とりあえず全力で謝ります。
「はぁ…はぁ…はぁ…。こ、ここまで来れば一先ず大丈夫かな…。」
あれから無我夢中で走り、宿舎近くの門へ辿り着くと足を止めた。
ドキドキと煩い心臓を落ち着かせるため、一度大きく深呼吸をする。
「はー…。まさか…あの3人だけではなく、あの人にも会うなんてね…。」
先程会った人達の顔を思い浮かべ、はーっと大きなため息を吐いた。
「まさか…あいつ等もここにいるなんてね…。」
重い足を動かし、門の中へと入る。
「…あ。しょうぶ達置いてきちゃった…。」
今更だが、團本達を置いてきたことに気付く。
「どうしよ…。絶対怒られる…。」
サーっと顔から血の気が引く。
『ザッ』
「!!」
後ろに人の気配を感じ、ゆっくりと振り返る。
そこには、先程思い出した3人が立っていた。
「突然いなくなるから、心配したぞ?さき。」
いつもの優しい雰囲気が全くない、團本。
「なんで何も言わず、先に帰っちゃうのかなー?」
ニコニコと笑っているが、目がまったく笑っていない三田坂。
「おい…。何か言うことがあるんじゃねーのか?」
包み隠さず、不機嫌オーラを出している嵩嶺。
「あ…えっと…その…。」
3人を前に、ダラダラと汗を垂れ流す槍山。
「「「…。」」」
「も、申し訳ありませんでしたー!!」
全力で土下座をし、なんとかお咎めなしの許しを貰えたのだった。
「ところで、なんで先に帰ったんだ?」
あの後場所を変え、談話室で雑談をしていると、そういえばと團本が不思議そうに口を開いた。
「あ、えーっと…。」
流石に本当の事を口には出せないため、なんて言おうかと頭を巡らせる。
「あの後、お店で見てたら知らない人に絡まれちゃってさ。何でもその人の知り合いに似てたらしくて。あまりにもしつこかったから、走ってここまで来たんだ。」
そう説明すると、納得したのか團本は優しく槍山の頭を撫でた。
「そうだったのか…。怖かったよな。ありがとう話してくれて。他に何もされてはいないのか?」
「うん。大丈夫だったよ。」
本当は、大丈夫ではないとは言えずに言葉を飲み込む。
「さきは女の子なんだから、何かあってからじゃ遅いんだよ?今度何かあったら、俺達にすぐ声を掛けてね?」
分かった?と三田坂も槍山の頭を撫でる。
「うん。ありがとう…。」
心配してくれた事が嬉しくて、口元を緩ませる。
「久しぶりの外出だったから、疲れただろ?今日はもう早く部屋に戻って、夕飯までゆっくり体を休ませるんだぞ。」
「ありがとう。お言葉に甘えて、先に部屋に戻るね。今日は、久しぶりに皆んなと出掛けられて楽しかったよ。また、後でね。」
3人に手を振ると、自室へと足を向けた。
「さき!」
「?」
自室の前に着いたところで、声を掛けられる。
声のした方へ顔を向けると、走ってきたのか息を切らした嵩嶺がそこにいた。
「どうしたの?はやて。何かあった?」
「…手を出せ。」
そう言ってポケットから何かを取り出し、槍山へ渡した。
「え?これ…?」
受け取った物を見て、嵩嶺へと顔を向ける。
槍山の手には、とても可愛らしい青いブレスレットが置かれている。
「誕生日…何も渡していなかったからな…。それやるよ。」
恥ずかしそうに目を逸らしながら、頭を掻く嵩嶺。
槍山は、ブレスレットと嵩嶺を交互に見て顔を綻ばせた。
「ありがとう、はやて。凄く嬉しい!」
「そ、それだけ渡したかっただけだ。じゃ、また後でな。」
赤くなった顔を隠すように後ろへ振り向き、そのまま歩き去っていった。
去っていく後ろ姿を見てから、自室へと入る。
「ふふっ。」
