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食らう  作者: 桂木イオ
2/9

虚ろな友達

 宴が通っている高校は、ある実験施設の跡地に建っていた。


 固く冷たい鉄の壁を抜け校内に入ると、まるで廃病院のような陰鬱さを感じるが、学校ということである程度は改装されている。教室は普通の学校のように、木の机や黒板が置かれている。


 宴がいつものように教室に入ると、親しい友人が、白く長い髪を床に垂らしながら教室の隅で震えていた。


「…宴、ちゃん」

「おはよう夢ちゃん。どうしたの?」

「あ、あのね、変なのが、いたの」

「?」


 普段とは違う友人の様子に宴が困惑していると、いつの間にかやってきた夜霧が、夢の肩にそっと手を置こうとしていた。


「夢、大丈夫?」

「来ないでぇ! あっちに行けぇ!」


 あざみ先生の手をはたき落とし、夢はヒステリックに声を荒げている。変わり果てた友人に戸惑いながらも、宴は夢を落ち着かせようとした。


「ゆ、夢ちゃん、あざみ先生だよ。しっかりして」


 しかし、宴の声は届いていないようだ。彼女は頭を抱え、しきりに何かをぶつぶつと呟いている。


「宴さん」

「はい」

「一時間目の授業はプリントを作っておくから、落ち着くまで一緒にいてくれない?」

「わかりました」


 宴を残し、夜霧は職員室の方へ行ってしまった。


 友人と二人きりになった宴は、夢に柔らかく語りかけた。


「夢ちゃん。大丈夫」

「…」


 絹糸のような白髪を指で撫でると、熱を帯びた細い身体が恐怖で打ち震えているのが、指先から伝わってきた。


「大丈夫。私がついてるから」

「…宴ちゃん…」

「夢ちゃんを襲う悪い奴は、私が退治してやるのだー!」


 おどけた口調で宴が言うと、夢は僅かに、いつもの朗らかな笑顔を浮かべたので、宴は少し安心した。


「ねえ、宴ちゃん。私の話、聞いてくれる? 宴ちゃんになら、話してもいい」

「うん。聞かせて」

「…ありがとう」


 涙を拭い、夢は自分の席に座ると、静かに話し始めた。


「私ね、二年前家の階段から落ちたの。その時強く頭を打ったらしくて、それから目がおかしいみたいなんだ」

「おかしいって…私、見えるよね?」

「…うん」


 何がおかしいのかわからず、宴は首をかしげた。宴の見る限り、目が悪いという訳ではないようだ。


「あざみ先生って、綺麗な人なんでしょう」

「うん。綺麗な黒髪で、身のこなしがどこか洗練で、モテるんじゃないかなあ」


 宴の話を、夢が悲しそうに聞いていた。

 何故、そんな顔で聞いているのだろう。

 あざみ先生の話をしながら、どうして夢がこんな話を聞くのか、宴には不思議で仕方なかったが、今まで一度も口を狭まずに聞いていた夢は、宴をまっすぐに見つめて予想もしていなかったことを口にした。


「私はね、あざみ先生が人間に見えないの。頭の裂けた、恐ろしい化け物に見える」

「え…?」

「私は、人間が人間に見えないし、地面も植物も、宴ちゃんとは違うように見えてるの」


 色素の薄い灰色の目をすっと細めた友人の顔は、悲しみに満ちていた。

 




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