第一話 異形の恋人。
「た、ただいまッ! そして……寝る!」
とりあえず、帰宅したら家族に声をかけておかなくちゃな。
え、イチイチ律儀なヤツだなって? そうかな、そうなのか?
そんなことはともかく、今は寝る。寝れば幻聴も聞こえなくなるはずだしな。
「う、そういえば、音黒乃魅魂とかいう本を貰ったんだった。レオナルド・ナイとかいうアメリカ人から……」
むう、寝よう思ったのになぁ。レオナルド・…ナイとかいう謎めいたアメリカ人から貰った音黒乃魅魂のことを思い出したぞ。
こいつのことが気になってしまったじゃないかぁ! 寝るどころじゃなくなっちまったぜ!
おっと、なんだかんだと名乗っていなかったな。
俺の名前は、荒谷アオイ。一見すると女の名前に聞こえなくもない名前だが、紛れもなく俺は男だ。十七才、男子である。
オマケに学力、運動能力はともに普通。容姿も普通だと思う。
つまり、どこにでもいるごくごく普通の男子ってわけだ。
「よぉ、あ帰り。ん、その本はなんだ? 叔父さん、すげぇ気になるんですけど!」
「あ、ああ、マサル叔父さん。実は奇妙な黒ずくめの外国人から貰ったんだものなんだ」
「ほほう、さらに気になる。どれどれ、見せてくれ……音黒乃魅魂⁉️ 題名も奇妙なものだな」
「う、うん、まだ中身を読んではいないけど、多分、内容も奇妙なものだと思う」
さて、帰宅してすぐに出会ったのは、親父の弟であるマサル叔父さんだ。
ちなみにだが、俺の親父は長身で痩せているが、目の前にいるマサル叔父さんは、その逆である。
つまりチビでデブってわけ。オマケに親父はアニメやゲームといったジャンルに分類される娯楽が、超がつくほど大嫌いなのだが、またまた逆でマサル叔父さんは、アニメやゲームが大好きなヲタクである。
ん、とりあえず、そんな真逆な兄弟の共通点は、親父もマサル叔父さんもSERAENOとかいうメーカーの眼鏡を愛用しているところかなぁ……。
「まさかな? うん、あり得そうだ! よし、その音黒乃魅魂って本だが、俺も一緒に読んでいいか?」
「あ、ああ、そいつはかまわないが」
「うむ、実はな。ゲーム仲間から奇妙な本の話を聞いてな。もしやと思って」
「ん、奇妙な話?」
「ま、とにかく、お前の部屋へ行こう。詳しい話はそこで」
ゲーム仲間から奇妙な本の話を聞いた⁉️ ああ、なるほどね。それでマサル叔父さんは、俺がレオナルド・ナイとかいう黒ずくめのアメリカ人から貰った本こと音黒乃魅魂が気になったわけね。
『この人、無職でしょ? オマケに童貞っぽいわね』
「む、むう……」
ま、まあ、マサル叔父さんが童貞なのは真実だと思う。
ゲームやアニメの女性――要するに二次元世界の女のコにしか興味がないって公言している痛いオッサンだしね……って、今の声は一体⁉️ むう、また幻聴だ……再び幻聴が聞こえてきたぞ。
アハハ、俺はマジで精神的に疲れているだろうなぉ……。