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女神さまの願いを引き受けたおじさん  作者: 光晴さん


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第30話 命令を遂行するか?




近江国と若狭国の間にある村に、京の都から馬で来た三人の武士が到着した。

先頭の馬に乗っているのは、蓮杖の家臣の一人浅岡友綱だ。


「浅岡様、この村でございますか?」

「そうだ、この村に預けられているはずだ。

村長に会って、すぐに連れてきてもらうつもりだ」


逃げ出したと思われる女たちの子供が、この村に預けられている。

この情報は、若狭の国人の城を訪ねたときに教えてもらった話だ。

人質として、城にいるかと思ったがどうやら潰された家の武士は、家臣たちに見放されたようだった。


今では、その家臣たちも新しい殿に仕えているらしい。



「村長、ここに殿から預かった子供がいるはずだ。

すぐに、ここに連れてきてもらえるか」


馬から降り、村長の家の玄関先で大声で叫ぶと中から村長と思われる年寄りが出てきた。慌てた様子で、玄関に出てくるとその場に土下座する。


「こ、これはお武家様、お殿様から預かった子供というと宗太郎と新太郎のことでしょうか?」

「そうだ、その二人だ。

……お主が、この村の村長か?」


「はい、私が村長でございます。

その二人なら、今連れてまいりますのでここでお待ちくださいませ」

「うむ、早くいたせよ」

「ハハッ。

おいっ!隣の千太の所に行って宗太郎と新太郎を連れてきてくれ」

「分かった、俺が行ってくる」


村長は友綱に返事をすると、すぐに家の中にいる息子に隣の家にいる二人を連れてくるように命令する。

村長の息子は、それを聞いてすぐに家を出て走って隣の家に向かった。


(浅岡様、ここで始末するので?)

(そんなわけがなかろう、ここで始末したらどう言い訳するつもりだ?

それよりも、母親に会わせるとか何とか言って村を出てから始末するんだ)

(……分かりました)


友綱の連れてきた部下が、友綱に小声で質問してくるので友綱も小声で答えることになった。

確かに、村長に聞かれてはまずい内容のことだ。

蓮杖の命令とはいえ、幼い赤子を二人もその手で殺めなければならないのだから……。


村長の息子が呼びに行って五分ほどで、布に包まれた宗太郎と新太郎を抱えた夫婦が走ってくる。

そして、友綱の前にまで来ると膝をついて畏まった。


「そこの者たちは?」

「は、はい、この二人は夫婦で、お武家様の仰られていた宗太郎と新太郎を預かった者たちです」

「そうか、今まで預かってもらいすまぬな」

「と、とんでもございません」


友綱に声をかけてもらい、恐縮するように土下座する夫婦。

宗太郎と新太郎は、何が起きているのか分からない様子で夫婦の顔をそれぞれ見ている。


「実はな、その子供たちの母親が京の都にいるのだが会いたがっていてな。

このままでは、自ら命を絶つかもしれん状況で我が殿も心配しておられる。そこで、この国に預けられている子供たちを京に連れてくるようにとの仰せだ。

すまんが、宗太郎と新太郎を連れて行くこと許してもらえぬか?」


それを聞いた夫婦は、頭を上げると悲痛な表情の友綱を見てそっと宗太郎と新太郎を差し出した。


「そういうことでしたら、おらたち夫婦は何も言うことはありません。

どうぞ、この子たちを母親の元にお連れください」

「すまんな、せっかくお前たちの子供となったのに……」

「「……」」


友綱の言葉に、夫婦は頭を下げて何も言わなくなった。

友綱の連れてきた部下たちが、宗太郎と新太郎を夫婦から受け取り馬に跨ると布に包まれた赤子たちが泣き始めた。


いきなり馬に跨って景色が変わったため、驚いたのだろう。

しかし、宗太郎と新太郎はさらに愚図りだし夫婦に手を伸ばそうとする。


「宗太!新太!」

「あ、あぅ、うあ、ううあ」

「はは、あ、あぅあ、はは」


夫婦は涙ながらに、手を伸ばそうとするが友綱がそれを遮る。


「……すまぬが、もう行かねばならん。

村長、世話になったな」

「ハ、ハハッ」


そう言うと、友綱は馬に跨り村を出るために走り出す。

部下の二人も、その後を追うように走りだした。

その場に、土下座して頭を下げる村長たち親子と涙を流しながら頭を下げる夫婦を残して……。




近江の国に入り京を目指す道から外れた場所で、馬を止める三人。

すぐに馬を降り、友綱が命令をする。


「ここでいいだろう。

二人の子供の首を撥ねろ!」

「……浅岡様、本当に撥ねるのですか?」

「どうした?情でも移ったのか?」


二人の赤子をそれぞれ抱え、二人の部下はその顔を見て躊躇する。

自分たちが、この赤子を殺めなければならないとなり戸惑っているのだ。


「お前たちができぬのなら、代わってやろう」


友綱はそう言うと、腰に差していた刀を抜き赤子の目の前に突きつける。


「そのまま持っていろ、すぐに済む」

「浅岡様……」


赤子を持っていた腕を伸ばすと、顔を背け目を瞑る。

そして、そのまま友綱たち三人はその場に倒れて眠ってしまった。


「危なかった……」


空から、箒型飛行魔道具に跨ったまま降りてきた俺は地面に降り立つと刀を右手に持ったまま倒れて寝ている男と、赤子を上に突きあげた状態で倒れて寝ている男たち二人を見る。


「この二人は躊躇していたみたいだが、この男は本気で殺そうとしたな……。

そんなに、蓮杖の命令は絶対なのか?」


俺には、この赤ちゃんたちを殺してまで命令を遂行しようとする性根が分からん。

とりあえず、これで助けることができた。







今回も読んでくれてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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