第17話 始まる戦
次の日の雨上がりの昼頃に、村から戦に参加しない村人が避難してきた。
村長が案内してきたのだが、女性に子供、年寄りばかりで村の男のほとんどが戦に参加しているようだ。
「ようこそ、村長さん。
村の人たちの寝泊まりは、社務所の裏にある建物を利用してください」
「宮司様、この度はありがとうございます」
村長と挨拶を交わした後、俺は村の人たちを社務所の裏の建物に案内し中を見せる。
その建物は平屋で広く、今回避難してきた村人全員が入っても六畳ほど余裕があった。
「……かなり広いですなぁ」
「ここは、物置として作ったものだったんですよ。
神を祀る神社では、いろいろと道具などを使う場合がありますからね」
「そのような場所を使っても、よろしいので?」
「ええ、構いません。
今は、村の人たちの安全が優先されることですから」
「宮司様、本当にありがとうございます……」
村長さんは、深々と頭を下げて感謝してくれた。
避難してきた村の人たちも、お礼を言いながら中へ入ってく。建物の中へ入る村人の中には村長の家族もいたが、息子と孫の三人がいない。
「村長さん、息子さんと孫たちは……」
「戦に行きました。
儂としては、参加してほしくなかったんですが……」
何でも、今回の戦は援護も期待できるため負けることはないだろうと参加を決めたらしい。しかし、戦は戦。多数対多数の戦いが始まれば、何が起きてもおかしくはない。
相手の戦力も、詳しくは分かってないらしい。
調べはしているが、援軍と合わせても数はこちらが上だから大丈夫だとか……。
俺と村長が話をしていると、避難してきた村の女性たちが井戸の場所を聞いてきた。
「あの宮司様、井戸はどこにあるのですか?」
「ああ、井戸はここを出て左側にあります。
ここの井戸は手押しポンプですから、簡単に水が出ますよ」
「ぽ、ぽんぷ、ですか?」
……不味い!この時代に手押しポンプの井戸なんてなかったか?
でも確か、紀元前の発明だとか聞いたことがあったんだが勘違いだったかな……。
「使い方を教えましょう」
そう言って俺は、女性たちを案内し手押しポンプの使い方を教えて驚かしていた。村長からは、村の井戸にもつけてほしいとお願いされるがお金がかかると断っておいた。
思い起こせば、凛さんたちもこの手押しポンプの井戸には驚いていたな。
すっかり忘れていた。
村長たちと別れて社務所に戻ると、歩き巫女のユメさんが出て行く所だった。
「あ、宮司様、一夜の宿をありがとうございました」
「ユメさん、もう出ていかれるのですか?」
「ええ、先ほど村の人たちの会話を聞いてしまいまして急いだほうがいいかと思いまして」
大きな荷物を背負い、鈴付きの背丈ほどある棒を持って立っていた。
その側には、見送りに出てきていた凛さんもいる。
「ということは、西に向かわれるのですか?」
「ええ、西の安芸へ向かうつもりです」
村長から聞いた話では、今回は三星城辺りで戦うとか。
この桜花神社から、少し西へ向かった場所にあるのだから今はもう戦の最中か目前といったところだろう。
このまま出ていけば、戦いに巻き込まれてしまう。
「ユメさん、今出ていけば戦に巻き込まれます。
戦が終わるまで、ここに残られるのがいいと思いますが……」
「あの、よろしいのでしょうか?」
「私も今、出て行くことには反対です。
ユメさん、せめて戦が落ち着くまで残ってもらえませんか?」
「……分かりました。
戦が終わるまで、ご迷惑をおかけします」
こうして、歩き巫女のユメさんを引き留めしばらく一緒に暮らすことになった。
この判断が正しかったのかどうかは、後々わかることになる……。
▽ ▽ ▽
「甚吉、そんな槍で戦えんのか?」
「平太兄さんこそ、長すぎない?その槍」
「お前ら静かにしろ、それより父さんがどこにいるか分かるか?」
三星城が見える平野で、各村々から集められた男たちがそれぞれ武器を持ち、それぞれで用意した鎧をつけて待機している。
所謂、雑兵たちだ。
雑兵は傭兵と変わらないが、領主の命で村ごとに出した兵士だ。
中には、嫌々参加しているものも多く全体の士気は低かった。
それと、村長の孫の三兄弟がこんなに落ち着いているのは周りにたくさんの味方になる人がいるからで、これから戦うという緊張感はあまり感じてないようだ。
ちなみに、三兄弟は全員槍を持ち鎧は厚手の服を着ているだけだったりする。
また、三兄弟の父親は何度か戦に参加しているのかしっかりと足軽のような鎧を着ていて刀を腰に差し、槍を構えていた。
配置された場所は、三兄弟の集まっている兵たちの後方にいるため三兄弟からは確認できない。
そして、戦に慣れた父親が精神統一していると前方より大声が聞こえてきた。
戦が始まったらしい。
「準備は良いかっ!敵はすぐ目の前だ!」
馬に乗り甲冑を纏った武士が、興奮した様子で大声を上げる。
そこへ、何本もの矢が飛んでくる。
「来たぞっ!掛かれー!!」
馬に乗った武士は、飛んできた矢を刀で払い除けながら戦闘開始を命令した。
運よく矢に当たらなかった三兄弟の父親も、三兄弟も槍を構えながら突撃する。
敵も味方も、大声を上げて自分を鼓舞しながら突っ込んでいく。
今回も読んでくれてありがとうございます。
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