5話 帰りたい場所
「いた!! あずまーん!!」
アンジュと別れ、家に帰る途中聞き慣れた呼び声、國見だ。
なにやら、慌てているようである、どうしたのだろうか?
「あずまん、遅いよ。電話にも出ないで、なにやってたのさ」
「あっ、すまん。途中不良に絡まれちゃって逃げ回るのに必死でさ。電話も気づかなかったよ」
どうやら、帰りが遅く連絡もつかず、心配になって探し回っていたようだ。
流石に先程の悪魔との事は話せる訳もなく、とっさに嘘をついて誤魔化した。
「まったく!! 何時だとおもってるんだよ!!」
ご立腹な國見のいう通り、太陽が沈み始めていた。
「ごめん。 ついでに買い物も忘れた」
「もう、自分で買ったよ!!」
ここまで、怒っている國見を見るのは何年ぶりだろうか、こうなると逆らうことはできない。
「さあ、早く帰るよ!! カレーもできてるんだから」
國見は頬を膨らませながら、早歩きで帰っていくので、置いていかれないように必死についていった。
夕食のカレーはそれは、それは、美味しいできだった。
食べている途中、不細工なじゃが芋を見つけたりもして自分の不器用さを再認識した。
「流石、國見様。大変美味しいでございます」
「ふん」
帰ってからも、國見の機嫌は治らず、なにか話しかけてもそっぽを向かれてしまう。
先程から、ゴマをすりつづけているのだが、あまり効果が期待できない。
「どうせ、買い物なんてそっちのけで、憧れの美少女を探し回ってたんでしょ。手伝いもせず」
当たらずとも、遠からずというかちょっとだけ正解な所が恐ろしい。
道中はどこかにいないもなのかと回りを探したりもしたが、ほとんどの時間を彼女と過ごしたというのは國見も想像できないだろう。
しかし、昼間の出来事は大変だったな。
突然歩道橋が崩れたり、瓦礫をぶつけられて腕が動かなくなるし、挙げ句の果てに握り潰されて死にかけた。
あのまま、アンジュが助けに来なければ俺は死んでしまっていただろう。
死んでいたら、このカレーも食べられなかった………。
もう一口とカレーを口に運ぼうとしたが突然の手が震えはじめた。
あれ、え、目から涙が、なんで?
國見に気づかれる前に止めないと。
「あずまん…!! ご、ごめんね、冗談だよ。そんなに怒ってないよ、ちょっと意地悪したくなっただけだよ」
気づかれてしまった、拭っても、拭っても涙が、溢れる。
それを見て、國見はおろおろとあわてふためく。
心配かけたくないのに、涙は一向止まろうとしない。
「ごめんね!! 不良に追いかけ回されて大変だったよね?」
それにしても國見の奴、冷たい態度をとられたってだけで、俺が泣いたと思ってるのかよ。
「ごめんね、ごめんね、もうこんなことしないから」
「違うんだ國見」
多分俺は、
「カレーを食べれて嬉しいんだ」
カレーを食べて、國見と他愛もない話ができて嬉しい。
この場所にちゃんと帰ってこれて嬉しくて涙が、止まらない。
食器の片付けを済ませ、國見を自宅まで送った。
別れ際に
「大丈夫? 寝るまで一緒にいてあげようか?」
などと、真面目な調子で言われたので再度カレーが美味しすぎて泣いてしまったと、説明したがあまり納得いってない様子だった。自分で言っておきながら無茶苦茶な言い訳だと思う。
「呼んでくれれば、そっちに行くからね」
「来なくていいって!!」
これは絶対に設計のミスだと思うが、俺と國見の部屋は庭を跨いで隣同士で窓を開けただけで、お互いに行来ができてしまう。
こんな家があってたまるか!!
「呼ばないし、絶対にくるなよ!」
家に帰り、アンジュに念話を送る。
(聞きたい事がある)
(どうかした?)
(悪魔がいつ襲ってくるか、わからないのか?)
(………ごめんなさい。そればかりは、奴の気分しだいね)
(なら、悪魔に対する準備っていうのを、教えてくれ)
(街全体に罠を仕掛けてる所よ。奴が出現すれば、反応し攻撃を始める罠って所ね。上手くいけば一撃で消滅させれるわ)
その言葉を聞いて少しだけ気が楽になる。
次、目の前に現れた時決着する可能性があるなら、深く考える必要もないのかもしれない、と自分を納得させる。
(怖くなったの?)
図星だった。
國見と一緒に過ごして改めて、恐怖を感じた。
死ぬということ、死んでしまうということ、もうあの場所に戻れないということ。
だから、先程の事を嘘偽りなく全て喋った。
(戦わないといけないってのはわかってるんだ。だけど、もし殺されたらと考えたら落ち着かなくて………ごめん、さっきは威勢よく、協力するなんて言ったけど、こんな話して)
(気にしないでいいわ。私達はパートナーなんだから、そういった相談は大事よ。大丈夫よ、私がちょちょいのちょいっと倒しちゃうんだから、東は大船に乗ったつもりでいなさい)
アンジュのその表現になんだか笑いがでた。
そうだ、どうせ俺にできることはないのだ、彼女に任せるしかない。
(ありがとう、なんか気が楽になったよ)
(それじゃあね)
アンジュとの念話を終える。気持ちが楽になったとたん、なんだか一気に疲れが襲ってきた。
比喩表現としてでなく文字通り骨が折れる1日だった、早く眠ろう。
電気を消し、布団の中に潜り込む。
眠気が訪れ、思考がゆっくりと沈んでいく感覚。
まぶたが光を遮り、暗闇が視界を包み込む。
暗闇の向こうから、あの悪魔が笑っているのが見えた。