先程嵩嶺から貰ったブレスレットと、三田坂から貰った耳飾りを机の上に置く。
「嬉しいな…。」
槍山は嬉しそうに微笑むと、ベットに足を運び、そのまま横になる。
「今日は色々あったな…。あの4人にまた会うとは思わなかった…。」
顔は見れなかったが、声を聞いただけで、彼等だと分かった。まさか…この世界で会えるなんて…。
はぁ…とため息をこぼし、そっと目を瞑る。
疲れていたのか、そのまますぐに眠りにつく。
かつて共に過ごした仲間達の夢を見た。
皆んな笑っていて、私に気付くと優しく微笑み、名前を呼ぶ。
『さき…!』
夢の中の自分は、嬉しそうにその輪の中心へと入っていく。周りを見ると、懐かしい顔が揃っていて、皆んな楽しそうに笑っていた。
皆んないる…。そう思っただけで、自然と瞳から涙が溢れた。
夢の中なのに、周りは困ったような顔をし、頭を撫でたり、優しく背中を撫でたり、そっと抱きしめてくれた。
それが凄く嬉しくて…切なくて…苦しかった…。
「…ごめ…な…さ…い。」
届くことのないその言葉は、涙と共に零れ落ちる。
『フワッ』
とても温かくて、大きな手が、ゆっくりと頭を撫でている。
その温もりに安心してか、また深い眠りへとつく。
撫でていた手は、その動きを止め、優しく涙を拭った。
「…どんな夢を見ているんだ…?さき…。」
撫でていた人物は、團本だった。
あの後、槍山に渡し忘れた物を届けに部屋へ向かった團本は、部屋の前に着くと扉をノックをした。
「さき。休んでいるところ申し訳ない。渡し忘れた物があるんだが…。」
中から返事は聞こえない。
夕飯の時にでも渡せばいいと思い、帰ろうとすると、中から泣き声が聞こえた。
「さき?」
先程の話を思い出し、1人で泣いているのではと心配になり、慌ててドアノブへと手を伸ばす。
『ガチャ』
開いてる…!
また鍵を締め忘れたのか?!
あれだけ鍵をしろと言ったのに!
…いや、先ずは様子を確認しなくては…!
急いで中へ入ると、槍山が寝ているのを確認する。
静かに近づき、そっと槍山の顔を見た。
「…!」
槍山は眠ってはいるが、悲しそうな顔をし、涙を流していた。
「…ごめ…な…さ…い。」
どうすればいいのか分からず、とりあえず頭を撫でる。
頭を撫でると、先程の悲しそうな顔から、安心した顔へと変わった。
ほっと息を吐くと、涙を優しく拭った。
「…どんな夢を見ているんだ…?さき…。」
またゆっくりと頭を撫でる。
落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。
ふと、近くの机へと目を向けると、そこに綺麗な耳飾りとブレスレットが並んでいた。
確かあの耳飾りは、たくとが渡していた物だ。だとすると、このブレスレットは…はやてだな。
團本はゴソゴソと、ポケットから槍山に渡そうとした物を取り出した。
その手には、青い綺麗な石が埋め込まれたネックレスが握られている。
それを机の上に置くと、團本は優しく微笑み、静かに部屋を出る。
机の上には、3つのアクセサリーが静かに輝いていた。
あれから2時間が過ぎた頃、槍山はゆっくりと目を開け、体を起こす。
伸びをし、時計へと目を向ける。
「あれから2時間も寝たんだ…。なんか、頭がスッキリしたかも。」
寝る前と比べ、明らかに頭がスッキリとしていた。
そろそろ食堂へ向かおうかと思い、ベットから降りようとする。
視界の端で、何かが光っているのが見える。
ふと、光っている方へと視線を向けると、先程貰ったプレゼントが夕陽に照らされ、キラキラと光り輝いていた。
「あれ?ネックレス…?」
