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秋風に誘われて  作者: 剣世炸
けやき商編 番外編 真琴の恋
31/58

第3話 失恋

 新緑眩しい5月中旬。私たち「けやき商パソコン部」は、宇都宮にある宇都宮光陵女子高等学校に、遠征試合をしに行くことになった。

 顧問の若林先生の伝手で実現した今回の遠征試合は、日文パソコン入力スピード大会の全国大会レベルの問題を繰り返し練習・採点し、その得点で個人と団体での入賞者を決めるというものだった。

 今回の遠征は、先方の都合もありけやき商からは15名の部員限定での参加だった。

 仮入部期間の終わった5月のゴールデンウィーク明けの部活動で、新入部員も含めた校内選考が行われ、私・煉先輩・美琴を含む15名を選出、ゴールデンウィークの遠征試合が企画された。

 ところが…

「…」

 私は校内選考の結果を見て、複雑な気持ちになった。

 煉先輩が1位であることに変わりはないのだが、私がミスをしていなければ、私が1位通過になっていたからだ。

 そして、その結果が先輩の「全力」でないことも分かっていた。

 先輩には、先輩が心身共に全力の状態で勝ちたいと思っていた。

 そして、その時には…

 先輩の不調には、心当たりがあった。

 美琴達が入学してから、先輩とは放課後にカラオケに行ったりファミレスでお茶したりと、一緒の時を過ごす機会に恵まれるようになっていた。

 そういった時、最近の先輩は見ていて辛くなる程の作り笑顔を私たちに見せていたのだ。

 それ故、先輩の落ち込みぶりは、目を覆う程に明らかだった。

 恐らくは、鳳城先輩との関係が一向に進んでいないからであろう。

 それが分かっていながら、なかなか先輩と2人きりになる機会を作ることができず、先輩の力になろうにも、話すらできない日々が続いていた。

 一方…

「あれっ?」

「煉先輩?どうしちゃったんです?」

「…」

「…先輩?」

「…えっ?ああ。校内選考の結果のことか?」

「はい…。煉先輩、何かあったんですか…?」

「…最近、体の調子が悪くてな…。校内選考の時も、本調子じゃなかったから…」

「何か病気でもしてるんですか?」

「いいや、そう言う訳じゃないんだが…」

「…心の病…とか?」

「…」

「先輩!そうなんですか!?」

「…美琴達には、何も隠し事ができないみたいだな…」

 遠くから、美琴、三枝さん、そして先輩の会話が聞こえてくる。

 先輩と過ごしている時間は同じはずなのに、妹の美琴は、随分先輩に「信頼」されているように感じた。

「(…このままじゃ…)」

 何だか、美琴と先輩が一歩も二歩も先に進んでいるように、私は感じた。

「今度の遠征、美琴と紗代も選手に選ばれただろう?その試合の時に話すよ…」

「(先輩は、遠征の時に美琴達に話をするみたいね…ていうか、いつも一緒に放課後出掛けているのに、私の名前が無いなんて…それって…たまたまその場に私がいないから?)」

