第11話 親子のこれから
俺は、項垂れる母娘に近づいた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、俺の方へ振り向き驚いていた。
まあ、塀の上から声をかければ驚くのも無理はない。
彼女たち親子の近くに行くには、塀を乗り越え近づかなくてはならない。音をたてずに近づくことは不自然になるからな……。
「え、ええ、だ、大丈夫です……」
彼女は、涙を拭うと立ち上がり側にいた娘を立ち上がらせると手を取り、歩き出そうとする。そこを俺が声をかけて止めた。
「待ってください」
「い、急いでい「……今のは、追剥ですか?」」
俺がさっきの男たちのことを聞くと、彼女は立ち止まって俯いてしまった。
そして、娘の手を握っている反対の手が震えはじめる。
「……見ていたんですか?」
「ええ、まあ、あなたの悲鳴が聞こえたので……」
そう言うと、彼女は俺の方を振り向き睨みつける。
「だったら、何故助けてくれなかったんですか!
あなたが声をかけなかったせいで、あいつらに!あんな奴らに……」
「……」
俺のせいにされても困るのだが……。
でもそれだけ、盗られた物は大事な物だったのかもしれないな。
「……大事なお金だったんです。
親戚を頼り、頭を下げてようやく借りてきたお金だったのに……」
彼女は呟くように、話しだした。
二年ほど前まで、農家の嫁として生活していたが夫が戦にかり出されて死亡。
男手がいなくなり、生活が激変。
その後、同じ村の男との縁談が持ち上がるがそれを断って都の親戚を頼って出てきた。
しかし、親戚には冷たくあしらわれるものの何とか頭を下げてお金を借りることができた。このお金で仕事を探し、母娘二人で何とか生きていこうとするが追剥にお金を奪われてしまった。
「……今さら村には戻れません。
村を出るなら、縁談の話しはなしだと散々言われましたから……」
縁談の話の相手が嫌だったのか、それとも他の理由があったのか。
何にしても、俺の目的のためには彼女の力を借りたほうがいいか……。
「それなら、俺のところで働きませんか?」
「……働く?
わ、私に、どんな仕事ができるというのですか?」
彼女は、少し警戒している。
もしかして、体を売る仕事とでも思っているのだろうか?
「何、孤児たちの面倒を見てほしいだけですよ。
俺はこれでも、神社の宮司をしていましてね?それで、子供を預かってくれないかと頼まれることが多いんです。
何人か預かっているんですが、俺一人では手が回らなくてね……。
どうです?衣食住に困ることはありませんが……」
「……」
彼女は考え込む。
嫌なら断ってくれてもいい、次の人手を探すだけだ。
「……分かりました、その申し出をお受けします。
それに、この申し出を断っても他に仕事なんてあるわけない。
なら、どんな仕事でもやりますよ。この子のためにも……」
そう決意すると、手をつないでいた自分の娘を見つめる。
娘もまた、彼女を見つめていた。
「俺は、石川拓海といいます」
「私は、凛といいます。
この子は、娘の琴です。これからよろしくお願いします」
こうして俺は、偶然ながらも労働力を手に入れた。
これから先、女神様の指示により子供を保護していくからな。
俺一人で面倒見るには限界がある、女性の大人が手伝ってくれるだけでもありがたい。
……ただ、俺の秘密は隠しておく必要がある。
「それで、どこの神社へ行けばいいのですか?」
「これから、俺が案内しますよ。
だから、今は眠ってください」
「え……」
俺は、睡眠魔法を凛と琴にかけると二人はすぐに眠り、その場に座り込んだ。
それから、霧結界を発生させ『箱庭』への扉を開くと再び人型ゴーレムに運ばせる。でも今回は、移動目的のために『箱庭』に少しの間滞在してもらうことになる。
次に目を開けるときは、俺の神社が見える場所にいることだろう。
▽ ▽ ▽
京の都を出て、認識疎外と光学迷彩の魔法を俺にかけて再び空を飛ぶ。
少し遅くなってしまったから、急いで戻らないとな。
それにしても、空を飛ぶことでようやく俺の神社がどこにあるのかが分かった。
俺が拠点にすることになった神社は、中国地方の美作の国の東の端に位置していた。
山陰地方ではなく山陽地方だ。
勘違いしていた俺は、地理が弱いということなのだろうな……。
でも、美作の武将って誰かいたかな?
この年代だと、どこが支配していたのかもわからないな……。
……まあ、戦に参加するわけでもないし巻き込まれないように気をつけるだけだな。
京の都から空を飛んで一時間ぐらいたつと、俺の神社が確認できる距離にくる。
上から見ると、結構な広さの敷地だ。
社務所の後方に、大きく広い空間が開いている。
あの場所に、孤児院のような建物を建てる予定だ。今その建物を『箱庭』内で建設している最中で、完成と同時に空間魔法であの場所に移動させる予定だ。
……さえとせんには、気づかなかったとかで何とか誤魔化せる魔法を使うしかない。
それよりも今は、凛と琴をどう紹介するか考えないと。
魔法で記憶を操ることは完ぺきではないし、誤魔化せればいいんだが……。
今回も読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。