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第36話 南蛮船の手に入れ方




小さな村に似つかわしくない南蛮船が、湊に停泊している。

南蛮船に続く桟橋があるだけで、湊には蔵もない。だが、近くには攫ってきた女を閉じ込めておく遊女屋のような家があった。


そこから、少し村の中心へ進むとひときわ騒がしい一軒家がある。

海賊の男たちが、今日の略奪の話を肴に話しながら酒盛りをしているのだ。海賊全員が屈強な海の男たち。


そんな男たちだから、酒を飲む量も普通ではない。


「てめぇら! 今日も飲め飲めっ!!」

「親方! 今日もお疲れっしたっ!!」

「「「「お疲れっす!!」」」」


まずは、親方を労うとすぐに『乾杯』をして飲み始める海賊たち。

俺がこの騒がしい場所に到着したのは、そんな宴が始まってすぐの時だ。あちこちで、今回の略奪行為がどんなものだったのか自慢しあう。


その中に、一人の海賊の男がため息を吐いていた……。


「なんだ、地雷。あんまし飲んでねぇじゃねぇか?」

「うるせぇな、ほとっとけ……」

「おめぇ、何か失敗したんだろ?」

「! 何でそれを……」

「そんなに落ち込んでりゃ、誰だって分かるだろ。

……で、何失敗したんだよ」


湯呑に入ったどぶろくを、グイッと一気に飲み干すと地雷は話す。

今日の失敗を……。


「実はよぅ、女を攫いそこねたんだよ」


そう告白すると、話を聞いた男が空の湯飲みに注いでくれたどぶろくを、またグイッと一気に飲み干して話し出す。


「あの女が、ガキを放さずに抵抗するからよぅ、ついカッとなってバッサリと……」

「切っちまったのかよ……。

で、死んだのか? その女は」

「分かんねぇ。分かんねぇが、あれで生きてるとは思えねぇな……」


話を聞いていた男は、顔を右手で覆うと困惑してしまった。

ここの海賊が女を攫う理由は、この村には女が極端に少ないからだ。体を鍛えた男が多く、そんな男たちの相手をする女たちはすぐに壊れてしまう。


そのため、子供を産める女が少なく跡取りが少ない村になっていた。

村の外から女を連れてくるにも、この村は海からしか入れない。だからこそ、海賊として女を攫ってくるのだ。


「おめぇなぁ……。

で、その女は別嬪だったのか?」

「ああ、俺の連れにしてぇぐれぇ別嬪だった……」

「……かぁ~、そんな女を切っちまったのかぁ~」


地雷は、話を聞いてくれた男の持つどぶろくの入った酒壺を奪い取ると、自分の湯飲みに注ぎ一気に飲む。


「……うるせぇ! 俺だってなぁ、後悔してんだ!!

それを、今さら言ったってしょうがねぇだろうがよぉ……」

「悪かった、俺が悪かったって。

だから、そんなに自棄酒なんか飲むな」

「むぐうぅ……」


自棄酒をあおる地雷を止めるため、話を聞いた男は酒壺を奪い取った。

地雷は機嫌悪くなり、酒の無くなった湯呑を置くと後ろに倒れてそのまま不貞寝をしてしまった。


「しょうがねぇか……」

――――それよりも聞かせてくれよ。

「あ? 何が聞きてぇんだよ」

――――南蛮船を手に入れたときの話をよ。

「ああ、あの船を手に入れた時か。

そんな話を聞きてぇてことは、お前もこいつと同じで失敗した口だな?」


――――そうだよ。だから、気分を変えてぇんだよ。

「いいだろう、聞かせてやらぁ。

あれは二年前の話だ……」


光学迷彩で姿を消したまま、俺は南蛮船の入手話を聞かせてもらうことができた。


この村が海賊をやっているのは、何年も前からだが、それまでは日本にあるこの時代のどこにでもある船だった。

だが、今から二年前のある嵐の翌日。

この村の浜辺に、三十人もの南蛮人が死体で打ち上げられていた。

その中で、弱いながらも息があったのがわずか二人だけ。


嵐の日に、方向を見失ってこの村の近くで座礁してしまったそうだ。


座礁したときの衝撃と風のせいで、甲板で作業していた者たちが海に投げ出されそのまま行方不明になったらしい。

その後、死体として浜辺に打ち上げられていた。


そして、南蛮船の中にいた者たちも座礁の衝撃でバランスを崩し、船室の壁にぶつけ気を失ったり、はては打ちどころが悪くて死んだ者もいた。


息のあった二人を手当てもせずに浜辺に残し、村の男たちは南蛮船に乗り込んだ。

そして、船体をくまなく観察し、座礁の影響で穴などが開いてないかを確認後、男たちは浜辺にいた親方に相談するため戻ってくる。


相談を受けた親方は、上機嫌で南蛮船を自分たちの船にしてしまう。

こうして、南蛮船はこの村の海賊船として使われるようになった……。


「……て、訳よ。

その後は、波辺に打ち上げられた南蛮人たちのために墓を作ってやって埋葬したら、生き残った二人の南蛮人からは、船の動かし方を教えてもらわねぇといけねぇ。

何せ、今までの船とまるで違うからな~。

手当てして、身振り手振りで船の動かし方を教えてもらったよ。言葉通じねぇから」


――――それで、今では南蛮船の海賊船か。

「そう、なんだけどなぁ。

本当は、南蛮船には他にも大砲やら鉄砲やらあったらしいが、海水に浸かっちまって使いもんにならなかったんだ。

持ったいねぇことしたよなぁ~」


そこまで聞きだすと、男に『強制睡眠スリープ』を掛けて眠らせる。


「んぁ? なんだぁ……」


男はそのまま不貞寝している隣の男同様に、後ろに倒れると寝てしまう。

大砲などの兵器がないにしても、大きな南蛮船を海賊が使っていること自体とんでもないことだろう。


……そういえば、手当てを受けた南蛮人の二人はどうなったんだ?

新たな疑問を抱え、俺は宴の開かれている家を出て村をうろついて行く……。







今回も読んでくれてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


誤字、訂正ありがとうございます。

大変勉強になっています。


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