第18話 戦の行方とお願い
「やあああぁぁぁあ!!」
三兄弟の一人、甚吉は掛け声とともに槍を前へ勢いよく突き出す。
その矛先にいるのは、敵方の足軽兵だ。
相手も槍を構え、甚吉を敵とみなし殺しに来るのだ。
お互い、死にたくない一心で槍を突き合い、振り回し戦った。
必死に戦うため、なかなか相手に一撃を入れることができない。
「うわぁぁあああぁあぁ!!」
「おりゃああああぁぁあ!!」
戦場の一角で突き合う二人の周りでも、ある者は刀を、ある者は槍を向かい合う敵に向けて襲いかかっている。
そして、ある者は槍に突かれその場に倒れると、更に止めと複数に刺され絶命する。
ある者は、刀傷を負わされるものの槍を振り回して周りにいた敵の首を飛ばしたりと、そこはまさに地獄絵図だった。
「いでぇえっ!」
「平太っ!」
背中から刀で切られ、痛みからの場に崩れる三兄弟の平太。
すぐ側で戦っていた三兄弟の長男の太郎は、弟の平太に止めを刺そうとしていた敵の雑兵を横から蹴り飛ばした。
「させるかぁっ!」
「ぐぇっ」
「平太!立て!狙われるぞっ!」
背中の傷が熱いが、平太は何とか立ち上がる。
そして、再び槍を持つと敵を睨みつけまだ戦えると虚勢を張った。
「よし、よしっ!甚吉!こっち来いっ!
平太を守るんだっ!!」
「わ、分かった!」
怒鳴るように弟の甚吉を呼ぶと、再び三人集まって固まる。
立っているのもやっとな平太を挟んで、太郎と甚吉が敵を威嚇する。戦いは、いつ終わるのか分からないがこうしている間も平太は血を流し、顔色が悪くなっていた。
―――――ガァ~~ン、ガァ~~ン。
立派な鎧兜をつけた武士が、鐘の音を聞き叫ぶ。
「退き鐘だ!退けえぇぇぇえっ!退けぇええっ!!」
その叫びに反応し、敵の兵士たちが引き上げていく。
中には、聞こえなかったのか興奮しすぎているのか退かずに戦いを継続するものもいたが、すぐに仲間が無理やり退かせていた。
「た、助かった……」
「……平太!平太!」
「に、兄さん……」
甚吉が安堵してその場に座り込むと、太郎が平太のことを心配して駆け寄る。
平太は、口の端から血を流しその場に崩れ落ちると杖代わりにしていた槍を手放し気を失った。
「に、兄さん、平太兄さんは……」
「大丈夫、気を失っただけだ。すぐに手当てをしないと……」
「太郎!甚吉!」
そこへ、肩を負傷した父親が三兄弟の元へ駆けつけた。
「平太!太郎、平太は切られたのか?」
「敵にバッサリいかれたんだ……」
「父ちゃん……」
「すぐに手当てをする、二人とも手伝え!」
そう言うと、父親は平太の上半身を裸にすると傷口を見る。
平太の傷は肩から背中を横切る刀傷ではなく、肩から背中の真ん中へかけての切り傷だった。
切られて血もかなり出ているし、傷も深かった。
「とにかく血を止めないと…」
「父ちゃん、助かるよね?ね?」
太郎は黙って、父親の手当てを手伝う。
甚吉は、泣きながら平太が助かるように祈り始めた。
父親も、自分の息子を何とか助けようと用意していた薬を塗りたくる。
戦は終わった。
三村家親の軍は、後藤勝基の三星城を攻め落とすことはできなかった。
後藤勝基の軍と戦っている最中に、浦上の軍と宇喜多の軍が援軍として横から襲いかけられたためだ。
そのため、三村家親は攻めきることができずに退いたのだが史実では、翌年にもう一度攻めてくることになる。
▽ ▽ ▽
戦が終わり村の男たちが戻ってきたその日、桜花神社に運び込まれたのが村長の孫で三兄弟の一人の平太だ。
戸板に乗せられ、拝殿に運び込まれた。
「宮司様、祈祷をお願いします!
何とか、何とか平太を助けてやってください!お願いします……」
拝殿の中には、三兄弟にその両親、そして村長にその妻。
そして、俺と凛さんに歩き巫女のユメさんだ。
顔色も悪く、虫の息の平太が寝かせられている側で村長たちが俺に土下座で頭下げている。
この時代、神仏に縋る傾向があるそうだ。
「村長さん……」
「お願いです宮司様!孫を、孫を助けてくだせぇ……」
「宮司様、私もお手伝いします。
この方が助かるように祈祷をしましょう」
歩き巫女のユメさんは、祈祷をするように促してくる。
確かに、助からないにしても祈祷をして奇跡が起きることを願うのもありだろう。
俺は、虫の息の三兄弟の平太さんを前に覚悟を決めた。
「……分かりました。
では、みなさんは拝殿の外へ、凛さんは誰も拝殿に入らないようにお願いします。
ユメさんは、準備を手伝ってもらえますか?」
「はい!」
「分かりました。
村長様、みなさんも外へ出てもらえますか?」
ユメさんは元気に返事をして、拝殿を出て荷物を取りに行く。
凛さんは、村長さんたちを拝殿の外へ出ていくように促す。何とか側で見守りたいという村長たちを、説得しながら外へ連れ出した。
拝殿に残ったのは、俺と戸板に寝かされている平太さんの二人だけ。
俺は周りを見渡し、誰もいないことを確認して平太さんの側にしゃがむと『回復魔法』を行使した。
「誰もいない今のうちに……」
俺が、手をかざすと平太さんの体を淡い光が包み込む。
そして、平太さんの背中の刀傷がゆっくり段々と治っていく……。
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