一品目 ※丸の刺身と子※の唐辛子炒め ~お酒のつまみ [1]
昔々……暁闇歴900年頃、『現世』と呼ばれる世界のある山奥。そこには、とある女狐が居たそうな。女狐は人間…特に身体が引き締まった『男』を、己の身体で誘っては喰った。ただ喰うのではない。丁寧に血抜きをし、調理した後、誘った人間の頭を、調理した臓物を乗せた皿の横に置いて、じっくりと眺めながら料理と化した臓物を喰いつくす、何とも恐ろしい人喰いであった。人間だけでは喰い足りなくなった女狐は、老いにくく、死ににくい身体をいいことに『毒』にも手を出した。人間が食べれば異常を起こし、死に至る山菜や薬物、山の近くを流れる川に住む、毒を持つ魚。女狐はそれらも好んで食べていた。
ある日、突然女狐は行方を眩ませた。それまで彼女が付けていたと思われる記録も、その日の前日で途切れている。ただ、行方を眩ませたと思われる日のページは、彼女の血で厳重に封をされていた。
女狐が姿を消して以来、人は皆山を登り、女狐の住処を漁った。しかし、当時は女狐特有の文字を読めず、さらに強力な呪詛まで残していた為、女狐に関しての情報は解析不能だと判断された。しかし、暁闇歴1600年。遂に我々調査団は、女狐の記録を解析することに成功した。記録帳は合計500冊。血抜きから完成、調理の過程全てが、そこに記されていた。解析を進めれば進める程、女狐についての生態が明らかになっていった。
パタン…と本を閉じて目線を上げた少女。少女の前には、貴方が少女を不思議な目で見つめて立っていた。少女は、右目に眼を隠すための飾り、左目にはモノクルを付けていた。モノクルを外し、貴方を見つめて少女は口を開いた……。
私の名前は『管理人』、調査団が解析した書物を管理するただの人間でございます…。以後、お見知りおきを。
貴方は何を…?そう、女狐の事を知りたいと。これはこれは…今の若者は、このような迷信と化したお話に興味が無いと思っていたのですが…。いいでしょう。私が読み聞かせて差し上げますから、どうぞ、そこに腰かけてください…。机の上のお菓子を食べながら、ゆっくり聞いていって下さいませ…。
これから私目が話すのは、人喰い女狐の、一番最初の記録でございます…。
―暁闇歴900年9月1日
今日から、記録を取っていく。長い時を生きる私は、過去の事などすぐに忘れてしまうだろう。だから、私の事、私の身の回りにあった出来事……特に私が大好きな料理について記そう。
私の名は『杁袮』、古くから※※(汚れていて読めない)山に住まう、一匹の狐だ。好きな物は食べられる物全般と人間、嫌いな物は霊術師。よく山の帰りに迷い、我が家を訪ねてくる※※を招き入れ、食事をとらせた後、その※※を※※するのが好きだ。それ故に、私の事を『※喰い』だと罵る者も少なくない。
今日の夕方、人間が二人、我が家を訪れた。一人は色白だが、豊満で※み応えが良さそうな女。もう一人は、適度に日焼けしていて、健康そうで、程よく筋肉が付いた男。※べ応えがありそうな男女に、私は思わず笑みを浮かべそうになった。ぐっとそれを堪え、男女を安心させるようににっこりと微笑むと、安心したのか、胸を撫で下ろす男女。暗くなると危ないから、今日は泊まっていきなさい、と言い、私は男女を家に招き入れ、囲炉裏の前に座らせた。男女はさぞ嬉しそうに笑っていた。
「先程食べていた物しか残っていないけれども…それでも良ければどうぞ…」
そう言い、私は男女につみれ汁の入った茶碗を渡す。歩きっぱなしでお腹も減っていたのだろうか、あっという間に平らげた。
私が作ったつみれ汁。山の中ということもあり、町や村と比べると具の種類が少ないかもしれない。材料は、出汁に醤油とマイタケの粉末を、具には※の肉で作ったツミレ、ズイキ、玉ねぎ、人参を、最後の仕上げには味噌を使った。下準備、作り方配下の通りである。
最初に、※の首を折り、丁寧に血抜きをする。この際、綺麗に抜かないとつみれの味が悪くなる為、一滴も残さないように。その後、血が肉に付着しないように、丁寧に※を裂き、水で肉をよく洗う。※の肉は傷付けると不味くなるので、なるべく傷付けないようにする。
