第27話 国人が届けたモノ
商人の男が部屋を出ると、蓮杖の家臣のような男が入れ替わりに入ってきた。
「殿、昨日の件で…」
「友綱、殿はやめよ。誰が聞いているか分からんのだぞ?」
「……失礼しました。
蓮杖様、昨日の件の調べが終わりました」
(ん?何だ?今、おかしな会話だったぞ?)
友綱という男は、頭を下げて言葉を続ける。
何やら、隠していることがありそうな雰囲気だ……。
「で、どうじゃった?」
「はい、確かに眠り薬の類で間違いないとのことです。
そして、この類の薬を使うのは……」
「どこかが雇った、乱破か素破か」
「おそらく、そのどちらかと。それと例の者たちを調べましたが、関わっておらぬようです。それに、そんな者たちを雇える金子があるならば、あのような暮らしはしておらぬでしょう」
蓮杖は扇子を取り出すと、開いたり閉じたりを繰り返しながら思案してる。
友綱という男が調べた者たちって、たぶんさよ子たちを売り渡したユリさんの実家だろう。それにしても、昨日の今日で調べ上げるなんて、優秀な家臣だな。
「まあ良い。眠り薬なぞに引っかかった吾も、油断しておったのだ。
それよりも、若狭の国人からの荷物は届いたか?」
「はい、すでに例の牢の中に」
友綱という男からそう聞くと、蓮杖は満面の笑みになる。
「そうか! 今宵が楽しみよのう」
「ハッ」
(若狭の国人からの荷物?
何やら、嫌な予感がするな……)
どうにも気になった俺は、潜り込ませていた小型ゴーレム蜘蛛型を操作し、ユリさんが閉じこめられていた牢屋の部屋へ向かわせる。
天井を這うようにカサカサと進んで行く小型ゴーレム蜘蛛型。
十分ほどで、昨日の牢屋の部屋に到着した。
ゴーレムの目を通して牢屋の中を見ると、女性が二人捕まっていた。
どちらも成人を迎えているだろう、大人の女性だった。
二人とも凛とした感じで正座して、瞑想している。帯に刺した短刀が見て取れた。
(この女性たちって、どこかの武士の奥方とか? あるいは、娘か?)
若狭の国人から届けられたということは、戦で負けたか、もしくは人質として出されたかした、武士の家族だろうか。どちらにせよ、蓮杖の道具とし使われてしまうのか……。
(この二人も、助け出した方がいいのかな?)
とりあえず、小型ゴーレム蜘蛛型を蓮杖の部屋に戻して情報収集だな。
もしも今夜にも何かが起きたとして、あの二人の身が危機になった時は、助け出すようにしよう。
▽ ▽ ▽
その日の夜。蓮杖の寝室に、牢の中にいた女性二人が連れてこられていた。
「ホホホ、良く決心された七殿、冬殿」
「……これで、本当に子供たちを助けてくれるのでしょうか?」
「もちろんじゃ、吾に任せよ。
七殿の子供たちを助命するように必ず厳命させようぞ」
その言葉を聞いた七殿という女性は、立ち上がり、着物を脱ぎはじめた。
そこへ、もう一人の女性の冬殿が手で制して止めさせる。
「七様、惑わされてはなりませぬ。
この蓮杖という男、約束を守る気などないのです」
「蓮杖殿?」
冬殿の言葉を聞いた七殿は、帯にかけた手を止めて、蓮杖を見た。
ニヤニヤと笑いながら七殿を見ていた蓮杖は、二人から睨まれると焦ったように言い訳をした。
「そ、そんなことはない。
吾は必ず約束は守る、今宵のことも口外することなどせん」
「……」
「……ええい、これを見よ!」
蓮杖は、怒りながら側にあった箱を開けると、中から書状を取り出し、二人の足元へと投げつけた。
七殿と冬殿は、その書状を拾い中身を読み始めると、すぐに蓮杖を見た。
何が書かれているのか気になり、小型ゴーレム蜘蛛型を書状の見える位置へ移動させ望遠で覗くとそこには、助命をする旨が書かれていた。
蓮杖は、すでに助命を約束させた書状を持っていたようだが……。
(本物か?)
「すでに、助命することは決まっておる。
さあ、今度はお二人に約束を守ってもらおうか!」
「冬……」
「七様。……分かりました」
そう言うと、七殿も立ち上がり着物を脱ぎ始める。
手を止めていた七殿も着物を脱ぎ、白い着物一枚になるとその場に正座する。
「ホホホ、さあ、お二人ともこちらへ……」
「「……」」
上機嫌に笑い声を上げた蓮杖だったが、ヤツはそのままは倒れるようにして眠ってしまった。七殿と冬殿も、二人重なるように眠りについた。
そう、俺の『強制睡眠』の魔法が効いたのだ。
再び、蓮杖の屋敷の中にいる全員が眠りについている中を、俺は念の為に忍び足で進み、蓮杖の寝室の障子をそっと開け、中に入った。
蓮杖が眠っているなのを自分の目でも確認し、七殿と冬殿へ近づく。
(おっと、色々見えてしまっている……)
なるべく直視しないようにしながら、すぐに『箱庭』への扉を開け人型ゴーレムを呼び、眠っている七殿と冬殿をログハウスの寝室にあるベッドへ寝かせるように指示を出した。
「……拓海様?」
二人をベッドに寝かせた後、二人の着物を回収して来たところを、ユリさんに見つかった。
ユリさんの目が、俺と人型ゴーレム二体、それからベッドで眠る白い襦袢姿の女性二人へと動き、再び俺に戻ったところで、何かを問うように名を呼ばれたのだった。
「この二人も蓮杖の犠牲者みたいだ。
起きたら、話を聞いておいてくれないか?」
「……分かりました」
そうお願いして、俺は一人で蓮杖の屋敷へ戻った。
あの商人が用意するという、別のものというのが気になるからな。
何だが、面倒くさいことになってきたな……。
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