三田坂や嵩嶺から貰ったのは覚えているが、このネックレスは誰からなんだろう…。
「確か、寝る前は無かったんだけど…。」
うーむ…。と考えていると扉をノックする音が聞こえた。
「さき?俺だけど…。」
「今開けるよ!」
扉を開けると、そこには團本が立っていた。
「夕飯の時間だから、食堂へ一緒に行こう。」
「うんっ!」
扉に鍵を掛け、團本と共に食堂へ向かう。
「…あれから、よく眠れたか?」
「ぐっすり眠れたよ。頭もスッキリしたしね。」
團本は優しく微笑むと、槍山の頭を撫でた。
「良かったな。」
「…!」
槍山は何かに気付くと、その場で足を止めた。
「?どうしたんだ?」
突然止まった槍山を、不思議そうに見やる。
「あのネックレス…しょうぶがくれたの?」
「えっ?!な、なんでそれを…?」
團本は顔を赤く染め、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「気付いていたのか…?」
「最初、誰からなのか分からなかったんだけど…。」
槍山は優しく微笑むと、團本を見つめた。
「しょうぶのお陰で、ゆっくり眠れたよ。ありがとう。」
團本は一瞬驚いた顔をしたが、また優しく微笑むと、槍山の頭を撫でた。
「さきは…笑った時の顔も凄く可愛いな。」
「?何か言った?」
「いや、お腹が空いたから、早く食堂へ行こう。たくとやはやて達も待っているからな。」
2人は急いで食堂へと向かった。
食堂へ入ると、沢山の隊士達が楽しそうに食事をしている。
「あ。来た来た。おーい、しょうぶー!さきー!こっちこっちー!」
声のする方へと顔を向けると、こちらに手を振っている三田坂がいた。
三田坂が座っている席へ向かうと、嵩嶺の姿がない事に気付く。
「あれ?はやては?」
「ん?はやてならあそこだよ。」
ほらあそこ。と、指差す方へと目を向けると、お盆一杯に料理を乗せている嵩嶺の姿があった。
「わぁ…。相変わらず凄い量だね…。」
「本当に凄いな!ちゃんとバランスを取りながら歩いているぞ!」
「いや、驚くのそこ?!」
「しょうぶだからねー。」
あははと、三田坂は面白そうに笑っている。
「なに楽しそうに笑ってんだ?」
沢山の料理を持った嵩嶺が、不思議そうに3人を見ていた。
「あっ。お帰りー。相変わらず凄い量だね。」
嵩嶺が持ってきた料理を受け取り、テーブルの上へと並べた。
「これくらい、普通だろ?」
きょとんとした顔で、3人を不思議そうに見る。
「いや…、この量はちょっとね…?」
「沢山食べるのはいい事だぞ。俺たちは成長期だからな!」
「ん?あー、うん。そうね…。」
「しょうぶだしねー。」
あははと笑いながら、槍山の肩に手を置く。
「はやてが来たから、俺達も取りに行こっか。」
「うん。」
「そうだな。」
3人は立ち上がると、食事を取りに向かった。
「今日のデザートは何かなー。」
槍山は鼻歌を歌いながら、デザートが置かれている場所へと足を運ぶ。
「今日も美味しそうなのが沢山…!」
目をキラキラさせながら、目の前のデザートを取っていく。
「デザートもいいけど、ちゃんとご飯も食べなよ?」
「分かってるよ!たくとはデザート食べないの?」
三田坂はちらっと、槍山が取ったデザートの山へと目を向ける。
「あー、俺はいいかな。」
「えー。美味しいのに。あっ。この果物凄く美味しいから、
後でちょっと分けてあげるよ!」
「ありがとう。ほら、早く皆んなの所へ戻ろう?」
席へ戻ると、各々自分が持ってきた料理を並べた。
「いただきます!」
目の前の料理を口へと運ぶ。
