甘い誘惑。
数時間前に宮旗と女が入った部屋は、マサコと俺でカップルの振りをして同時にラブホテルのラウンジに入り、動向を観察してたんで、どの部屋を使ったのか判ってる。
一人でラブホテルから出てくる所を撮った写真を確認して、暫く待ったが一向に浮気相手の女は出てこなかった。1時間も待ったが出てこない。別の出口から出て行ったのかと、もう一度、マサコと俺はラブホテルのラウンジに入り、受付に別の出口が無いか確かめに行くことにした。
「ちょっといいかなぁ?このラブホってさぁ別の出口とか用意されてる?」
派手なゴテゴテした付け爪の手しか見えない、縦15センチ横横30センチ程の、小さい枠の向こうの受付嬢に聞いてみた。
「うちには無いわね、そういうの。ここだけだわよ」
枠の向こうからぎょろりとした顔が覗いた、最初怪訝だったが、俺の顔を見て、表情を崩した。
「いや、何ぃ~?あんたイイ男ねぇ」
「…そりゃどうも…」
苦笑すると、隣に立ってるマサコは、またか、という顔をしている。
「えぇ~ちょっと、ねえ…お兄さん、あんたになら、こっそり教えても良いけど…ちょっとこっち、きなさいよぉ」
マサコは行って来いと顎で合図する。仕方ないので、扉が開けられた、受付の小部屋に入る。すると受付の女は俺の肩をなれなれしく抱き寄せ、俺の耳元に小声で囁く。
「あんな男か女か判らないのより、アタシのがいい女だけどさあ、アタシと付き合わない?」
そういう事を聞きに来たんじゃない。内心むっとしつつ、小さい受付の部屋の中で隣に座り、受付嬢の手を握り、営業スマイルで聞き出す。
「きれいな指だよなぁ凄く手入れ大変だろ?あんたみたいに努力家の女性って尊敬しちゃうなあ」
受付の女は少女のように赤くなり、そうでしょ、綺麗でしょ片手で5000円するのよと自慢した。聞きたいのはそこじゃない…。香水がきつくて鼻が曲がりそうだ。
「ところで、ホントにこのラブホテルは他には出口無いの?」
「そんな事、どうでもいいでしょ、無いわよ、鍵持ってトンズラされたら困るし、窓だってハメ殺しだし、5センチしか開かないからさ、出口はここだけよ」
受付嬢は完全に魅了された顔をしてる。声と顔がいいって罪だよなあと自分のことながら呆れる。どういう訳かマサコにはこれが通じないんだけどな。
最近は浮気調査避けに別の出口があったりするんだが、この格安ラブホにはそんな便利な物は無いようだ。
「ちょっとさぁ…A1の部屋見せて欲しいんだけど、いいかな?」
「えっ…いいけど」
受付嬢は慌てて身なりと髪を手で整えた。
「ほ、ほんとにイイの?彼女ほっといて」
「あんたがいいんだ…」
受付嬢の肩を掴んで、こちらを向かせ、額がくっつくほど至近距離で呟くと、受付嬢の目の中には、とろんと蕩けたハートが見える。
「あんたの名前、なんていうの?」
顎に指を添えて、上向かせ、微笑んで受付嬢の名前を聞くと、あっさりと教えてくれた。
「名堀 カヨです…」
「そっか、カヨちゃん、じゃあ部屋見せて」
「はい…」
完全に、誘惑が決まった。
ラウンジでちょっと待っててとマサコに合図して、カヨちゃんと部屋に行く。
A1の部屋の扉をマスターキーで開けて貰うと、中からは消臭剤のキツイ匂いがした。
部屋の中には女の姿は無かった。
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