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女神さまの願いを引き受けたおじさん  作者: 光晴さん


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第19話 ないしょの話




今、私は本物の奇跡を目にしております。


桜花神社に一夜の宿を借りたはいいものの、戦の影響で足止めとなりました。

村の方たちも、近くで戦が起きるかもしれないとのことで避難してまいりました。村の男たちの大半が戦に参加し、今日帰ってきましたが村長様の孫の一人が背中に大きな刀傷を負ってしまったそうです。


私も一応医術の知識はあります。

その私から見ても、これは助からないだろうと分かりました。

だからなのでしょうか、村長様をはじめ家族の方から宮司様に祈祷をしてほしいとお願いされました。


せめて、最後に宮司様の祈祷で安らかにということなのかもしれません。

宮司様も、家族の方々の気持ちをくんで祈祷の準備をと私に指示されました。


私は準備を終え、拝殿に戻り中に入ろうと戸に手をかけたとき、隙間から淡い光が見えました。

戸の間の隙間から拝殿の中を覗くと、宮司様が刀傷を負って寝かされている村長の孫に手をかざしていました。

手をかざされたその孫は、淡い光に包まれていたのです。


日の光で光っているわけではありません。

でも、光っているのは確かです。そして、その淡い光を浴びて孫の顔色がみるみる良くなってき、息遣いも落ち着いていきます。


まさに奇跡が、私の目の前で起きています……。



しばらくすると、拝殿内を照らしていた淡い光が収まりました。


「……これで、大丈夫だ。

誰かに見つかる前に、治療できてよかった……」


宮司様は、治療が間に合ったことに安堵しています。

ですが、宮司様、私、見てしまいました……。




▽   ▽    ▽




俺が、『回復魔法』で治療した後歩き巫女のユメさんが祈祷のための道具を持って拝殿に入ってきました。


「宮司様、道具の準備ができました。

すぐに着替えをお願いします。祈祷の準備は私がしておきますので……」

「それじゃあ、お願い」


この世界に来て神社を拠点として住み着いたとき、一応宮司としての仕事も勉強したんだよね。

だから、祈祷のやり方も知っている。

……まあ、付け焼刃感は否めないんだが。


ユメさんに準備を任せて、俺は拝殿内の控室へ移動しそこで着替えることに。

着替え終えて戻ると、準備は終わっておりすぐに祈祷を始める。



祈祷、神に祈って村長さんの孫の傷が治ることはない。

祈っている暇があれば、早く医者に見せろと言いたいが、医者に見せるにはお金がかかる。村の生活だけで精一杯なのに、医者に見せる金などあるわけがない。


今回の話も、本来はあきらめるものらしい。

だが、三兄弟の二人が諦めきれなかった。そして神に祈って何とか……。



祈祷した後、患者の呼吸が落ち着いたこともあり村へ戻ることに。

避難してきた村の人たちと一緒に、患者も帰っていった。


……明日は、村長が来るかもしれないな。




「宮司様、私、見てしまったんです」

「……え?」


その日の夜、囲炉裏を囲んで夕食を食べ終えるとユメさんが俺に告白してきた。

俺が、村長の孫の傷を癒している奇跡を見てしまったと……。


じっと、真剣な顔で俺を見つめるユメさん。

一緒に囲炉裏を囲んでいた、凛さんと義綱君が息をのむ。

何も言えず、沈黙の時間がしばらく続くと俺はため息とともにその沈黙を破った。


「はぁ~、見られていたのなら仕方ありませんね」

「……アレについて、教えてくれませんか?」


どうやら、ユメさんは俺の『回復魔法』について聞きたいようだ。

でも、すべてを話す必要はない。回復魔法は本当のことだが、魔法と教える必要はないだろう。


「……何の話だ?」

「さぁ。ユメさん、何のことですか?」

「実は……」


何のことか分からなかった凛さんと義綱君に、ユメさんは昼間見た俺の回復魔法の現象のことを話して聞かせる。

すると、凛さんと義綱君も興味津々な顔で俺を見つめてくる。


「……まあ、話してもいいけど誰にも言ってはいけませんよ?」


「はい」

「分かった」

「もちろん、誰にも言いません」


ユメさん、義綱君、凛さんの順で話さないと約束してくれる。

でも、誰かは話してしまうのだろう。人間とはそういう生き物なのだし……。


「……俺のこの『癒しの力』は、生まれたときから持っていたものなんだよ。

どこかで修行して手に入れたものでもないし、妖に授けられたという話もない。

しかし、俺はこの力のせいで命を狙われたことがあるんだ」


「命を?」

「だ、誰にですか?」


俺は、『癒しの力』に関する話を聞かせる。

昔住んでいた神社で、ある位の高い武士の使いの人に頼まれてその武士の病気を癒したことがある。

その武士は病気が改善すると、俺を召し抱えようとする。


その武士は、俺の力を自分の力として使いたかったようだ。

だけど、俺は断った。

俺は武士ではないし、将来は実家の神社に勤めるつもりだったしな。


だが、その武士はしつこく俺を召し抱えようとする。

そして、召し抱えることができないと分かると俺を殺そうとしたのだ。


「そ、そんな……」

「な、何故ですか?」


ユメさんと凛さんは、納得がいかない表情をしているが義綱君は分かったようだ。


「なるほどな、その武士は自分の敵を治してしまう宮司様の力を恐れたんだな」

「義綱、よく分かったね」

「一応、武士の血が流れているからな……」


「そして、俺は育った神社を出てこの桜花神社に移ってきたんだ。

この辺りは、その武士の目も届かないからな……」

「宮司様……」


というような、作り話ではあるが三人は信じてくれたようだ。






今回も読んでくれてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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