「今日も美味しいね。」
ニコニコと幸せそうに、ご飯を食べる。
「そうだな。こんなにも美味しいご飯が食べられて、俺達は幸せだな。ほら、さき。こっちも美味しいから食べるんだぞ。」
團本は、自分の皿にあったおかずを槍山の前へと置いた。
「ありがとう、しょうぶ。これも美味しいから食べて。」
今度は槍山が團本の前へと皿を置く。
團本は目の前のおかずを箸で掴み、口へと運ぶ。
「本当だ。これも美味しいな!」
他の隊員達は、2人のやりとりを見て、
(((お兄ちゃんと妹みたいだ…)))
と、優しい眼差しで見ながら思っていたのだった。
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
夕飯を食べ終わり、席を立つ。
「今日で休みも終わりかぁ。明日からまた仕事だねー。」
「そうだな。休みなんて、直ぐに終わってしまうものだな。」
ははっと、團本は可笑しそうに笑った。
「今度の休みは、あの川で釣りをしてーな。」
3人はそれもいいなと、嬉しそうに頷いた。
「そういえば、明日さき午後の鍛練名前が無かったけど、何か用事頼まれたの?」
三田坂は思い出したように、槍山へと顔を向けた。
「うん。明日は見回りの後、歌詠みの稽古があるんだよね。」
3人はその言葉に驚き、残り2人も槍山へと顔を向けた。
「歌詠みに選ばれたのか?!」
「凄いね。歌詠みに選ばれるって…。」
「歌詠みに選ばれる奴は、ここ数年いなかったと聞くが…まさか、こんな近くにいたなんてな。」
歌詠み…それは、この世界に一握りしかいないと言われている。
かつてこの世界には、すべての万物に対し神々がいた。
その中でも、空・風・大地・海・光の神は、他の神々の頂点に君臨していた。
歌詠みは、唯一その頂点に君臨する神々へと、言葉を交わし、その力を借りることが出来る存在なのだ。
歌詠みに選ばれる者は、領土で保管されている宝玉に、その者の顔が浮かび上がってくる事で、選ばれるとされている。
宝玉は、遥か昔、神々の頂点が創り出したとされている。
「あれ?言ってなかったっけ?結構前から稽古してたんだけど…。」
ん?と顔を傾ける槍山に、3人は苦笑いを溢した。
「さき、何も言ってなかったよ…。」
「まぁ、さきだしな。しょうがないな。」
「そうだな。コイツだしな。」
團本と嵩嶺は、何故か納得し頷く。
「稽古は誰がしてくれてるの?」
「ばば様だよ。ばば様ね…凄いスパルタ…。」
「ばば様が稽古つけてくれてるのか?じじ様ではないんだな。」
「あー。じじ様教えるの苦手なんだって。前は教えていたみたいだけど、あまりにも教え方が酷過ぎたらしくて、ばば様に飛び蹴りされたらしいよ。」
教えるのが苦手だって言ってたしね。と、槍山は笑いながら話す。
「じじ様にも苦手な事があるんだな。」
嵩嶺は意外そうに呟いた。
「じじ様、ばば様に頭上がらないからね。」
三田坂は笑いながら、胸ポケットから懐中時計を取り出した。
「あ。もうこんな時間か。明日も早いから、早く部屋へ戻るよ。」
「そうだね。部屋こっちだから、また明日ね!」
4人は各々、自分の部屋へと戻っていった。
「ただいまーっと。」
槍山は部屋へと入り、そのまま浴室へと向かった。
この宿舎は、部屋に浴室・トイレが別々に設置されている。
領主が、隊士達が少しでも休めれるようにと、設置したのだ。
シャワーだけ済ませ、ベッドへと足を運び、そのまま布団の中へと入る。
やはり体は疲れていたのか、目を瞑ると直ぐに眠りについた。
部屋には規則正しい寝息だけが、響いていた。




