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第2話 神は見守るだけである




魔王討伐を成功させてから十日後。

勇者パーティーは、俺を召喚した『レジンブル王国』の王都で行われた戦勝パレードで歓迎する王都の市民たちに手を振っていた。


もちろん、そのパレードに俺は参加していない。

魔王討伐の戦力にならなかった俺は、王都到着直後に兵士たちに連行され王都にある地下牢獄へ収監されたのだ。


「陛下、書庫の勇者召喚に関わる書物の破棄を検討されてはいかかでしょうか?」


俺が入れられた牢屋の前で、俺を召喚した宮廷魔術師の男が俺を見下す王に提案する。もはや、この世界では勇者は自前で何とかなると考えているのだろう。


「フム。……だが、あの召喚陣は神より授けられたもの。

我らで、破棄できるものではないだろう」


王は、宮廷魔術師の提案に難色を示す。


「それなら、教会で厳重に管理してもらえばよろしいかと。

もはや勇者召喚陣を使って別の世界の勇者を呼び出さなくとも、この世界にはこの世界の勇者が誕生しております」


「……異世界から勇者を呼び寄せる必要もない、か」

「はい。

……それに、陛下の権威が使えない勇者は危険ではないかと」


魔術師が、王様の耳元に近づきぼそぼそと喋っているが丸聞こえだ。

俺との距離を考えたほうがいいぞ?

お互い、鉄格子の側にいるんだからな……。


でも、王の権威か。

召喚された勇者は、身分制度に疎い所があるから、おそらくやりにくいんだろう。普通なら王様や貴族の命令には逆らわないらしいし……。


「……教会で厳重に管理するのなら、神もお許しになるだろう。

召喚陣はそれでいいとして、この男はどうするのだ?

勇者たちのパレードに邪魔だからと、お前の提案でここに捕らえたが……」


「勇者たちのパレードが終わり、戦勝パーティーの後、私が送還する予定でございます。勇者が二人いる状況は、他国からのパーティー参加者の目に触れさせるわけにはいきませんから……」


「そうだな、魔王を倒した勇者は一人で十分だ。

それに、勇者アンディと娘のリリーとの婚約発表もあることだし…」

「その必要はありませんよ」


俺が、王様の言葉を遮るようにしゃべると、鉄格子を蹴り飛ばして叫ぶ宮廷魔術師。


「勝手にしゃべるな!貴様はそこで……な、なんだ?何が起きている!!」

「……魔王が倒されて、魔王城がなくなったからな。

自動的に、元の世界へ送還されるようになっているんだよ」


魔術師が驚くのも無理はない。

現在、俺の足から光の粒子に変わりながら消えて行っているのだ。この光景を見ている王様も、驚愕の表情を浮かべて俺を凝視している。


そして、一分もかからず俺の姿は光の粒子に変わり、この世界から消えた。




▽   ▽    ▽




白い世界。

俺が、この場所に来るのも二度目になるか……。


初めてこの場所に来て、女神のペルセフォネ様を見て一目ぼれ。そして俺は、無謀にもプロポーズしてしまったんだよな……。

冷静になってから考えると、神と人との結婚なんて漫画やアニメの世界だけではないだろうか?


……俺の恥ずかしい黒歴史の一つだ。


でも、ペルセフォネ様は少し考えて条件を出したんだよな。


『では、私のお願いをいくつか引き受けてもらえますか?

それなら、石川拓海さんのお願いを真剣に考えてもいいですよ?』


そして、俺は了承して今回の勇者召喚に応じたんだよな……。

でも、そのペルセフォネ様のお願いというのが難しかった。


「お帰りなさい、石川拓海さん。

私のお願いは、そんなに難しかったですか?」


難しかったです!

二度と勇者召喚しないようにしてほしいなんて……。


「でも、勇者召喚されることがなければ、別の世界から人が拉致されるという事件は起こらなくなりますからね。

複数の世界を管理する私たちからすれば、別の世界から強制的に連れてくる勇者召喚は害悪でしかありません」


……そういえば、大変らしいですね?

勇者召喚によって連れていかれた後の世界への影響って……。


「そうですよ?

たとえ一人でも、その世界に与える影響はかなりのものなのですから……」


ペルセフォネ様の声に反応し、後ろを振り返るとそこに絶世の美女がいる。

サラサラの銀色の長い髪、戦乙女のような凛々しい顔立ち、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ体のラインを美しく表現した白いドレス。


まさに、俺の理想の女性がそこにいた。

……この女神様にプロポーズして、後悔など無い!



「ただいま帰りました、女神さま。

一応勇者召喚が二度と行われないように、俺なりに考えて行動してみましたけどどうでしたか?」


二度と勇者召喚が行われないようにする。

そうペルセフォネ様にお願いされ、俺は考えに考えて弱い召喚勇者に徹した。そうすることによって、召喚勇者は弱いということを印象付けようとしたわけだ。


召喚勇者は弱いと分かれば、呼ばれることもなくなるだろうし、その世界の勇者が召喚勇者より強ければ、二度と勇者を呼ぼうとは考えなくなると思ったからな。


女神様が指を鳴らすと、空中にモニターが出現し映像が流れる。

その映像を見ながら、女神様は少し難しい顔をしながら俺の質問に答えてくれた。


「……そうですね、これなら当分勇者召喚が使われることはないでしょう。

私のお願いを引き受けてくださり、ありがとうございます」


空中に現れた映像には、今まで俺がいた世界の様子が映っている。

魔王亡き後の平和な世界。

そして、動き出す魔王軍に蹂躙されていた国々。

短い平和が終わり、人々の手による戦争の時代が始まる様子……。


「あの……」

「脅威だった魔王はもういません。

神々は基本何もせず、その地に住む人々に任せています。平和に暮らすも、戦いに身を置くもその地で生きる者たちの自由なのですよ?」


……神は見守るだけ、か。







読んでいただき、ありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

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