7話 陽光の下
忘れられないことがある。
中学最後の公式戦、地区代表を決める決勝戦。
相手は今まで戦ってきた、どのチームよりも強く強敵だった。
必死に練習をしてきたつもりだったが、点差は広がっていくばかり。
勝てない、と心が折れた。もう無理だ。
そう思ってしまったからこそ、俺は仲間からのパスをとることができなかった。
そして、俺を信じてパスを出してくれた仲間の表情がずっと忘れられない。
「こんどはやけに、ニヤニヤしてるね。あずまん」
夕食のカレーを食べながら國見が指摘してくる。
こいつは、本当によく気づく。
「今日もカレーは美味しいなと思って」
「それは嘘っぽいな。まあ、いいけどさ」
いつもなら追及されるところだが、
気が変わったのか、見逃されたようだ。
「明日は朝とお昼ちょっとこれないから、自分でちゃんと用意してね」
「ああ、そりゃいいけども」
「ごめんね、明日は急に文化祭の準備をすることになっちゃって、ちょっと行ってくるね」
夏休み明けすぐにある、学校イベント文化祭。どうやら、國見は精力的に活動をしているようだ。
まあ、俺は休みの日は休むと決めているので学校が始まるまでんびりさせてもらう。頑張れ行動力のあるクラスメイト。
「俺の分も頑張ってな」
「あずまんは自分のクラスで頑張りなさい」
他愛もない会話をしながら、二人で夕食を過ごした。
「元気ならいいんだけど、辛い時は幼馴染に相談しなさいよ」
と、今回はさっさと帰って行った。
気を使って敢えて踏み込んでこないあたり、本当に國見には敵わないと思う。でも、もう少しで俺の日常は戻ってくるんだ。そうすれば、國見にも心配をかけなくてすむようになるだ。
(さてさて、明日のデートの用意をしなきゃな)
着ていく服を三時間程かけて、コーディネートし他に忘れていることがないか、確認する。
(そういえば、迎えに来るとは言ってたけど時間まではいってなかったな)
念話で確認しようかと思ったが、わざわざそんなことを聞くの気が引けたり
ここは何時に来てもいいように、朝早くに起きて男の甲斐性というのを見せてやろう。もちろん、わざわざそんなことをアピールしたりしないのだが。
目覚ましを4時にセットし布団の中に潜り込む。
(明日は楽しみだな)
ワクワクで眠れないのではないのかと不安になったが、なんてことはなく、すぐに眠りにつけた。
(東、起きて)
頭に直接響く念話は眠っているところには最高のめざましだった。
起きると、俺の部屋にアンジュが立っていた。
時計は午前2時、迎えに来るといっていたが早すぎでは?
4時に仕掛けたのは間違いだった。
「おはよう。夢に悪魔がでたりしなかった?」
「おはよう、あんまりいい夢じゃなかったよ」
いつもどうりの悪夢。忘れるなと言わんばかりにフラッシュバックしてくる、仲間の顔、捕れなかったボール。
本当に嫌な夢だ。
「ところで、こんな夜遅くにどうしたのさ?」
「悪魔と戦う場所の下見と打ち合わせを少々ね」
デートとは関係ないことで少しがっかりしたが、対悪魔の作戦会議だ、聞かないわけにはいかない。
「わかった、着替えるから待っててくれ」
アンジュには部屋を出てもらい、俺は寝る前に用意した服に着替えた。
(ちょっと、予定と違ってがっかりだけどこれもデートということで)
「じゃあ、行きましょうか」
と、外に出るとアンジュが手を差し出してきた。 ま、まさか、手を繋いで行くなんて、こ、恋人同士じゃないか!? 天使っていうのはこうもオープンなのか。
これも役得と思い、アンジュの手を握ると突然体が浮き上がった。
アンジュ背中に翼を出現させている。
「手を離さないでね」
言葉と同時に、上昇を始め俺の家がどんどんちいさくなっていった。
ちょっと、空を飛んで行くなんて聞いてないんだけど。
(ごめんね。いってなかったね)
ある程度の高さまでいくと、次はアニメのピーターパンのように大空を移動し始めた。
それだけ聞くと夢があるようだが、下に広がる景色はほとんど電気が消えていて暗く、地元が田舎なんだと再認識させられ、かなりの速度を出しており、雰囲気もなにもない。
ただ、天使の力のおかげか、寒さや速度による空気抵抗などは感じなかった。
「ここだよ」
ほんの1分にもみたない空の旅の終着点は俺のよく知る場所だった。
学校のグラウンド、それもよく慣れ親しんだ中学校のだ。
つい数ヶ月前まで、ここに通っていたはずなのに校舎をみると、哀愁を感じてしまう。
「ここで、戦うのか?」
「ええ、広いし人払いも楽だしね。それになりより、ここはプラス性質の魔力溜まりになってるの」
「魔力溜まり?」
「読んで字のごとく、魔力がたまっている場所。プラス性質ってのは私達天使が使ってる魔力のことで、マイナスが悪魔が使ってる魔力。つまり、ここなら私の方が優位に戦えるって訳」
思いでの地で戦ったりして欲しくないのだが、優位性があるっていうのなら文句を言うわけにはいかない。
「出来れば建物を壊さないようにしてくれれば嬉しいのですが」
「ここら、一帯に結界を張っておいたから回りの者が傷ついたりはしないから安心して」
流石天使、そこらへんは悪魔と違いアフターケアもばっちりだ。
「じゃあ東、ちょっとグラウンドの真ん中に立ってくれる?」
アンジュに言われたとうり、俺はグラウンドの中心へと移動した。いったいなにをするのだろか。
中心に立った瞬間、辺りが照らし出された。
何事かと振り返ると、アンジュを中心に巨大な炎が出現していた。
「アンジュ、………これはいったい?」
アンジュの表情に冗談という雰囲気はなく、いつの間にか、鎧を出現させ、まるでこれから戦いでも始めるかのような真剣な眼差しだった。
(悪魔が来るのは、もう少し先じゃあなかったのかよ)
アンジュは無言のまま腕を構える、その標的は間違いなく俺だった。
「嘘だろ」
アンジュが俺に向けて攻撃してくる、理由なんてないはずだ。
悪魔と戦っているんだから、俺に被害を与える理由がない。
アンジュの手から、炎弾が射出されるその数五つ。
(でも、もしこれまでの話が嘘で本当は悪魔と協力していたとしたら…)
これまでの話がすべて、俺を殺すための演技であったとしたら、
避けようと横に飛び退こうとした瞬間、
(動かないで!!)
咄嗟の彼女の念話により俺は動きを止め微動だにしなかった。
炎弾は五つ供すべて俺に当たることなく、通り過ぎていった。
炎弾を目で追うと、弾はすべてアンジュの炎に照らされ大きくなった影の中に入っていき、影から悪魔が炎に押し出されるように飛び出してきた。
(俺の影から悪魔!?)
炎は悪魔をはるか上空へと追いやるとグラウンド地面から魔方陣のようなものがいくつも浮き上がり、そこから先程のなん十倍も大きい炎弾が悪魔に向かって発射されていった。
上空を見ればグラウンドからだけではなく、街の至るところから発射された無数の炎弾が悪魔めがけて空を走っており、夜の闇は完全に消え去り、日中のように街全体が照らし出された。
(目を隠して!!)
アンジュの念話により、次の瞬間何が起きるか察し慌てて頭を守るように身を屈めた。
音も暑さも、なにも感じなかったがこの瞬間街の上空に太陽ができたことは見ないでもわかった。
赤い、赤い、太陽が。




