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女神さまの願いを引き受けたおじさん  作者: 光晴さん


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第16話 雨降りに訪ねてきた女




村からの避難民を受け入れる準備が整った次の日、その日は朝から雨が降り続いていた。そんな雨の中、昼を少し過ぎたころ一人の女性が桜花神社の社務所を訪ねてきた。


「ごめんください、宮司様はいらっしゃいますか?」


開け放ったままの社務所の戸から、顔を覗かせ女性が声をかける。

その声を聞き、俺が応対に出た。


「はい、私がこの神社の宮司ですが……」


俺の姿を確認すると、その女性はかぶっていた笠を取り一礼して挨拶してきた。


「初めまして、私は歩き巫女のユメと申します。

村で一夜の宿を借りようとしたところ、こちらの神社を紹介されました。

どうか、今夜泊まる場所をお貸し願えないでしょうか?」


歩き巫女。

歴史では武田の歩き巫女が有名だけど……。

確か、特定の神社に所属せず、全国各地を遍歴し祈祷・託宣・勧進などを行うことによって生計を立てていた女性たちのことだったよな。


「もちろん、大丈夫ですよ。

どうぞ、荷物を置いてお上がりください」

「ありがとうございます」


歩き巫女のユメさんは、体に羽織っていた蓑を取り笠と一緒に入り口脇の外に吊るす。そして、布で服の濡れた個所を払いながら中へ入ってきた。

背に担いだ荷物を上がりの板間に置くと、その隣に腰を下ろす。


そこへ、凛さんがお湯の入った桶と手ぬぐいを用意して持ってきた。


「あ、ありがとうございます。

あの、宮司様の奥方さまですか?」

「いえ、私はこの神社でお世話になっているものです。

この桜花神社は、孤児たちを預かったりしているんですよ。そのお手伝いを」


ユメさんは草履を脱ぎ、足を洗いながら凛さんと雑談をしている。

盛り上がっているようだし、俺は何かオヤツでも用意するかな。



そう思い、台所へ移動するとアイテムボックスから鍋を取り出す。


「それじゃあ、今日は葛餅でも作るか…」


何を作るか決めると、さらにアイテムボックスから材料を取り出し料理を始める。


今回使う葛粉は、前の世界で手に入れたものだ。

前の世界で、葛を発見したのは偶然だった。ポーションを作るため、薬草を取りに森に入った時いろいろな植物を発見。


そこには、ジャガイモだのサツマイモなど大豆もあったな。

その中で、葛も発見した。

葛粉の精製に少し時間がかかったが、無事葛粉を手に入れたものの向こうの世界で葛餅を作ることはなかった。


だから、こうして苦労して作った葛粉を使えることはうれしいことだ。



「……よし、これで型に入れて10分ほど蒸す」


これまた、前の世界で作った蒸籠を用意して蒸すこと10分。

その時間が経過したら、蒸籠から取り出し水につけて冷やす。


その後、氷水に入れてさらに冷やし、冷えたらまな板の上へ。

そして、片面を手ぬぐいで拭き、水で濡らした包丁で食べやすい大きさに切る。

あとは皿に入れたら、きな粉と黒蜜を入れて出来上がり♪


お盆にお茶と一緒に入れて、ユメさんと凛さんにお出ししよう。




▽   ▽    ▽




「せいっ!はっ!!」


『箱庭』に移動させた家の前で、義綱君が木刀を振って鍛錬している。

この桜花神社に来て体力が戻ったころから、自分を鍛えるためにしていたのだ。


誰かに師事したわけではないので、我流とはいえしっかりした構えをしている。


「兄上、戦に参加するおつもりですか?」

「ん?千佳は反対なのか?」

「私だけではなく、姉上も反対しております」


家の縁側に腰かけながら見ていた、妹の千佳が声をかける。

妹の声に反応し、休憩をしながら答える義綱君。


「フム、美代も千佳も反対しているならやめておくか……」

「そうしてください。

それに、宮司様も反対するはずですよ」


体を鍛えるために始めた鍛錬だったが、長くやっているとどれだけ自分が強くなったのか知りたいがため今回の戦に参加してみようと考えていた。

だが、妹たちが反対するとは思わなかったようで、面と向かって反対されたため考えを変えたのだ。


「しかし、戦に参加しないとしても警戒だけはしておかないとな」

「そういえば、村の側で戦が行われるかもしれないとか……」

「それで、桜花神社に攻め込まれるかもしれないからな」


どちらかというと、攻め込まれるというより逃げ込んでくるのではないだろうかと思う。そして、避難している村の人たちと揉めるかも……。

千佳は、そんな心配をする。


「ところで、他のみんなはどこに行ったんだ?」

「姉上と琴は家の中にいますよ。

さえ姉さまとせん姉さまは、畑に行っています。収穫時期ですからね」

「そうか……」


そう言うと、義綱君は再び木刀を振り鍛錬を再開する。

鍛えることは悪くない、いざというとき戦えないとみんなを守れないからな。


「千佳~、さえさんとせんさんを呼んできてくれる?」

「ん?姉さまどうしたの?」

「千佳姉ちゃん、オヤツ貰ったよ、オヤツ」

「オヤツ?」


家の中から、美代が妹の千佳を呼びさえとせんを呼びに行ってもらおうとする。

さらにその後ろから、琴が顔を出し嬉しそうにオヤツの話をする。


「宮司様が、オヤツを届けてくれたの。

甘いものだから、みんなで食べようと思ってね?」

「それじゃあ、畑に呼びに行ってくるわ」

「お願いね、千佳。

兄さまはどうします?甘味」


縁側に降ろしていた腰を上げて立ち上がり、千佳は畑へさえとせんを呼びに行った。

それを見送り、美代は鍛錬を続ける兄の義綱君に声をかける。

同じく琴も義綱君を見る。


「なら、汗を流してくるから待っててくれ」

「はい、待ってますね兄さま」

「待ってるね~」


美代と琴は、そう言うと家の中へ引っ込んでいく。

義綱君は、素振りをやめると井戸へ汗を流しに向かった。



『箱庭』は、平和そのものである。






今回も読んでくれてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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