第5話 忘れられていた神社
神社の建て直しが始まって十日後、森の側にある村で三人の村民の男が村長の家を訪ねていた。
「村長、ダメだ!森の霧が晴れねぇ!」
「もう十日も森に入れねぇぞ?どうするだ?」
三人の男の対応に、初老の村長は、頭を抱えていた。
この村では、村の食料の一部を森の恵みに頼っているところがある。
木の実や川魚に茸などだ。
特に、この森でたまに採れる椎茸が良い収入源になっていた。
それが十日ほど前から、森に霧が発生するようになり椎茸の生えている奥まで入れなくなったのだ。
それどころか、森には入り霧で周りが分からなくなるといつの間にか森の外へと出てしまう。まるで、森の奥へ行かせないように……。
「う~ん、困ったのぅ……」
「それと村長、森の奥から聞こえるあの音は何だ?」
「音?」
今まで黙っていた男が、村長に質問する。
実はこの男、霧の中を森の奥へ何とか行けないかと入っていったのだ。
そして、三十分ほどふらふらと霧の中を進んで、コーンコーンという森に響く音を聞いたらしい。
男は気味が悪くなり、霧の中を急いで引き返して村に帰ってきたが、あの聞こえてきた音は何だったのかいまだによく分からなかった。
「……昔、儂の爺様にあの森の奥には神社があったと聞いたことがある」
「神社?」
「なんだって、森の奥に神社なんかが?」
村長が、森の奥にある神社のことを話し始めると、男たちはその森の奥の神社のことを聞いてきた。
「昔この辺りでも戦があってなぁ、森の奥の神社にはその戦で負けた者たちの家族が逃げてきたそうじゃ。
じゃが、すぐに追手に見つかりそのまま神社で戦いが行われた。
逃げてきた者たちの大半が女子供でなぁ、多勢に無勢でみんな殺され最後には神社の建物も追ってきた者たちによって叩き壊されたそうじゃ……」
「……じゃあ、それ以来手付かずってことか?」
「あそこは宮司がいなくなってからは、ずっと放置されていた神社らしかったからのう。逃げてきた者たちからすれば、身を隠すにはちょうどいい場所だったのじゃが……」
「……じゃ、じゃあ、俺が聞いた音っていうのは……」
それ以降、男たちは黙ってしまう。
そんな曰く付きの神社で音が聞こえる。それがどんな意味を持つのか……。
村長のそんな昔話を聞かされ、それ以降村の者が森に入ることはなくなった……。
▽ ▽ ▽
それからさらに十日後、事態は急変する。
十日前に来た男たち三人が、再び村長の家に慌てて押しかけてきた。
「た、大変だ、村長!」
「な、何じゃ朝っぱらから!」
駆け込んできて、騒いでいる男たち三人を一括する村長。
だが、男たちは騒ぐというよりも慌てているようだった。
「村長、霧が晴れたんだ!」
「それだけじゃねぇ、道ができてたぞ!」
「あと、森の奥の神社が!」
「ええぃ!落ち着いて話せ!何が言いたいのか、さっぱり分からん!」
「なら、一緒に来てくれ!その方が早い!」
そう言って、男たちは無理やり村長を連れて森への入口へ向かった。
手を引っ張られ、無理やり走らされることは初老の村長には少し堪えたが、森の入り口に集まっていた十人ほどの村民たちを見て、これはただ事ではないと察する。
「おい、ちょっと通してくれ!」
「村長、こっちだ」
「おい、通してくれって!」
男たち三人と、無理やり連れてこられた村長は集まった村民たちを押しのけて前に出ていく。
そして、村民たちの先頭にたどり着くと目の前の光景に驚いた!
「な、何じゃこれは……」
そこには、今まで獣道しかなかった森の奥への道が開かれ、村道と変わらない大きさの道が続いていたのだ。
さらに、その先には遠目ではあるが石階段があり、さらにさらに、立派な朱色の鳥居が目にはいった。
村長は今まで、あんな立派な鳥居があること自体知らなかった。
「そ、村長、どうする?」
「……どうする、と言っても。
と、とにかく、近くまで行って確かめねぇと……」
村長を先頭に、その場に集まっていた村民たちは神社に通じる道を、恐る恐る歩いて進み森の奥へ入っていく。
本来、そこは森の木々が根を生やしているはずなのに、今はそのような様子もない。
いつの間にこんな道がと思いながら進んで行くと、村から見えていた朱色の鳥居にその先の石階段が見えた。
「立派な鳥居だな……」
「私、こんな鳥居見たことないわ……」
「……できたばかりって感じだな」
村民たちが、朱色の鳥居を側で眺めながらそんな感想を言っている中、村長は意を決して石階段を上り始めた。
村長が上り始めると、村民たちも恐る恐る石階段を上り始める。
そして、上り始めてすぐに神社の境内が見えてきた……。
「おお……」
「これは……」
「何と立派な……」
村長をはじめ、村民たちが見たのは立派に建て替えられた拝殿の姿とその両脇に置かれた石でできた狛犬二匹。
さらに、拝殿の奥に建つ本殿もまた立派なものだった……。
参道を通り拝殿の前まで近づくと、その立派な真新しい拝殿に言葉を失う。
そして、ぼーっと眺めていると拝殿の後ろから出てきた男に声をかけられた。
「おや、この先にある村の方たちですね?
おはようございます」
男はまだ若く、それでいて礼儀正しく挨拶をしてきた。
しかも、服装も村長をはじめとした村民たちは違いきれいな服と袴をはいている。
そのため、思わず全員がその場に土下座してしまったのだった……。
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