルドのギルドマスター、ケヴィンにもらった魔道具に関する本で、俺は魔道具を作ることができるようになっていたからな。
本当、持つべきものは飲み仲間だよ。
それから、神社の境内にも生活できる場所を確保しなければならない。女神様のお願いを実現させるには、安全な孤児院が必要になると思ったからだ。
そのため、ゴーレムをたくさん作り労働力とした。
こうしてこの二十日間で、神社を拠点化し『箱庭』の改良も行っていた。
そのおかげか、神社も『箱庭』の世界も劇的にこの短期間で変わっていった。
そして今日、拝殿や本殿などの境内の建て直しが終わり、森に結界として張っていた霧を解除する。
さらに、『箱庭』で作った宮司としての衣を着て神社の見回りをしていると、神社の入り口に集まる人たちを発見。
森の向こうの村人か?と思い挨拶をすると、全員が土下座したのだ。
今、俺は困惑している。
この人たちが、なぜ俺の目の前で土下座しているのか分からなかったからだ。
「あ、あの……」
「あなた様のようなお方が、ここにいるとは思いもせず無礼を働いてしまいました!申し訳ございません!」
……どうやらこの人たちは、俺をだれかと間違えているようだ。
「あの、どなたかと間違えていませんか?」
「……い、いえ、あなた様の身につけておいでの物を見れば、高貴なお方ということはすぐにわかります」
……やはり間違えているようだ。
「私は、公家でも武士でもありません。
生まれも育ちも平民です。みなさんと同じ平民ですよ?」
「……え?」
恐る恐る顔を上げた村長に、俺の出自を話した。
一応、本当の出自を話すとおかしなことになるので、京の近くの神社の子供で宮司としてここの神社に来たことを話し、境内の建物は一緒に来てくれた宮大工の人たちが建ててくれたとした。
もちろん、普通に考えれば信じられないことばかりなのだが魔法の力を借りて、俺の説明を信じてもらった。
それでも、嘘から半信半疑程度にしかならないみたいだが……。
「それで、私たちは何か納めなければならないのでしょうか?」
まだ少し言葉遣いがあれだが、村長さんは村から何か納めなければいけないのか聞いてくる。たぶん、宗教関連のお布施の類のようなものだろう。
現在、俺は衣食住と困っていることはない。
「いえ、何もしなくていいんですよ。
それよりも、何か困ったことがあればご相談ください。私でよければ、力になりますので……」
こう言っておけば、何かあった時相談に来るだろう。
今いる1560年ごろは、寺社ともに信頼されていたらしいし……。
▽ ▽ ▽
村の人たちに挨拶してから二日後、村長と二人の村民の男が訪ねてきた。
何やら、深刻そうな顔をしていたのですぐに社務所に案内する。
境内に建てた社務所は、縦長の土間と二十畳ほどの板間になっている。
板間には囲炉裏があり、そこでお湯を沸かし俺は村長たちにお茶を出した。もっとも、暖をとるのはこの囲炉裏だけではないのだがそのうち知ることもあるだろう。
「それで、ご相談というのは?」
俺の出した温かいお茶で一息つき、村長は恐縮してきた。
どうやら、こんな時村では白湯を出すらしくこんなにおいしいお茶は初めて飲んだらしい。
「……美味しいお茶ですなぁ」
「はぁ~、温まる~」
「……」
三人は俺の出したお茶に満足したようだ。
これで、肩の力を抜いて気軽に相談事とやらを話してくれるだろう。
「あ、失礼しました。
……実は、この神社で預かってもらいたい者たちがいるのです」
「ここで、お預かりする?」
「そうです……」
そういえば、謀反を起こした武士の妻や娘を仏門に、なんて話がよくあるな。
それか、口減らしのための奉公とかか?
「……まぁ、お預かりするのは構いませんがその者たちとは?」
「隣村から引き取ってきた、儂の孫娘たちです。
本来なら、儂が面倒を見なきゃならんのですが村にも儂の家にも孫娘二人を面倒見る余裕がないのです」
……この時代、薄情に聞こえるかもしれないがよくある話だったかな?
聞けば、村長の家には村長夫婦に跡取りの息子夫婦、その息子夫婦の間にできた子供が三人いるとのこと。そこに、子供二人は大変だな……。
でも、何故この神社に預けようと思ったのだろうか?
「あの、何故この神社に?」
「この神社には、あなた様しかいらっしゃらないようですのでお手伝いにどうかと思いまして……。それに、ここは食べ物に困ってないようなので……」
……よく見ている。
まあ、子供の一人や二人、預かるだけなら大丈夫か。
「分かりました、この神社でお預かりしましょう」
「あっ、ありがとうございます!」
村長は、大喜びして頭を下げる。
付き添いの男たちも、同じように頭を下げた。
こんなに喜んでくれるってことは、本当に困っていたんだな。
孫娘ということみたいだし、巫女さんでもやってもらうかな……。
今回も読んでくれてありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。