第15話 受け入れ準備
村からの避難民を受け入れるにあたって、俺はまず、みんなを集めて説明を行った。
俺と凛さん以外、村長の話を聞いてないからな。
まずは、これからのことを説明してからだと思ったからだ。
「ということだ。
それで、村から避難してくる人たちを受け入れるにあたり、俺と凛さんに義綱以外は『箱庭』へ移動してもらいたいんだよ」
村から避難民が来ると分かり、さえとせんの表情が曇るものの俺の提案にホッと胸をなでおろしたようだ。
この反応を見ても分かるように、さえとせんは『箱庭』への移動は賛成。
また、さえに起こったことは美代も千佳も知っている。
そのため、自分たちにもさえに起こったことがないとは限らないと義綱君も妹たちの『箱庭』への移動は賛成してくれる。
「琴はどうする?
お姉ちゃんたちと一緒に、『箱庭』へ行ってくれるか?」
この神社に凛さんと一緒に住み始めて五年たち、琴も今年で十歳になる。
自分で考えられる年にもなった。
「私も、移動する。お母さんは?」
「私は、鍛えていますからね。
残って、色々することがあるのよ」
「そう、なんだ……」
それに、凛さんは村の人たち、特に女性たちと仲が良いからな。
いなかったら、どこへ行ったんだと聞かれて面倒なことになると思う。
「大丈夫よ琴、寝るときは『箱庭』へ行くから一緒に寝られるわよ」
「……それなら、我慢する!」
琴は、お母さんが大好きなんだな。
それに、凛さんはさえたちの母親代わりをしているから、琴から見れば自分の母親を取られたような感じなのかもしれないな。
「拓海殿、これで残るのは俺と拓海殿に凛殿の三人か」
「ええ、そうです。
ただ、いつ村の人たちが避難してくるか分かりませんから今日の夕方から『箱庭』へ移動してください」
義綱君が確認すると、俺はいつ村人たちが避難してくるか分からないので今日の夕方には『箱庭』へ移動するためまた集まるように言う。
それを聞いて、全員が頷いたのを確認し一旦解散した。
みんなに知らせた後、俺は社務所の裏に回る。
そこには、この桜花神社で暮らすことになった凛さんたちが暮らすための家があった。この家は、俺のユニークスキル『箱庭』の中で作った後、空間魔法のストレージに収納しここ社務所の裏に出現させたのだ。
この家は、2000年代の家とは違い上下水道は完備していない。
そのため、水道管だの下水道管だのを心配することなく移動させることができた。
今回は、この社務所の裏から『箱庭』へ移動させる。
そして、『箱庭』から避難してきた村人たち用の体育館並みの広さを持つ平屋を持ってくる予定で、そこに避難してきた村人を預かることになる。
「これから境内の掃除の時間だから、今のうちに移動させておこうか」
俺は、目の前の家を収納し『箱庭』への扉を出現させた。
そして、『箱庭』の中へ入っていく……。
▽ ▽ ▽
桜花神社への避難受け入れの約束を取り付けてきた村長が、自分の家に戻ると一頭の馬が家の前につながれていた。
近くで見ると、その馬に見覚えがある。
村長は馬の持ち主を思い出し、すぐに自分の家の中へ入った。
「おお、村長。すまんな、また訪ねてしまい」
「いえ、後藤様の家臣の大内様には、いつも年貢のことでお世話になっておりますので。それで、どうされましたか?」
湯呑に入っていた白湯を飲み干し、手に持っていた湯呑を側にいたおばあさんに渡すと、要件を口にする。
「先ほどの兵のことでな、伝え忘れていたのだ」
「へぇ、それで何を……」
「うむ、此度の戦に何人集められそうか聞いておらなんでな。
今の時期、刈り入れ時で忙しい時期じゃろう?
いくら戦とはいえ、お主らの村の働き手を取っていくみたいでな……」
侍は、バツが悪そうに村長に話す。
この辺りはまだ兵農分離ができていないため、戦のたびに村の働き手が出て行ってしまうのだ。
また、この大内という侍は、自分で田畑をしているため戦で働き手がいなくなる苦労を知っている。だからこその言葉でもあった。
「大丈夫でさ大内様、刈り入れは、残った者たちでちゃんとできますわぁ。
それより、村の側で戦は勘弁してもらいたいんですが……」
「そこは問題ない。
此度の戦は、安芸の毛利氏の勢力拡大を防ぐことだからな。
それに、浦上殿や宇喜多殿の救援も取り付けることができたんでな」
この頃の岡山県は三つに別れ、西の備中国、東北の美作国、東南の備前国だ。
今回の戦は、備中松山城主となった三村家親が、毛利氏に属し備中で勢力を拡大。
備中の中心勢力となるとさらに勢力を拡大するため備前国や美作国へ侵攻したのだ。
ただ史実では、1566年に宇喜多直家の命を受けた遠藤秀清、俊通兄弟に短筒の火縄銃で撃たれて暗殺されることになっている。
「それでしたら、村からは三十人ほど出せると思います」
「この村からは三十人か。
もう少し出してもらいたいが、それが精いっぱいじゃな……」
「申し訳ございません大内様。
これ以上は、刈り取りに影響が出てしまいますので……」
「いやいや、相分かった。
この時期は仕方あるまい……」
そう納得すると、大内は帰っていった。
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