第14話 五年後の情勢
俺たちが、桜花神社で暮らし始めてから五年後の1565年ごろ。
この頃、美作国に勢力を伸ばしていた尼子晴久が病死したことで、安芸の毛利元就は山陽道を制覇し、その余勢を使って出雲に攻め込み、同年八月、尼子氏の本城富田城を囲んだ。
そのため、美作地方に派遣されていた尼子方の部将は続々と出雲に引き揚げていった。
そこを狙ったのが、美作国の後藤勝基だ。
勝基は、あっさりと尼子を裏切り備前の浦上氏と結んで、周囲の尼子方に与する国人衆を攻撃し始めた……。
そんなある日、村長さんが桜花神社を訪ねてきた。
相談があるそうで、顔色がすこぶる悪い。
「お久しぶりですね、村長。
今日は何かご相談があるそうですが、どうされましたか?」
社務所にある土間で、村長は俯いたまま立っていた。
板間に上がり、囲炉裏の側で聞こうかと思っていたが村長が動かない。
俺は、お茶を用意した凛さんと一緒に村長が喋るのを待っていると、意を決したように喋りだした。
「宮司殿、お願いじゃ!
村の者たちを、この神社に避難させてもらえんじゃろうか?」
「えっと、どういうことですか?」
俺は戸惑った。
村長の村とは、ちょうどいい距離の付き合いをしていたが、このような申し出は初めてだったからだ。
村民たちの避難とは、どういうことだ?
「村長、避難とは……」
「戦じゃ!
この辺りを支配しとる後藤様が、戦をなさるとのことで兵を出せと知らせがあった。
しかも、この村の側が戦場になるやもしれんらしい」
なるほど、それでこの神社に戦に行かない村民を避難させようということか。
でも、そうなると村は荒らされることになるな。
確か、この頃の戦に参加する兵士は盗賊と変わらない強奪をするらしいし。
食料や、女子供をさらい売り飛ばすこともあるとか。
……これは、この桜花神社も備えをしておいた方がいいかもしれないな。
「だから、お願いじゃ宮司殿!
村の者たちを、この神社に避難させてくれんか?」
「……分かりました。
村とは、ある程度付き合いもありますし引き受けましょう」
「おお、有難い。
早速、村のみんなに知らせて準備させよう。
宮司殿、本当にありがとう!」
そう言うと、村長は走って社務所を出ていった。
村長の勢いに驚いていると、お茶を出しそびれた凛さんが近づいてきた。
そして、お盆の上にあったお茶を俺の側に置き、凛さんも側に座る。
「宮司様、よろしいのですか?
村の方たちが来るとなれば、村長様の息子家族も来るということです。
そうなれば、さえとせんが……」
「そんなことにはならないと思いたいが、前があるからな……」
何年か前、さえとせんをいじめていた村長宅の息子家族の三人の子供が来たことがあった。それも、いきなり訪ねてきたのだ。
そして、境内の掃除をしていたさえに対して乱暴をしようと襲いかかったらしい。
そのときは、せんが社務所に駆け込んできて知らせてくれたため俺が対処し、さえは事なきを得たが三人はその後も何度となく神社に来ていたらしい。
だが、さえは三人の姿を見ればすぐに社務所に逃げ込むようになり、せんもまた同じように避難した。
だが、今回は村の人たちが避難してくる。
そんな村の人たちが避難している中で、三人に襲われることはないとは思いたいが対策はとっておいた方がいいかもしれないな。
「村の人たちが避難している間は、さえやせんを『箱庭』に避難させますか」
「それが良いかもしれませんね。
『箱庭』への出入りは、宮司様が認めない限りできませんし」
実は、この五年の間に凛さんたちには『箱庭』の存在を教えていた。
何せ、自分達が食べる食料は『箱庭』から運んでくるのだ。最初、凛さんたちは神社の食料に疑問を持っていたが、『箱庭』の存在を教えると納得していた。
それと同時に、俺のことを神の使いか何かと勘違いしだしたのだ。
もちろん、そのあたりのことは魔法で誤魔化しちょっと変わったことのできる人だということに落ち着いた。
あのままでいけば、俺が神の使いで敬われる立場となっていただろう。
……面倒くさい。
「では、さえとせんは『箱庭』に避難させましょう。
それと、美代と千佳、それに琴も避難させておきましょう」
「……そうですね、万が一ということもありますし。
ではここに残るのは、私と宮司様、それと義綱さんの三人だけですね」
「ええ。本当は、凛さんも避難してほしいんですが人手が足りなくなるので……」
「フフッ、大丈夫ですよ。
私もここ何年かの習いで、強くなりましたから」
凛さんたちが来てから、俺たちは神社でのんびりと過ごしていたわけではない。
今の世は戦国時代、何があるか分からないのだ。
それに、さえが襲われかけた件で防衛対策として護身術や剣術を習い始めた。
ただ、教える先生をどうするかで俺は女神様にもらったタブレットを通して、武術や剣術に刀術関連を教えてもらえるように交渉したのだ。
そして、そのあたりに詳しくなるゴーレムを作るための魔石を送ってもらえたのだ。
俺は、その魔石を使い人型ゴーレムを制作。
その人型ゴーレムを先生として教えてもらったが、かなりの成果を出していた。
特に、義綱君と凛さんは有名武将のように強くなっていったんだ。
そうなってくると、今度は武器や防具をどうするかで悩むがこればかりは商人を通じて手に入るものを用意しようと注文した。
ただ、まだその注文した品が届いてない。
これから村の近くで戦が起きるらしい。
となれば、この神社が狙われることも考慮しなければならない。
俺の、霧結界だけでは心もとないのだ。
この神社を護衛できる人型ゴーレムを制作するべきだろうか。
そうなると、俺が武器や防具を用意しないといけないな……。
今回も読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。