次に、※の腿肉を麺棒でよく叩き、柔らかくし、出刃包丁で細かくなるように何度も切っていく。その後、皿の中に肉、鶏の卵、デンプンを入れ、よくこねる。つみれの素が出来上がったら、ズイキ、玉ねぎ、人参を切っていく。ズイキは一寸ごとに切る。玉ねぎは繊維に沿って切っていく。こうすることにより、加熱しても形が崩れにくく、食感を残せる。炒め物、汁物などに適している。人参は乱切りで切っていく。表面積が大きい為、熱が通りやすく味がしみやすい。
材料が切れたら、出汁を用意する。私は醤油とマイタケの粉末を使う。醤油は、私が自ら育てた大豆を使い、ゆっくり醸造させた物だ。私が作っている醤油は甘露醤油。塩水の代わりに濃い口醤油を使って仕込んだこだわりの醤油だ。マイタケの粉末は、秋の山に出向き、取ってきたマイタケを干し、砕いて磨り潰した物だ。汁物に使えば、香ばしい匂いが漂う。さらに、夕餉にこれを使うことで、安眠効果をもたらしてくれるのだ。
鍋の中に水、醤油、粉末を3:1.5:1、という比率で入れる。水を鍋に入れ、その後醤油を入れる。沸騰したら、一旦火を弱め、粉末を二回に分けて入れる。一回だけだと、香りが広がらないので、必ず二回に分けて入れる。
再び火を強めたら、人参、玉ねぎ、ズイキの順番で入れていく。固い物から順番に入れると、食べ易いのだ。その後、つみれの素を一口大に千切り、鍋の中に落としていく。つみれが固まったら、最後の仕上げとして味噌を入れていく。白味噌を使うことで、醤油と合わさり、醤油の甘さを引き立てつつ、白味噌の香ばしさが具と合わさり、絶妙な味わいになるのだ。味噌がよく混ざれば、杁袮特製、つみれ汁の完成だ。
料理を作るのは好き、食べるのはもっと好きだ。それよりも、自分の作った料理を他人に食べてもらえるのが大好きだ。
今回はこのつみれ汁に、『隠し味』を入れた。男には『※※薬』、女には『※眠※』を入れてみた。街では白い粒の錠※が流行っているらしいが、私にそんな技術や材料は無い。だから、ありったけの知識を使い、模擬※剤成分粉末を作ってみた。それが効いたのか、女の方は、とろん…と眠そうな表情を浮かべ、男の方はぶんぶん…と首を振っている。まるで、『何か』を拒絶しているか…あるいは『何か』に耐えているか……。
眠そうにしている女に私は肩を貸し、別室に移動させる。その後、布団を敷いて寝かせる。すやすやと眠る女を横目に、私はそっと微笑んだ。私の笑顔は、どこか※気を孕んでいた。
男は、『何か』に耐え切れなかったのか、囲炉裏の前に寝込んでいる。私は男を起こそうと、体を揺らし、起こそうと試してみた。すると、男はむくり…と起き上がった。何か言いたげな表情で見つめる男。私は見て見ぬふりをして男を別室に移動させた。
「具合が悪いのであれば、ゆっくり休んだ方がいいですよ?薬もありますし…。…少々お待ちくださいませ。今薬箱を取りに……」
私の言葉はそこで途切れた。ぐるん…と視界が回る。ぎゅ…と目を瞑り、落ち着くまで瞼を閉じ続けた。恐る恐る目を開けば、目前に男の顔。ちらりと目線を動かすと、私の手首を押さえる男の手。再び目線を男に移せば、男の瞳に浮かぶ※欲の色。私は怯えた顔でそれを見つめる。男はその表情を見て、にやりと笑みを浮かべる。
男が私の身体を起こし、抱き締める。私は抵抗せず、それを受け入れる。
「…りたい……滅茶苦茶にして……や…る」
耳元で、情※に溺れた男の声がした。私は口角を上げて嬉しそうに笑う。そして、男を抱き締め返し、男の首筋に舌を這わせる。上擦った声を発する男に、私の身体は歓喜とぶるりと震える。そのまま私は男を…………
この日の記録は、ここで終わりでございます。
この女狐は、大層料理が好きだったようですね……。女狐のこだわりつみれ汁…私目もこれを戴いたら、舌鼓を打ってしまいそうです……。
血で汚れた部分は、私目にもわかりかねます故、話が曖昧なことにはご理解とご容赦を…。おや、次の日もまた、興味深い事が書かれておりますね。
区切りもいいことですし、紅茶でも飲んで一休みしましょうか…。




