第28話 追跡と新たな生贄
次の日の朝、蓮杖の貴族屋敷から怒鳴り声が響いてくる。
「どこに行ったのだっ!
友綱!屋敷の周りは探したのだろうなっ!」
部屋で怒鳴り散らす蓮杖の睨む先に、土下座している男が一人。
蓮杖の家臣の友綱殿だ。
「ハッ、今朝方より屋敷の周りや都中を探しておりますが、見つけることができませんでした。
もしやどこかの屋敷に隠れているのではないかと、今、人をやって探しております」
蓮杖はギリギリと歯ぎしりをしながら、昨日のことを思い出す。
再び、再び、蓮杖は眠らされていた。
しかも、あの女どもの姿が起きたときからなかったのだ。
一体、どうやって吾だけではなく屋敷の者、全員を眠らせることができるのだ!
何者が関わっているのか、全く分からない。
考えを巡らせていると、蓮杖は足元の書状に気がつく。
その書状は、あの女たちの子供の無事を約束するものだ。若狭で起きた村同士の諍いが国人同士の戦にまで発展し、あの女たちの夫の側が負ける。
その後、家族を人質に取り勝った国人が領地を得て終わった争い。
その後、その勝った国人が吾に女たちを献上して上の地位を得ようとしたため、吾が朝廷に話をつけ望み通りの地位を国人に与えることができた。
そして、条件としてあの女たちの子供の無事を命じたのだ。
「……もしや、あの女たちは若狭へ向かったのではないか?」
「まさか!今さら若狭に行って何ができると……」
「子供だ。あの二人の子供を、助け出すために行ったのだ」
そうだ、吾や屋敷の者全員を眠らせることができるのだ。
子供の二人や三人、簡単に助け出すことができるだろう……。
「友綱!兵を率いて若狭へ行け!
兵は少数精鋭でよい!必ず、あの女どもの子供を始末するのだ!」
「子供、でございますか?」
蓮杖は、ニヤリと笑い友綱に命令する。
「そうだ、若狭にあの女たちが向かっているならば、子供を狙えば必ずあの女どもと会うことができるはずだ。
その時、子供を殺しておけば、あの女どもの絶望に染まる顔が見れるではないか」
「蓮杖様……」
友綱は、主である蓮杖の歪んだ顔を見てしまう。
あの女たちを抱くことができなかっただけで、こうまで歪むことができるのか?と。
「行け!友綱。
必ず、あの女たちを始末して来いっ!!」
「ハ、ハハッ!」
友綱は立ち上がると、すぐに部屋を出ていった。
兵を集め、出立の準備をするのだろう。
向かう先は若狭の国。女二人を追って、その女たちの子供を始末するために。
俺は、その様子を小型ゴーレム蜘蛛型を通して見聞きしていた。
が、何と言っていいのか分からない。
だが、七殿と冬殿の子供たちが危ないのは確かだ。
(助けに行かなくてはいけないけど、あの商人の連れてくる人も気になるんだよな……)
どうしようか迷っていると、あるアイデアを思いつく。
とりあえず、小型ゴーレム虫型を使って友綱殿の向かう先を着き止めよう。
俺には、七殿と冬殿の子供がどこにいるか分からないしな。
着き止めた後は、七殿や冬殿と同じように救出する。
それから、商人の連れて来る者たちも場合によっては救出か。中には、望んでくる人がいるらしいから見極めは大事だ。
『見ておれ女ども、吾に恥をかかせた報いを受けさせてやるわ!』
小型ゴーレム蜘蛛型の収音機能から、蓮杖のセリフが聞こえてきた。
かなり恨みに思っているようだが、俺から見れば逆恨みもいいところだ。
▽ ▽ ▽
「旦那様、例の物が届きました」
「おお、ようやく届いたか!
……ところで、連中は言い聞かせておるのだろうな」
商人の男が、店の者の報告に喜ぶが、すぐにまじめな顔で質問する。
その顔に、二人の間の空気がピンと張りつめた。
「はい、それは大丈夫でございます。
金で、黙らせておきましたので足がつくことはありません」
「よし、これで蓮杖様の御用商人の地位が転がり込んでくるな……」
ニヤニヤと商人が笑っていると、店の者が主人に声をかける。
必要なものは届いたのだ、すぐに蓮杖に届けなければ……。
「旦那様、準備をしておきます」
「ウム、準備ができ次第すぐに蓮杖様のお屋敷に向かうぞ」
商人は立ち上がり、届いたという荷物の元へと早足で移動していった。
報告に来た店の者は、蓮杖様の屋敷に行くための用意をするのだった。
▽ ▽ ▽
その日の夕方、友綱は二人の家臣を連れて京の都を出立した。
その十分後に、商人の男が二人の女の子を連れて現れた。
その女の子たちは、高額そうな着物を着ていたが表情は沈んでいる。
これから自分たちがどうなるのか、不安でしかなかったからだ。
「フフフ、これからあなた方はこの屋敷の蓮杖様に献上されます。
その後は、蓮杖様の出世のお役に立つのですよ」
「……蓮杖、様?
近衛様の親戚筋のお人が、私たちをどうするのですか?」
「おや、蓮杖様の血筋についてご存じでしたか。
落ちぶれても、公家の血が流れているのですねぇ……」
「……」
二人の女の子は、商人の男を睨んだ。
だが、そんなことをしても無駄だと分かると再び俯いてしまう。
この女の子二人は売られたのだ、この商人の男に。
親は、商人の男に積まれた金に目がくらんでしまったのだ。
これからどうなるのか、二人の女の子は涙するしかなかった……。
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