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第10話 無法地帯




「……」


京の都の下京で、塀の前に座り込む三人の子供がいる。

その中で年長と思われる少年が、空を見上げながら呆然としていた。


少年の両隣にいる少女たちは、座ることすらできずに少年に頭を寄せて横になっている。もはや、生きているのかも怪しいほど衰弱していた。

このまま三人は、死を待つだけ状態だ。


そこへ、二人の侍が通りがかった。

片方は足軽装備で、三本の槍を布に包んでまとめた物を担ぎ、もう一方は太刀と布袋を持ちながら、上半身だけ甲冑を纏っていた。

これから、戦にでも出かけるような装備だ。


「太平、相変わらず都はくせぇなぁ」

「こんだけ、死体が転がってたらなぁ……」


槍を担いでいるのが太平というらしい。


「ん?そこに童が転がってるじゃねぇか?」

「……かぇえそうになぁ。ほらよ、これで何か食いな」


そう言って、太平は腰の袋からお金を投げてやる。

僅か三文の金だが、少年はそれを拾う気力もなかった。


「甚兵衛、こいつ死んでんじゃねぇか?」

「……いや、まだ生きてるみてぇだぞ」

「それにしちゃあ、拾おうともしねぇなんて……」


三人の少年少女たちに同情する大人二人。

しかし、少年は恵んでくれたお金すら拾うことができなかった。


「……いくぞ、太平」

「……ああ」


二人は、少年を見て諦め投げたお金を拾うとその場を離れることにした。

もはや、少年たちに未来は無いと悟ったのだろう。


去っていく二人の表情は、少し悲しい表情をしていた。

だが、今の京の都ではこの少年たちのような子供は多くいる。

もちろん、たくましく生きようとする子供もいるが、そんなのはほんの一部だ。



そんな光景を、認識疎外に光学迷彩を施して誰にも気づかれないようにしていた俺が見ていた。

何せ、女神様から保護を指示された子供がお金を前に何も動かなかった少年と、その両隣の少女たちだったからだ。


「……無法地帯だとの認識だったが、あんな人もいるんだな」


俺は人の情というものを見直しながら、少年の目の前まで移動する。

そして、少年の目の前まで来ると、しゃがみこんで少年に声をかける。


「こんにちは」

「……」


少年は目だけを動かして、目の前にしゃがんであいさつした俺を見る。

俺にかけていた認識疎外と光学迷彩の魔法は、俺が声をかけたことにより解除されている。だから本当なら、いきなり俺が目の前に現れたように見えるはずなのだが反応はない。

そして、すぐに興味をなくしたのか空を見上げる。


とりあえず、少年はまだ生きている。

少年の両隣で倒れている少女たちも、体が少しだけ上下していることから息はしているようだ。

だが、このままではすぐに死んでしまうだけだろう。


俺は立ち上がると、手に持っていたタブレットを見て救出する子供かどうかを確認し、霧結界の魔法を秘かに使う。

すると、昼間にもかかわらず俺を中心に半径十メートルほどが霧に包まれる。


「……これで、周りからは気づかれることはないか」


そう言って周りを確認すると、『箱庭』への扉をオープンする。

俺の右側二メートルの位置に、黒い扉が出現し中から人型ゴーレムが現れた。


この人型ゴーレムは、普段は『箱庭』で農作業に従事している。畑を耕す力仕事から種まきや水やりなどの作業までこなしているのだ。

そのため、少年たちを運ぶならこの人型ゴーレムの方が無理ないだろう。


「この子たちをベッドに、寝かせておいて」


人型ゴーレムは頷くと、まずは少年を抱きかかえ黒い扉を通り『箱庭』へ運んでいく。

少年を運んだあとは、倒れている少女たちを一人ずつ運んでいく。

三人とも運び終わると、黒い扉から顔を出して頷き黒い扉の中に引っ込んだ。


それを確認した俺は、黒い扉を通り『箱庭』の中へ。

その後、霧が晴れると塀の前に座り込んでいた少年や倒れていた少女二人は消えていた……。




▽   ▽    ▽




『箱庭』にある家は、丸太でできたログハウス風の家になっていた。

一階建ての平屋だが、一部屋一部屋の天井は高くなっている。


その家の寝室のベッドの上に、三人の少年少女が一緒に寝かされている。

ただし、その状態は今にも死にそうだ。


「とりあえず、回復魔法で内蔵機能などを回復させないと……」


そう思い、まず回復魔法を使う。

その後は、三人にちょっとずつ水を飲ませ水分補給だ。

これで少しは元気になるかな……。



俺は子供たちの世話を人型ゴーレムに任せると、認識疎外と光学迷彩の魔法をかけ直すともう一度京の都へ出る。

霧結界はすでに晴れているが、周りには誰もいないようだ。


「……まあ、誰かいても認識疎外と光学迷彩で分からないだろうけどね」


そう言って俺は歩きだす。

拠点に帰るには、まだ時間があるのだ。だから、今の京の都を見回ってみる。




しばらくタブレットの地図を見ながらウロウロと歩いていると、声が聞こえた。


「や、やめてください!それだけはっ!」

「うるさい!これはもう俺たちのもんだ!」

「そ、そんな……」


塀の向こうから声が聞こえたため、箒型飛行魔道具に跨り塀より高く浮き上がり覗いてみる。すると、そこには母娘二人に絡む三人の男たちがいた。


よく見れば、一人の男の手には袋が握られている。

どうやらその袋を、男たちに無理やり取られてしまったようだ。母娘を含めた全員の服装は、その辺に転がっている死体と変わらないような服でボロボロだ。


母娘も、男たちもやせていて栄養が足りていないように見える。

母親と思われる女性は、娘と思われる子供を抱きしめ悔しそうに諦めたようだ。


「おい、これで飲もうぜ」

「ああ、今日はついてるな!」

「アハハハ!」


そう言いながら、男たちは離れていく。

母娘はその場にへたり込んで動けないようだ。


「……無法地帯だな」


俺は呟いた……。







今回も読んでくれてありがとうございます。

今回でストックが無くなりましたが、なるべく毎日更新ができるように頑張ります。

次回からも、よろしくお願いします。

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