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第1話 終わりから始まる物語




「もう、そろそろか……」


俺は、目の前に見える魔王城を見上げながら、腕時計の時間を気にする。

今、この魔王城には、この世界の勇者とその仲間たち七人が最終決戦を挑んでいた。本来であれば、俺も決戦メンバーに選ばれているはずなのだが、ここ、魔王城の前でみんなの勝利を祈ることしかできなかった。


何故なら、俺は召喚された勇者でありながら弱いからだ。


俺が勇者召喚で、この世界に来たのは今から三年前。

当時はまだ、魔王軍の勢力も世界の三分の二を支配するほど強く、どうにかしてこの劣勢を覆せる力を欲していた。


そこで、人々が求めたのが『伝説の勇者』だ。

この世界にも、勇者召喚で招かれた勇者によって世界の危機を何度も救われた物語は人々の間では有名な話。

過去の文献にも、人々の祈りに呼応した神によりもたらされた『勇者召喚陣』より、違う世界より勇者を召喚したとあるぐらいだ。


今回も、魔王軍から世界を救ってほしいと『勇者召喚陣』を使い、俺が召喚された。


だが今回は、その召喚された勇者が魔王を倒せるほど強くはなかった。

ステータスは魔王軍と前線で戦っている者たちより低かったが、これは鍛えれば強くなるはずなので問題視してはいなかった。


過去の文献にも、召喚された勇者は、初めは弱いが成長速度がものすごく早くすぐに強くなるとあったからだ。


召喚した者たちが問題にしていたのは、俺のスキルだ。

召喚された勇者には、勇者と呼ぶにふさわしいスキルが備わっているはずなのだが、俺にはそれがなかった。

伝説の聖剣を扱えるほどの剣術スキルも無ければ、勇者だけが使える聖属性魔法のスキルすらなかったのだ。


最初、召喚失敗か?と考えられたが、勇者召喚陣はきちんと機能している。

それなら何故、俺のような勇者が召喚されたのか?

……その答えはすぐそばにあった。


それは、この世界で生まれ、仲間とともに魔王軍と戦いを繰り広げ、人々から『勇者』と呼ばれた者がいたからだ。

ならば何故、勇者として俺が召喚できたのか?


その答えも、俺のスキルを調べてすぐに答えが出た。

支援と回復に特化したスキルを有していたからだ。

おそらく神は、この世界の勇者の手助けができる者を呼んだのだと結論付けた。



それからの三年間は、勇者とその仲間たちにこき使われる毎日だ。

初めのうちは良かった。お互いの人となりが分かってなかったからな。

だが、それも最初の一月までで、俺が戦えないと分かると態度が一変。

勇者とその仲間たちの荷物持ちに格下げされた……。


そして俺は、勇者たちの荷物持ちとして使われる毎日。

そんな苦痛の中で、俺の唯一の楽しみは俺のユニークスキルの『箱庭』を育てることだ。


俺は召喚される前、育成ゲームが大好きだった。

だからだろうか、俺に与えられたユニークスキルがこの『箱庭』スキルだ。

このスキルは、表示される『箱庭』の世界を育てていくものらしく、初めは自然の森や海、山などしかないが、勇者たちとの旅の間に手に入れた薬草などの植物や、食べられる動物などを箱庭に投入していくと、どんどん箱庭の世界が成長していく。


