第一話 異形の恋人その5
「お、和泉じゃん。え、違う?」
「狂さんじゃないんですか? うーん、そっくりだから、てっきり……」
迷宮図書館の館内に、ここに住み着いている連中が日々を過ごすテントが、通路のあちらこちらに見受けられる。
さて、前世の俺こと和泉狂太郎の友人を自称する平安貴族のコスプレを興じる男、藤原成々に連れられてやって来た場所だが、ヘルティクス第9965番区画と呼ばれる迷宮図書館に住み着いている連中が集団生活を送っている所謂、自治区のひとつのようだ。
「迷宮図書館はトンでもなく広大でおじゃる。ああ、麿はこの区画長を務めている」
「へえ、自治区長ねぇ。んで、この区画に住んでいる連中は何人くらいいるだ?」
「うむ、昔はもっと大勢いたが、今はあの二人だけでおじゃるよ。ふう、寂しいでおじゃる、本当に……」
「そ、そうなんだ……」
ヘルティクス9965番区画の範囲が、どこまでなのかは知らんないが、ここに住んでいる住人は区画長である藤原成々を含めて現在は、たった三人だけのようだ。
ちなみに、藤原成々以外のヘルティクス9965区画の住人だが、ひとりはボサボサ頭で無精髭、オマケにボロボロの袈裟という仏教系僧侶の格好をした巨漢のオッサン、そしてもうひとりは小豆色の古ぼけた和服姿の俺と同い年くらいの髪の長い女のコである。
「ああ、その二人は法劾と沙羅でおじゃる。さて、我が友、和泉狂太郎の転生体……アオイくんだったかな? ここへアルカルネを同伴してやって来たということは、あいつらが動き始めた兆候かもしれないな」
「あいつら? 邪神眷族群のことか?」
「うむ、その通りでおじゃる。んん、その本は音黒乃魅魂かな?」
「あ、ああ、レオナルド・ナイと名乗る黒ずくめの外国人から貰ったんだ」
「なるほど、ヤツも動き出したようだな」
「……では、やはり⁉️」
「うむ、麿達も動く時が来たようだ」
藤原成々を筆頭とした迷宮図書館ヘルティクス9965区画の住人と前世の俺こと和泉狂太郎を殺害した連中である邪神眷族群、それにあのレオナルド・ナイとの関係が気になるぜ。
とにかく、一般人が知ることがない裏の世界で何かが始まりそうな予感がする。
うーん、俺は関わっても良いのだろうか? いや、音黒乃魅魂とかいう魔道書を手に入れた段階ですでに……。