「…部長さん、練習始めてもよろしいかしら?」

「…ああ、亜美、じゃなかった…鳳城、頼むよ…」

「しっかりして下さいよ!じゃあ皆さん、練習問題125-38を出して下さい!」

「…」

「(やっぱり原因は「鳳城先輩」だわ…遠征の時に、先輩は美琴達に何か話をするみたいだし…よし!遠征前に、先輩と話をする時間を作ろう!!そして…)」

 私は、遠征前に先輩と2人きりで話をする時間を作ることにした。

 そして…



「真琴!お待たせ!!ホームルームが伸びちゃって、遅くなった。」

 遠征の2日前、私は美琴達に内緒で、放課後煉先輩を呼び出した。

 この日は「遠征前でも休息は必要だろう」という若林先生の配慮から、部活は全面的に休みとなり、自主練も禁止された。

 そこで、私は先輩と2人きりで話をするために、先輩を呼び出したのだ。

「いえ!私も今着いたところですから…」

「ところで、今日は美琴達は一緒じゃないのか?」

「はい。今日は部長と2人で話がしたいと思ったもので…」

「(…二言目には「美琴」って…先輩は、美琴のこと、どう想っているのかな…)」

「(って、私、もしかして妹に嫉妬してる!?)」

「真琴!どうした!?」

「いえ!何でもありません!!それより、どこかに入りませんか?」

「そうだな!立ち話も何だし…」



「いらっしゃいませ。何にいたしましょう?」

「俺はカフェラテで。真琴はどうする!?」

「えっ!?私も、部長と同じもので…」

「カフェラテを2つですね。かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」

「…部長は、こんなおしゃれなカフェ、いつも使っているんですか?美琴達と一緒には、来たことないですよね…」

「俺も店に入るのは今日が初めてだけど、クラスメイトがここのカフェラテが絶品だって言っていたもんだから…」

「そうですか…」

「ところで、今日は話がしたくて、美琴達を連れずに俺を呼び出したんじゃないのか?」

「(先輩、随分と直球すぎますよ…)」

「えっ!?まぁ、その…」

「何でも聞いてくれ!!」

「それじゃあ…先輩!最近調子が悪いみたいですけど、何かあったんですか?鳳城先輩とのことは、何となくは分かっているつもりではありますけど…」

「私「先輩に勝ちます」と断言はしていますが、先輩が「全力」の状態で勝ちたいんです!」

「先輩!私で力になれること、何かありませんか…」

「それは…美琴達にも聞かれたよ…」

「校内選考の結果発表の日、ですよね…」

「あの時の会話、聞こえていたのか…」

「全部じゃありませんけど、聞こえてはいました…」

「そうか…」

「…」

「…」

 2人に長い沈黙が訪れる。

 その沈黙を打ち破るように、タイミングよく店員さんが注文したカフェラテをテーブルに置いていった。

「…とりあえず、冷めないうちに、うちのクラスの連中が言っていた「絶品」のカフェラテを飲んでみようか…」

「…そうですね…」

 この時の「絶品」と言われているカフェラテの味は、よく覚えていない。

「…実は、今俺自身も「答え」を出せてはいないんだ。この「不調」の原因について…」

「「鳳城先輩」が原因なんじゃないんですか!?」

「…真琴は、俺と鳳城のやりとりを誰よりも近くで見ているから筒抜けだよな…」

「俺は1年以上前に鳳城に告白して、未だに答えをもらっていない。もしかしたら、このまま一生もらえないのかも知れない…でも、俺は可能性があるのなら、鳳城への想いを諦めたくないんだよ…」

「部長…今の状態なら、部長が仮に他の人を好きになったとしても、付き合ったとしても後ろ指差されるようなことはないと思います。それでも、不毛な恋だと分かっていたとしても、先輩は「鳳城先輩」を想い続けるおつもりですか?」

「(私ったら、何様のつもりで先輩に問うているの!?想いを告げられていないのは、他でもない私なのに…)」

「そうだよな…真琴に「不毛の恋」と言わしめて然るべきだよな…それでも、俺は鳳城とのことが整理できない限り、他の人を好きになったり、付き合ったりすることはないと思う。そんなことしたら、きっと俺は中途半端なことをその人にしてしまうと思うから…」

「先輩…」

 私の中で、何かが音を立てて崩れ去ったような気がした。

「(…私が先輩にできることは、何一つないみたい…)」

「(そして、私が先輩への想いを遂げることも、きっと…)」

「…分かりました!もし、私でお力になれることがあれば、遠慮なく言って下さい!!」

「(悲しいけれど、仮に今私が想いを告げたところで先輩がYESの返事をすることは絶対にない…)」

「(ならば、私は先輩の「後輩」として、力になれることがあれば力になっていこう!「恋の相手」ではなく「部活のライバル」として!!)」

…この日を境に、私の先輩への想いは少しずつ消えていった。

 私の、先輩との恋は、こうして幕を閉じたのだった。

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