ただ、唯一の弱点は『箱庭』で育った植物などを取り出すことができなかったことだろうか。せっかく美味しそうに実った果物を、取り出して食べることはできなかった……。


また、旅の途中の町の冒険者ギルドで教わった『魔法』や『錬金術』が役に立った。

この二つにより、『箱庭』の世界を開拓することができるようになったからだ。

もちろん、俺が直接開拓するわけではない。

『クリエイトゴーレム』という魔法で、ゴーレムを作り出し俺の代わりに開拓させるのだ。


おかげで、勇者たちからの扱いも気にすることなく旅が続けられた。


その旅も、おそらく今日で終わりだろうが……。

そんな思い出に浸っていると、一人の男が俺に声をかけてきた。


「タクミ!」

「……よう、ケヴィン。こんなところまで、良く来たな」


五人の屈強な冒険者の男たちと一緒に現れたのは、俺に『魔法』や『錬金術』を教えてくれた冒険者ギルドの職員だ。

まあ、俺の飲み友達でもある。


「リックたちは、向こうを見回ってくれ」

「了解。行くぞ!」


ケヴィンの指示を聞き、五人の屈強な冒険者たちはこの場を離れていく。


「いいのか?」

「ああ、この魔王城の周りは、あらかた鎮圧したからな。

残っているのは、その辺の冒険者でも倒せるほどの魔物しかいない」


勇者たちが突入した魔王城の周辺は、魔王討伐のために集まった戦士たちの戦場だった。本来であれば、魔族たちが住む町があったのだが、魔王城出現とともに魔王が現れてからは、この辺りは魔物の住処となっていた。


この世界では、魔族と魔王は別物だ。

現に、魔王討伐のために集まった戦士たちの中にも魔族が何人かいる。

この世界で魔族とは、一つの種族であり魔法に特化した人々なのだ。


他にも、エルフ、ドワーフ、獣人と種族の違う戦士たちが参加している。


「それで、タクミはこんな所で何をしていたんだ?」

「……俺は、魔王との戦いには足手まといだからな。

ここで、勇者たちが魔王を討伐して帰ってくるのを待っていたんだよ……」

「そうか……」


ケヴィンは、何かを察してくれたのかそれ以上は何も言わずに魔王城を見上げた。

勇者たちが突入して三時間。

魔王討伐が成功すれば、魔王城は跡形もなく崩れ去るらしい。

その前に、勇者たちが脱出してくるはずなんだが……。


「タクミ!あれを見ろ!!」


ケヴィンに言われ、指さす魔王城を見ると城内から一筋の光が空へ向かって放たれた。それからすぐに、魔王の断末魔が俺たちの所まで響く。


「今のは?!」

「ああ、魔王の断末魔だ。

勇者たちが、魔王討伐に成功したようだな……」


それからしばらくして、魔王城の正面から傷だらけではあるものの、しっかりした足取りで勇者とその仲間たち七人が姿を現した。

全員無事なようで何よりだ……。



勇者たちは、俺を見つけるとすぐに命令してくる。


「タクミ!回復ポーションを!」

「……ああ」


俺はすぐに、荷物の中から人数分の回復ポーションを取り出すと勇者たちに配る。

引っ手繰るように受け取ると、全員一気に飲み干した。


「っくはぁ!ポーションがこんなに美味いと感じるとはな!」


豪快に飲み干し、いつもはポーションを苦手としている勇者の幼馴染で斥候のブルックスがポーションを見直す感想を言う。


「それはそうでしょ、あの魔王を討伐したんだから!」


ブルックスと同じようにポーションを飲み干し、笑顔で言うのは賢者のドロシーだ。


「それに魔王との戦いで、持っていたポーション類を全て使い切りましたからね」


そう言うのは、ゆっくり飲んでいた聖女のアニー。


「あれは危なかったな。

もう少し戦いが長引けば、撤退もありえた話だぞ……」


冷静に魔王との戦いを振り返ったのが、聖騎士のシャロン。

その側には、ボロボロの鎧を脱いでいるもう一人の聖騎士ジェシカの姿が。


「まあ何にしても、魔王は討伐した!

俺たちのパーティーがやり遂げたんだ!」


そう鼓舞するのは、パーティーの年長者の聖戦士マルコ。


「さあ、凱旋だ!」


そう言って、勇者アンディは空になったポーションの瓶を投げ捨てると、仲間を引き連れて歩き出した。

勇者たちが離れていった後には、空のポーション瓶やボロボロの鎧に折れて使い物にならなくなった剣が三本置かれていた。


……いや、捨てて行ったのだろう。



「……あれが、勇者パーティーか?」

「ああ、アレが魔王を討伐した勇者パーティーだ……」


勇者たちを呆れた顔で見送る俺とケヴィンの後ろで、魔王城は音もなく崩れていった……。








読んでいただき、ありがとうございます。

半年ちょい、物書きから離れていたので今書きたい物を始めてみました。

これからまた、よろしくお願いします。


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